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昨日来の台風が去った東京は、時おり吹く強風が木々の梢をゆらしているもののあざやかな秋晴れだった。
午前中に予選プール最終戦の開催が決定されたが、台風の被害状況が刻々と報道されるなかで一抹の不安をぬぐうことが出来ず、普段より早く自宅を出発した。
新横浜に向かう路線を乗り換えるたびに増えていく人、駅からスタジアムに向かって吸い込まれていく赤と紺のジャージの奔流を見てようやくこの日の試合の開催を確信した。
この大会を支える数多くの人々の献身によって10月13日予選プール最終戦・日本対スコットランドはキックオフを迎えることが出来た。
日本とスコットランド、ともに決勝トーナメント進出へ勝利を収めなくてはいけない大一番。
4年前のイングランド大会では日本が唯一苦杯を喫した因縁の相手は、今大会屈指のハーフ団を軸に攻守のバランスが取れた難敵だ。
67,666人、ほぼ満員に埋まったスタンドからの歓声を受けて両チームが入場した。
スコットランド代表が母国からのサポーターと共に「フラワー オブ スコットランド」を声高らかに歌う。
隣国の度重なる侵攻にも屈せず立ち向かった故事の歌詞とシンプルな旋律、ゆえに心を揺さぶられる歌。
濃紺のジャージを彩るアザミとタータン、そしてこの歌を胸に彼らはこの試合に臨む。
両国の国歌が終わり再び起こった大歓声を背に彼らはピッチに駆け出し、カウントダウンのコールが終わると同時にキックオフのホイッスルが吹かれた。
試合は終わった。
スコットランドは敗れ、決勝トーナメント進出が断たれた彼らの19年大会はこの時終わりを告げた。
試合後スタンドを埋めたサポーターにあいさつするジャパンを追いながら撮影したあと、グラウンドに残って作業を続けていた。
写真がアップされたのを確認し終えてふと耳を澄ませると観客が去った北側のスタンドの一角から聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。
試合の余韻をかみしめるようにスタンドに最後まで残っていたスコットランドのサポーターがバグパイプで奏でた「フラワー オブ スコットランド」だった。
先ほどまでの熱気と興奮が潮の引くように去った無人のスタンドに喨々と響いた旋律。試合前の大合唱とは違い哀愁を帯びながらもスコッツの誇りにあふれた美しい調べだった。
やがて母国への帰途につくであろう彼らがこの時奏でたのは力尽きるまで戦った代表への頌歌か、あるいはワールドカップへの惜別の演奏だったのだろうか。
わずか数分間の演奏、だが自分にとっては忘れがたいこの大会の記憶となった。
文/写真:井田新輔
井田 新輔
フォトグラファー。1961年東京生まれ。明治大学政経学部卒。 4年間の会社員生活を経て1989年よりスポーツフォトグラファーとして活動を開始し、現在はラグビー、プロ・アマ野球を中心に撮影を行っている。 ラグビーワールドカップは1999年ウエールズ大会より6大会連続でフルカバー。日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。
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