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「トイメンが元木と吉田」高校代表合宿で味わった“大挫折”。
──2012年から野球の楽天野球団、'18年からはサッカーの楽天ヴィッセル神戸の代表取締役も務める立花社長ですが、ラグビーと出会ったのはいつですか?
「小学校2年生からラグビーを始めてから、小学校、中学校、高校と成蹊(東京)でラグビーをしていました。父親も小学校から大学まで成蹊でラグビーをしていて、コーチもしていました。その父親に『楽苦美(ラグビー)』という当て字を教えてもらったことを憶えていますが、高校までは『苦』はなくて、とにかく楽しくて仕方なかったですね。ポジションは基本的にずっとスタンドオフです。高校代表の候補合宿の時だけセンターをやりました。そこに元木(由記雄)や吉田(明)がいて、衝撃を受けましたね」
──元木由記雄さん、吉田明さん、増保輝則さんとは同学年。神戸製鋼のV7メンバーで、日本代表のスター選手だった3人と出会ったのは?
「高校代表の合宿で大阪工大高に行ったのですが、ビックリしたなんてもんじゃなかったですよ。まず初日に体力測定をするんですけど、持久走や腹筋などの値が他と比べて著しく低い(笑)。成蹊でやっていた“楽しいラグビー”とはレベルが違いすぎて、ウチの先生が『ちゃんと育ててください』と怒られたくらいです(笑)。またそこで東西メンバーで試合をするんですけど、センターのトイメンが元木と吉田ですよ。こっちが僕と増保。オール東京に選ばれた時に『関東にもすごい奴はいるな』と思いましたけど、もう最悪でした。強くて、痛かった。『もう無理だな』と思うくらいの実力差で、“大挫折”でしたね」
──そして成蹊高校から慶應大学蹴球部(ラグビー部)へ進みました。
「入って初日で辞めようと思いました(一同笑い)。あまりにも練習が長いんですもん。普通の練習は3時間で終わるのですが、そのあとの『ジュニア練(習)』とかが長くて厳しい」
──それでも4年間続けることができた理由は?
「周囲の期待ですね。当時はNHKで慶早戦や慶明戦の放送があり、国立競技場も一杯になっていました。12月はスポーツ紙の一面がラグビーですよ。でも本当に毎日『辞めよう』と思っていましたよ。社会人になって25年くらいになりますが、あれほど辛かった4年間はないです。ただ精神的には鍛えられた4年間で、今となっては感謝しています」
W杯日本大会を契機に「ラグビーが毎週ニュースになるようなカルチャーに」
──大学卒業後はソロモン・ブラザーズ証券に入社。ゴールドマン・サックス証券時代には、コーチとして慶大に関わっておられます。
「'00、'01年の2年間コーチをしました。高田(晋作)が主将をしていた'00年('99年度)は優勝しました。栗原(徹/現慶大HC)もその時の選手です」
──なぜ証券マンとして働きながら慶大に関わろうと?
「私は大学でラグビーをやめましたが、同い年の選手(元木、吉田、増保ら)は日本代表になり、ワールドカップで活躍していました。伊藤剛臣(元日本代表)も同い年なんですよ。みんな凄いんです。私も仕事である程度結果が出るようになって余裕が生まれたので、慶應ラグビーのために少しでも貢献できたらと思って、上田さん(昭夫・元慶大監督/故人)にお願いをしました。慶大へ行く前、イギリスに1か月間コーチの勉強にも行ったんです。可愛がってもらっていた宿沢さん(広朗・元日本代表監督/故人)のご紹介でした」
──慶大でのコーチ経験を通して学んだことは?
「選手への声の掛け方ですね。たとえば高校卒業してドラフトで楽天に入ってきて、1、2年目はいいんですけど、3年目くらいになるとフレッシュさを忘れがち。彼らのモチベーションを維持するのは大変なんですが、そういう選手がどうやったらもう1歩頑張れるのか。非常に参考になりました。」
──どうコミュニケーションを取るかで変わってきますね。
「日本のコーチは評論家になりがち。『あの選手はダメだ』というのは評論家なんですよ。コーチというのは、選手とコミュニケーションを取って、ゴール設定をして、そこへ導く人のことです。毎年楽天のコーチには『ぜひ評論家になるのではなく、選手の良いところを伸ばしてほしい』『選手と向き合って、あなたの目標は何ですかと尋ね、じゃあその目標を達成していきましょう、とやってください』とお願いをしています」
──いよいよ9月20日にラグビーワールドカップ日本大会が開幕しますが、どんな期待をしていますか?
「大会が始まったら『本当に凄いことなんだ』とビックリされる方が増えると思います。ヨーロッパでの人気、知名度は凄いですからね。今回をきっかけにラグビーが毎週ニュースになるようなカルチャーになってほしいと思います」
──過去のラグビーワールドカップで最も印象的だったシーンは?
「一番覚えているのは'87年の第1回大会。実家で観ていたと思いますが、スタンドオフの(グラント・)フォックスが大会を通して126得点を記録して、ジョン・カーワンが90mくらいを独走してトライを取りました。もう、その衝撃は凄かったですよね。『こんな選手がいて、こんなことができちゃうんだ!』という。今でも鮮明に憶えているので、やっぱり日本大会でも子供たち、そして中学生、高校生に観てほしいですよね」
──ジェイミー・ジョセフHC率いる日本代表をどうご覧になっていますか?
「やはり前回大会で南アフリカに勝ったことが自信になっていると思います。それを引き継いで良い戦い方をしていますし、地の利もあります。リーグ戦突破の可能性は高いのかなと思っています」
「ラグビーのためなら、何でもやります」
──大会の成功はもちろんですが、日本ラグビー界にとっては大会後こそ重要です。
「前回大会では五郎丸選手(ヤマハ発動機)というスターが出ましたが、その後4年間の日本ラグビーはどうだったか。いま野球界もサッカー界もリーグをどうやって大きくするか、ということを真剣に議論しています。ラグビー界も一致団結して、リーグをどう盛り上げるか考えてほしいと思います」
──もしトップリーグのチーム関係者からお願いがあったら?
「ラグビー界の発展に寄与できる事で、私でよければもちろん協力させていただきます。私の父親のような存在の宿沢さん(為替ディーラーから電撃的に日本代表監督になり、就任直後の'89年にスコットランドに勝利した伝説的な名将(故人))から色んな言葉を頂いているので、思いも含めて継承したいですね。彼は早稲田で、僕は慶應ですが、垣根を越えて本当にいろんなことを教えてもらいました。本当に感謝しかない。これは僕の一生の宝物なので、恩返しがしたいなと思っています」
株式会社楽天野球団 代表取締役社長 立花 陽三
1994年慶應大卒、ソロモンブラザーズ証券会社入社。その後ゴールドマン・サックス証券へ入社。その間、慶應大ラグビー部コーチに就任し、全国大学ラグビーフットボール選手権大会優勝にも尽力。メリルリンチ日本証券常務執行役員就任を経て2012年株式会社楽天野球団 代表取締役社長に就任。2017年より楽天ヴィッセル神戸株式会社 代表取締役社長も兼任。
株式会社楽天野球団
2004年11月、50年ぶりに新規参入を果たしたプロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」を運営。創設9年目の2013年に初のリーグ優勝・日本一に。本拠地の楽天生命パーク宮城のボールパーク化を推進し、日本の野球場としては初となる観覧車の設置やフィールドの天然芝化を行う。2019年からはスタジアムの完全キャッシュレス化を導入した。
https://www.rakuteneagles.jp/
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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