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ラグビーの神様に恩返しをするために生きている!!
──田中さんはさまざまな分野でご活躍されています。現在取り組まれていることを教えていただけますか。
「株式会社グリッドのCEOをやりながら、吉野家のチーフ・マーケティング・オフィサーをしています。そして、公益財団法人日本スポーツ協会広報・スポーツ情報専門委員会委員です。有森裕子さんらオリンピアンの人たちと活動していますが、ミッションは日本のスポーツの価値向上です。日本スポーツ協会は元々JOCの親団体です。約100万人の指導者の管理団体ということもあって、最近起きている不祥事をなんとかしなくてはいけない。早稲田大学の教授、JOCの理事、日本サッカー協会の常務理事、県体育協会専務理事と僕の6人で、そのルール作りもしています。これは僕のライフワークです」
──ラグビーに関わり始めた、きっかけを教えていただけますか。
「平尾誠二さんです。中学生の頃にドラマの【スクール☆ウォーズ】が作られるきっかけになった試合(1981年1月7日 全国高校ラグビー大会決勝・伏見工業対大阪工大高)を花園ラグビー場で見てしまったんですよ。伏見工業が初の日本一になるのですが、そのキャプテンが平尾誠二さんでした。すごい内容で衝撃を受けました。その後、京都府立洛水高校に進学し、ラグビー部の門を叩きました。そこで出会ったのが命の恩人のラグビー部原田弘監督でした。そこからすべてが始まりました。原田先生には厳しく、高潔、フェアプレー精神、自由と規律などラグビーの本質を教えて頂きました。当時、日本一にもなった天理高校に合宿に行くなど、いろんな経験もさせて頂きました。僕はフランカーだったのですが、オール京都選考会で伏見工業高校のグラウンドで山口良治さんに指導を受けたこともあります。でも、その頃は、そういう環境にいる価値が分かっていなかった。分かっていたら何が何でも高校日本代表になれるように頑張ったと思います。」
──帝京大学に進学したのは、なぜですか。
「原田先生は京都の西京商業高校ラグビー部の監督時代に、早稲田大学に進んで日本代表SOにもなった星野繁一さんらを育てられています。その頃、早稲田大学OBの皆さんが帝京大学をサポートされていて、その縁で原田先生に背中を押されて帝京大学に行くことになりました。緩いスタートなのですが、結論を先に言えば、僕は今、ラグビーの神様に恩返しするために生きています。」
──ラグビーをしていたことが、いまの仕事に生きているということですか。
「いまの仕事のベースも、すべてラグビーから来ています。『チームワーク』、『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』などですね。大学卒業後、僕はヤオハン・ジャパンに入社しました。ヤオハンというスーパーは海外に広く展開していて、海外を飛び回りながら経営企画を勉強しました。ところが、29歳のときに会社が倒産したのです。その時僕は経営企画室にいて、倒産劇を間近で見ました。3,000億円の上場企業がなくなるなんて、当時は前代未聞でした。
そのとき、学んだことがいくつかあります。世界に3万人いる従業員を路頭に迷わせないために、愚直な経営企画のメンバーが死ぬ気で会社更生計画を作ったのです。その時、愚直な人間が仲間を守るために精鋭になっていくことを体感し『チームワーク、ビジョン、パッション』の大切さを学びました。優秀な人材は、現場から作られ、その三拍子が揃えば、どんな人でも優れた人間に成長できる可能性を秘めていると確信しました。」
──倒産後はどうされたのですか。
「早稲田大学ラグビー部の監督も務められた高橋幸男さん(現姓・松久)の広告制作会社でお世話になりました。そこで仕事を覚え、仲間と広告代理店を作りました。女子十二楽坊を中国で見つけ、日本で売り出しました。そうしたら紅白歌合戦に出るまでになりました。サッカーのレアルマドリードを来日させたこともあって、こちらも大成功しました。その後、独立してコンサルティング会社を経営しいまに至ります」
企業にも適用できる帝京大学ラグビー部の組織論
──田中さんは、ご自身の母校である帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督の著書「常勝集団のプリンシプル 自ら学び成長する人材が育つ岩出式心のマネジメント」(日経BP社)をプロデュースされたそうですね。
「ラグビー部のOB会の幹事長をしていたので、監督の近くにいることが多くなりました。帝京のラグビー部には暗黙知がいっぱいあり、これを形式知にしたら面白いのではないかと企画を考え始めました。帝京の組織論は企業にも適用できると考えたのです。そしてビジネス本にしたかったので、日経BP社に持ち込んだのですが、暗黙知を解明してみたら、世界最先端の心理学が詰まっていることがわかりました。岩出監督が自ら気付いて作られていた仕組みが、実は心理学に基づいたものだったのです。これには日経の方も驚いて、出版する運びとなりました。監督は教育者ですから、すべて抱え込まないで公開しようと言ってくださいました。要点を言うと、3つあります。1つ目は、自立型学習組織を確立しました。メンバー一人ひとりが自律的に考え、行動し、仲間を助け合いながら、自ら学習、成長する集団です。2つ目は、監督自身が思考を180度変えられたことです。組織は、トップである監督の思考以上にはならないということを体現されました。例えば、帝京のラグビー部は4年生が掃除、洗濯をするのですが、従来の下級生が行うというピラミッドとは逆を実行しました。3つ目は、ダブルゴールです。日本一になった先に立派な社会人になるというゴールを設けるということです。帝京が国立競技場で試合をしたときに、試合に出場せずブレザーを着ている部員が素手でゴミを拾っていたんです。僕は、それはやらされているの?と聞きました。すると、僕らはプレーできないけど、来場者に喜んでもらうためにできることは何かを考えて、やっていますと答えました。その瞬間、後輩を誇らしく思うと同時に、彼らが立派な社会人になるべく、大学4年間を岩出監督と共に過ごした選手たちを羨ましくも思いました。この本も、ラグビーの神様に恩返しする僕のライフワークの一つです。」
