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憧れの大分舞鶴ラグビー部。最後の一年は印象的
──ラグビーを始めることになった経緯を聞かせてください。
「私は大分県で生まれました。我々の時代は、スポーツ好きの子供たちにとって、大分舞鶴高校ラグビー部の黒いジャージーは別格の存在でした。大分舞鶴は昭和49年に花園(全国高校大会)で準優勝、翌年は優勝しました。大分駅だったと思うけど、でっかいお兄さんたちが凱旋した姿を子供ながらにかっこ良いと思いましたね。ちょうどその頃、オーストラリアの高校チームが大分に来て親善試合をしていました。それもカッコ良かった。だから、中学に入る前から、勉強して大分舞鶴に行こうと思っていました。近くにラグビースクールや、中学にラグビー部があったら入っていましたけど、なかったから、中学の時はバレーボール部でした」
──実際、大分舞鶴でラグビー部に入った実感はいかがでしたか。
「イメージとあまり変わらなかったですね。それよりも、スポーツというのはいろんな要素があるのだと、ラグビーをして初めて感じました。ボールゲームは下手だけど、ラグビーだけは上手い人もいるし、すごく足が速いのにラグビーは下手な人がいるでしょう。ちょっと押すと倒れるとか(笑)」
──ポジションはどこだったのですか。
「フランカーです。あの頃のフランカーはボールのそばには絶対にいなくてはいけなかった。ユニフォームが一番汚れていて、いつも、ぜいぜい息を切らしている。フランカーが良くないと勝てないというポジションで、プレゼンス(存在感)は高かったと思いますよ」
──高校の頃の戦績はどうでしたか。
「僕が入学する前の大分舞鶴は3年連続花園3位でした。僕が2年生の頃のチームは公式戦で一度も負けていません。花園ではベスト8で秋田工業と引き分けた。相手にはスクラムの強い太田治さん(明治大学→NEC、日本代表)がいました。それで抽選で次に進めないという思いをしました。それでも3年連続ベスト4、翌年がベスト8ですから、黄金時代ですよね。しかし、僕が3年生のチームは小粒でした。僕らが2年生の時に先生が『今年勝てなかったら、(来年は)チャンス無いぞ』と言っちゃって、俺たちは期待されていないことがわかっちゃった(笑)。新チームの新人戦では大分で優勝して九州大会に進出し、1回戦で筑紫高校(福岡県)と対戦しました。プロップに永田隆憲(早稲田大学→九州電力、日本代表)がいました。なんとか勝って、ほっとしていたら、2回戦で沖縄のコザ高校に負けました。地元の新聞に叩かれましてね。OBも含めてみんなからダメ出しされました。錚々たるOBが練習を見に来て猛練習ですよ。そうすると次第に強くなった。自分たちが強くなったという感覚はなかったのですが、最終的には花園で準優勝できました。印象的な一年でした」
ラグビー経験が生んだ発想は“個性を集めて適材適所で戦う”
──高校の体験は人生に影響を与えましたか。
「あのときの大分舞鶴はチームの雰囲気が厳しかった。失敗ばかりしていると、アイツは使うのをやめましょうと監督に進言する声が聞こえてくる。ドンマイ、ドンマイとか慰め合う文化はありません。緩みがない。だから、ラグビー部が楽しかった記憶はありません。そうでなければ、田舎の公立高校が全国制覇することはできなかったでしょう。それぞれの責任をしっかり果たさなくてはいけないという意味では、この経験は企業人として役立っていると思います」
──具体的には。
「我が社も最初から優秀な人材が集まっていたわけではありません。でも、生きる力、情熱はみんな持っていた。どうすれば勝てるかと考えたとき、個で戦うのではなく、グループ力で勝負しなければいけないと思いました。そうして組織力が生きるビジネスモデルにシフトしていきました。人材を育てるため、泊まり込んで研修できる場所を探し、朝から晩まで研修をし、風呂に入って、また教えて。社是を決め、仕事五原則を作り、ファーストプレゼンができるように約3カ月間教え込みました。オール・フォー・ワン、ワン・フォー・オールで行こうと本気で考えていました。その時、自分がこういう発想になるのは、ラグビーをやっていたからだと気づいた。背の高い選手、太った選手、足の速い選手、そういう個性を集めて適材適所で戦うのがラグビーです。そうやって組織を作ると、販売力が伸びてきたのです」
