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きょうは自分自身の思い出話である。瑞穂さんに「お題」をもらった1985年のことだ。僕は20歳だった。あの日のことは、忘れようにも忘れられない。
1985年11月17日は関西大学Aリーグの歴史に残る日になった。大学選手権3連覇中の同志社大学が大阪体育大学との全勝対決(ともに4勝)に敗れたのだ。スコアは、34-8。立ち上がりから大体大の強力FWが同志社を圧倒した。同志社は関西リーグで71連勝中であり、実に10年ぶりの黒星だった(滋賀県希望ヶ丘)。
当時の同志社は黄金時代だった。大八木、平尾らビッグネームが卒業したとはいえ、SH児玉、SO松尾、FB綾城ら才能あふれるBKに、PR木村、HO広瀬、FL杉本、NO8宮本など後に社会人ラグビーの軸になる選手達が揃っていた。
一方、雑草軍団の大体大選手にとって同志社戦に出ることこそ最高の名誉だった。この試合に出場できれば大体大に入った目的は達成できたと言っても過言ではない。試合前に、親に残す形見の写真として記念撮影している選手もいたほどである。この春にレギュラーをつかんだ僕も、心臓が口から飛び出しそうな緊張感の中で希望ヶ丘にいた。
試合前のウォーミングアップ。坂田監督が「きょうは調子いいんちゃうか」とつぶやいたことをよく覚えている。無心でボールを追い、タックルした。僕は京都生まれで同志社に憧れて育ったのでチームが圧勝ムードで戦っているのが信じがたかった。背番号15を付け、最後尾のポジションからなかば観客のようにFWの大攻勢を見守った。頼もしい仲間達の戦いはもちろん印象的なのだが、目に焼き付いているのは試合終了直後である。
スタンドで声をからして声援を送っていた100名を超える部員がグラウンドになだれ込んできた。いつもは、きつい練習に文句ばかり言っているヤツらがガッツポーズしながら走り込んでくる。どの顔も泣いていた。それを見たら涙があふれた。ブレザー姿の仲間が汚れることなんか気にせず、抱きついてくる。転げ回っているヤツもいる。同志社戦初勝利の歓喜は、想像を超えていた。
夜はなじみの店に集まって飲んだ。誰かが速報を伝える新聞を読み上げた。一文一文に歓声が上がる。翌日は、自転車に乗ってあらゆる新聞を買いあさった。どの新聞も無敵の王者の敗北を大きく取り上げていた。そのまま関西リーグで初優勝。大学選手権では1回戦で上田昭夫監督率いる慶應義塾に敗れたが、僕のラグビー人生のなかでも最も輝いていた時期だったかもしれない。宝物のような時間だった。
と、ここまで書いて思ったが、きょうと同じ日の思い出とか書けばいんだよなぁ。そういう書き方するとネタも増えるね。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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