──今後やりたいことを教えてください。
「いま僕はマーケティングの仕事をしていますが、ベースはラグビーの精神、哲学で学んだ思考法と組織論をいろんな企業にお伝えする仕事をしています。これからもやっていきます。」
──それはどんな組織論ですか。
「ラグビーをしていた人がなぜ社会で成功するのか、個人的な興味があって研究しました。ギバーの法則というものがあります。ギバーとは与える人のことです。岩出監督が言っています。『自分が勝ちたいと思っているときは勝てなかった。学生を勝たせたいと思ったら勝ち始めた。学生を幸せにしたいと思ったら日本一になった』。岩出監督は与える人になったときに日本一になりました。原田先生もそうですが、与え続けている人は良い人材を輩出します。たとえば、バスケットボールのマイケル・ジョーダンは、みんなスーパースターだと思っていますが、実は努力の人です。行動心理学を勉強していくと、スーパースターになっている人に共通していることが一つだけあって、初期の段階でギバーのコーチに出会っているということです。これを会社組織に導入したいと思っています。素晴らしい上司がいると部下が成長するということです。」
「ひと・健康・テクノロジー」で外食産業の再定義
──ご自身はビジネスでどんなことをしていきたいですか。
「僕はマーケティングで様々なことを実践しています。去年は、SNSの世界で、吉野家、松屋、ガスト、ケンタッキーフライドチキン、モスバーガーと『外食戦隊 ニクレンジャー』を結成して広告換算で7億円くらいの効果があり、昨年のWOMJアワード・グランプリを受賞しました。そして昨年11月29日、肉の日でみんな集まれ、と言ったら40社集まりました。このあいだまで競争していた企業同士が、ともに作る共創になった。そういう時代なのです。近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という普遍的な哲学が好きで、自分だけ儲けるのはおかしいと思っています。三方よしの仕組みを考えれば、誰もノーと言わない、そういう社会課題の解決を考えるのが大好きです。吉野家は低単価、低利益率で大丈夫か?と言われていますが、僕たちは「ひと・健康・テクノロジー」で外食産業の再定義を実現できる会社になっていきたいと思っています。マーケティングの技術と組織の力、テクノロジーを使って結果を出していきたいです。」
──今年の9月20日には、日本で第9回のラグビーワールドカップ(RWC)が開幕します。どんなふうに楽しもうと思われていますか。
「一生に一度のことですから、東京、横浜の軸にチケットは買いました。なかなかチケットを取るのが難しかったですけどね。」
──過去のRWCで印象に残っている大会はありますか。
「1995年の南アフリカ大会ですね。ネルソン・マンデラ大統領が国家の高揚のためにラグビーを使った。これは文章で読んだだけですが、決勝戦で南アフリカに負けたニュージーランド側の記事で、『彼(マンデラ大統領)は16人目のプレーヤーだった。彼の人生からくる迫力の目を見たとき、もしかしたら我々は負けていたのかもしれない』とあった。インビクタスという映画にも描かれましたが、深い意味のある大会でしたね」
──今年の大会で、注目しているチームはありますか。
「チームとしては、イングランド代表に興味があります。チームの歴史とか背景も含めてですね。日本の皆さんには、それぞれのチームの背景も知ってみてもらえたらと思います。そして、やはり帝京大学の後輩に頑張ってほしいです」
株式会社吉野家 CMO
株式会社グリッド CEO 田中 安人
営業、人事、経営企画、海外、広告制作、スポーツマーケティング、エージェンシー・パートナー等の幅広い経験からマーケティング・コンサルタントとして多数の企業のCMO歴任。公益財団法人日本スポーツ協会広報・スポーツ情報専門委員会委員、フェアプレイ委員会選考委員長
・主な受賞歴/エグゼクティブプロデューサーとして2017ACC silver. 2018ACC silver
株式会社吉野家
牛丼を“うまい、やすい、はやい”で探求し、1899年日本橋にて創業、牛丼を発明した会社で明治、大正、昭和、平成、令和の五年号続く会社である。現在国内1,200店舗、世界合計2,000店舗を展開している。グループ会社には、株式会社はなまる、株式会社京樽、株式会社アークミールがある。
https://www.yoshinoya.com/
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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