──社員にどんな言葉をかけていたのですか。
「僕は格言みたいなものが好きなのですが、たとえば、『人は自分のためだけには頑張れない』と言います。そもそも、人はそうなのだということを教えました。ラグビーのため、家族のため、何かのためになっているということを糧に生きないと、自分に返ってきたときに評価にならない、ということです」
みんなが好きで応援したくなるラグビーであってほしい
──会社設立15年後には東証一部に上場を果たしました。とても忙しい生活だったと思います。ラグビーのことを考えられるようになったのはいつ頃ですか。
「2011年、大阪証券取引所JASDAQ(スタンダード)に上場し、2012年に東証第二部、2013年に東証第一部に上場しました。その時、ラグビーの経験が生きました。どこかでラグビーに恩返したい気持ちが芽生えました。何から始めたらよいかと思っていたときに、宮城利行さん(元ティーガイア会長、故人)に出会ったのです。宮城さんは関西学院大学ラグビー部OBです。『安井さんは、そろそろラグビーに恩返ししたいと思っているに違いないと思って、会いたかったんです』と言うのです(笑)。宮城さんは日本ラグビーフットボール協会のマーケティング委員でもあり、『まずは、何をやりたいですか?』と言われて、中学生の全国大会を支援することにしました。それからずっと大会を見に行っているのですが、僕は中学生に体の大きな選手がいるだけで幸せな気分になるんです」
──そこからラグビー協会とのつながりができ、日本代表の支援にもつながるのですね。
「日本でラグビーワールドカップ(RWC)、オリンピック・パラリンピックが開催されるということで、その勉強も始めて、スポーツ事業にも本格的に入って行こうと動きました。今ではマラソンの国際大会、自転車競技会、楽天球団のファンクラブの運営、RWCのボランティアの面接会場運営などありとあらゆるスポーツ事業がセクターに入ってきています」
──現在、スポンサーになっているサンウルブズは、2016年からスーパーラグビーに参戦しました。
「決めたのは、記者発表の2週間くらい前です。代理店の方からチームのスポンサーをヒト・コミュニケーションズに頼みたいと言われたのですが、僕はそんな大きなプロジェクトにうちの会社ではダメだと言いました。謙遜でもなんでもなく。しかし、他が決まらず最終的にはラグビーへの恩返しの集大成だと思って受けました。僕にとっては、前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさんの言葉が殺し文句でした。日本代表戦は年に10試合ほどしかできない。スーパーラグビーで武者修行する以外に強化策がないということです。それと、日本が一番足りないのはスピードでした。ここはスーパーラグビーでの南半球勢との戦いでレベルアップしましたね。一番嬉しいのは、サンウルブズがなかったらここまで強化は上手くいかなかったと言われることです。少しは役に立てたかなと思う。RWCでは、プール戦をなんとか勝ち抜いて決勝トーナメントに進出してほしいですね」
──今後もラグビーへのサポートは続けていただけますか。
「どこまでやれるか分からないけど、誠心誠意、支援したいです。みんなが好きで、みんなが応援したくなるラグビーであってほしい。ラグビーの良さが、多くの人に知られるように広がってほしいと思います」
代表取締役社長 安井 豊明
大分県立大分舞鶴高校、福岡大卒。昭和63年富士銀行(現みずほ銀行)入行。平成13年に大手家電量販店に入社し、16年ヒト・コミュニケーションズ社長。大分県出身
株式会社ヒト・コミュニケーションズ
販売・サービス・営業分野に特化した成果追求型アウトソーシング事業を展開する。2016シーズンよりスーパーラグビー サンウルブズのオフィシャルスポンサーとして活動を支援。
http://www.hitocom.co.jp/
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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