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5月15日、関西大学Bリーグの大阪体育大学ラグビー部が新ヘッドコーチの就任を発表した。その名を見て驚いた関係者やファンは多かっただろう。安藤栄次(あんどう・えいじ)といえば、早稲田大学時代に清宮克幸監督の下で2度大学日本一に輝き、4年時には後藤翔太とのHB団を組み、決勝で有賀剛キャプテンの関東学院大学を下したスタンドオフ(SO)である。卒業後は、NECグリーンロケッツ、三菱重工相模原ダイナボアーズでも活躍し、日本代表キャップも13保持している。
大体大は現在Bリーグながら、かつて全国大学選手権の常連だった(出場27回)。早大とは何度も好勝負を繰り広げている。3度のベスト4進出のうち2度は準決勝(国立競技場)で早大と対戦して敗れ、清宮監督就任一年目(2001年度)の早大とは、大学選手権2回戦で対戦し、54-58というトライ合戦で秩父宮ラグビー場を沸かせた。「早稲田には伝統があるが、大体大には魂がある」という坂田好弘監督の言葉も話題になった。坂田監督の勇退試合の相手も早大であり、ノーサイド後、花束を贈られている。大体大にとって早大は幾度も跳ね返され、そのたび学び、挑戦し続けた因縁の相手なのだ。
その早大のOBが大体大を率いるというのは興味深い。大体大は長らく同志社大学OBの坂田好弘監督(1997~2012)が率いていたが、後にも先にも関東の大学の卒業生が率いたことはない。筆者も大阪体育大学ラグビー部OBとして驚いた一人だ。しかし、早大、NECで活躍した安藤選手を何度も取材し、その実直で温和な人柄を知る者としては心から喜んでいる。
大体大の久門大朗(くもん・たろう)チームディレクター(TD)は、三菱重工相模原ダイナボアーズで通訳を務めたことがある。今回、ヘッドコーチ就任を打診した理由についてこう語る。「三菱重工相模原ダイナボアーズでともに戦った信頼出来る仲間であること。何よりも彼が持つコーチや10番(SO)としての知識や経験を生かしてほしかったからです」。
また外部の大学OBのHC就任は、低迷期を脱し再び大学選手権の常連チームになるという長期的強化への決意の表れでもあるという。さっそく、安藤栄次ヘッドコーチに、今の想い、コーチング哲学などについて伺ってみた。
──ヘッドコーチ(HC)を引き受けたいきさつを教えていただけますか。
「僕は久門TDとは同じ年齢なのですが、NECから三菱重工相模原に移籍した年に僕がプレーヤーで久門が通訳という関係でした。一年間をともに過ごし、その後も連絡を取り合う仲です。大体大が昨シーズンのAリーグとの入替戦に敗れ、体制を見直すということで私の名前があがった。打診を受け、しっかり考えた末、新たな道にチャレンジする良い機会だと思ってお受けすることにしました」
──安藤さんはずっと関東に住んでいますが、大阪に行くことに抵抗はなかったのですか。
「初めての関西なのですが抵抗はなかったです。少しドキドキしていますけれど(笑)。妻子を東京に残しての単身赴任になります」
──大体大のラグビー部については、どんなイメージを持っていましたか。
「僕が大学一年生の大学選手権2回戦(2001年12月23日)の印象が強いです。当時、清宮監督はセットプレーに力を入れていて、特にスクラムで相手を圧倒しようと自信を持って臨んだのが思うようにいかなかった。セットとフィジカルの強さは衝撃的でした」
──大体大に菊谷崇、久住辰也(ともに後に日本代表入り)がいた頃ですね。
「そうです。19歳の僕には衝撃的で(胸に)突き刺さりました」
──トップリーグとは指導法も変わると思います。
「より細かく丁寧に教えたいと思っています。安全にプレーしてもらいたいので、そういったスキルも教えた上で、トップリーグ、日本代表につなげていきたいです。日本ラグビーにとって重要な世代の選手たちを指導できるのはやり甲斐があります」
──ご自身も早稲田大学でプレーされていて、大学ラグビー独特の難しさというのはありますか。
「それぞれの大学に文化があります。早稲田では先輩から教えていただいて、普段の練習、生活の中で学んでいきました。大阪体育大学の築いてきたものを学び、OBのコーチの方々とも話をしながら、良いものは継承していきたい。大学はそれぞれのカルチャーをもとに、どうチーム作りをするかが大事だと思っています」
──熊谷工業高校、早稲田大学、NECグリーンロケッツと各カテゴリーの強いチームでプレーされていましたが、その中で学んだのはどんなことですか。
「高校時代は塚田朗監督の指導を受けたのですが、ラグビーも大事だけれど、その前に人としての礼儀など学びました。大学では清宮監督の下で理にかなったラグビーを学び、ラグビーの奥深さを知りました。NECは当時日本代表選手を多数抱えていたのですが、トップレベルでさえ、大事なのは基本スキルであり、それを80分間、いかに精度高く出せるかが勝利につながるのだと強く感じました。レベルが上がるにつれ、よりシンプルになっていきました」
──HCは初めてということですが、やってみたいという気持ちは強かったのですか。
「一度は経験してみたかったですね。三菱重工で5年間、BK(バックス)を中心にコーチし、グレッグ・クーパーHCの下ではアシスタントコーチを務めました。スーパーラグビーの考え方や、いま最先端で行われていること、考え方の情報を得ることができました。その中で、日本人、学生に何がベストなのということを考え、自分なりに新しいものを作ることができたら良いと思います」
──もっとも影響を受けたコーチは誰ですか。
「僕が三菱重工で最初にコーチングスタッフ入りしたのは、佐藤喬輔監督のときですが、当時のHCがジョージ・コニア(元NEC、日本代表)でした。練習の組み立ては主にジョージがやっていて学ぶことが多かったです。彼はニュージーランド(NZ)でプロ選手になる前に教員をしていた経験があるので教え方も上手かったです」
──安藤さんが理想とするラグビースタイルはありますか。
「グラウンドを広く使ってボールを動かすラグビーですね。どのエリアからも積極的に仕掛けるアグレッシブなアタックを見せたいし、作りたいと思っています」
──今回、新型コロナウイルスの影響でチームの活動が制限される中でのHC就任となりました。不安はありませんか。
「逆に言えば、いろいろ考えるチャンスでもあります。いままでの流れでは上手くいかない。それを考えてやっていくというのは、自分自身も成長できるし、ポジティブです。今だからこそできることがあるはずです」
──大体大では、BリーグからAリーグへの昇格が最初の目標になると思いますが、まずは、何から手を付けますか。
「昨シーズンの映像を見ました。まずはラグビーの基本であるセットプレー(スクラム、ラインアウト、キックオフなど)にこだわりたいと思っています。それが、ヘラクレス軍団と言われてきたカルチャーだとも思うし、安定したセットではなく、それが武器になるというベースを作りたいです」
──人生を生きる上で大事にしている言葉はありますか。
「高校のときのチームスローガンとして【挑戦するものだけにチャンスがある】という言葉がありました。節目節目で思い出すと原点に立ち返ることができました。この言葉を大切して、常にチャレンジしていくことを実践しています」
──Aリーグ昇格はどれくらいの期間で達成したいですか。
「一年で上がりたいです。単にAリーグに復帰するだけではなく、Aリーグのチームと戦えるベース作りをしなければいけない。将来のチーム力の基礎をつくる大事な一年間だと思っています」
新型コロナウイルスの影響でチーム活動ができない状況だが、コーチングスタッフはオンラインでコミュニケーションをとっている。久門TDによれば、大学が対面授業を再開するのは6月18日。しかし、部活動は未定だという。練習方法についても密集、密接を避けるなどの制限があるなかでラグビーのチーム作りは難しくなる。「マイター10カップ(NZ州代表選手権)のノースランドのHCをしているジョージ・コニアと連絡を取って、どのようにプレーを戻していくのか情報収集をしています。NZで成功したことを我々にも当てはめて考えられると思っています」(久門TD)。今季の大体大のスローガンは、【ONE WAY】。戻ることのできない道。向かう先は一つ、そうAリーグ昇格である。安藤栄次HCを迎えた大体大がどんなチームに生まれ変わるのか。楽しみにシーズン開幕を待ちたい。
文・村上晃一村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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