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FIA F2で2年目を迎えた宮田莉朋の今(前篇) 〜スパ・フランコルシャンでの2位表彰台は嬉しいが、その裏で解決されていない問題〜
モータースポーツコラム by 吉田 知弘宮田莉朋(ARTグランプリ)
7月27日、2025年シーズンのFIA F2第9戦スパ・フランコルシャン(ベルギー)のフィーチャーレース。自身ベストとなる予選2番手からスタートした宮田莉朋(ARTグランプリ)は、ウエットコンディションの中で力強い走りをみせ、トップに迫る勢いで走行していたものの、後半にスピンを喫して4位でチェッカーを受けた。しかし、レース後にトップ2台に対してペナルティや失格の裁定が下り、宮田は繰り上がりで2位へ。念願の“FIA F2初表彰台”という結果になった。
これには、日本国内でも多くの関係者やファンが反応し、SNSでは彼の祝福する投稿や、ここからの後半戦に期待を寄せる声で溢れた。
2023年にスーパーフォーミュラとSUPER GT(GT500)でダブルチャンピオンに輝き、自身の夢を叶えるために翌年から日本を飛び出して、FIA F2に挑戦している。
宮田の一言がきっかけで、筆者は昨年のF2ルサイル(カタール)ラウンドに加えて、今年はシーズン中盤のシルバーストン(イギリス)ラウンドを現地取材してきた。
今年は名門ARTグランプリに移籍し、自らのリクエストでF2に専念する環境を整えた。生活拠点もイギリスに変更し、F2で結果を出すことを優先事項としてシーズンを迎えた。
開幕前のバルセロナテストでは好タイムを記録していたことから、周囲の期待も膨らむ一方だったが、いざシーズンが始まるとトップ10周辺でレースが続き、走行経験の多いバーレーンなどでも苦戦気味の結果に。
宮田莉朋(ARTグランプリ)
周囲の期待も相当大きかった分、“期待はずれの結果”にSNSでは落胆の声が増えつつあった。
シルバーストンで彼に会った時も、心が折れかけていそうな雰囲気も感じられたが、それでも「夢のために」と歯を食い縛っている様子がうかがえた。
前半戦からさまざまな問題に立ち向かいながら上位を目指していただけに、我々の想像を遥かに超えるような努力と苦労が報われたかと思うと……正直、こちらも胸がいっぱいになった。
しかし、それと同時に「シーズン序盤から宮田のマシンが抱えている問題は、本当に解決されたのか?」という疑問も、心の中では残っていた。
【スパのレース映像でも顕著だった“ストレートスピード“の差】
スパ・フランコルシャンでは予選2番手に食い込んだということで、特にフィーチャーレースでは今年一番と言って良いほど、宮田のマシンが公式映像に映し出された。
この日、国内ではスーパー耐久オートポリス大会の決勝が終わったあとの時間帯で、メディアセンターで彼の活躍を何人かのメディア関係者と観ていたのだが、そこで気づいたことがあった。
『宮田のマシンだけ、ストレートスピードが伸びていない』
これについては、シルバーストンで取材した時も「チームメイトと同じウイング角にしても、なぜかストレートスピードで差が出る」と宮田は話していた。
シーズン前半は後方グリッドに沈むことが多く、公式映像に映し出される機会が少なかったが、今回こうしてフロントロウスタートを勝ち取ったことで、彼が言っていた問題を改めて確認することができた。
本人はそこまで言及はしていないが、これに関係すると思われるのがシーズン序盤戦で苦しめられたタイヤのデグラデーション。シルバーストンで取材した時、彼はこんなことを話していた。
「なかなか信じてもらえないでしょうけど、僕たちのクルマは(美味しいところが)1周で終わってしまうんです。予選アタックに関しても、日本ではタイヤが丸々1周持ってくれて、場合によっては2周プッシュできちゃうところもあります。それがこっちだと持たないので……そこが日本と違うんです」
「でも、(トップ争いをしている)速いクルマはスタートからパフォーマンスを落とすことなく安定して速く走れている。デグラデーションはみんな起きるんですけど、その起き方や加減が違うというか……僕たちのクルマは起きてから、さらに落ちる感じがあるので、そこが課題で……そうならないためにどうしたら良いかを、チームもクルマをよくするために考えてくれました」
タイヤのデグラデーションに関して最も顕著だったのが、第4戦イモラ(イタリア)のスプリントレース。リバースポールを獲得して、トップからのスタートとなったが、周回を重ねるたびにタイヤが苦しくなっていき、最終的に6位でフィニッシュした。
「とにかく日本と違って、クルマ側で何とかしようにもフリー走行で45分しかないですし、その中で出来ることもすごく限られます。そういう部分も含めて、フリー走行・予選・決勝と、どうアジャストしたほうが良いかというのを皆で考えてやったのが、バルセロナでした」
宮田がそう語る第6戦バルセロナ(スペイン)では、昨年から走行経験の多いカタロニアサーキットが舞台だったこともあり、フリー走行から上位に食い込むペースを披露。予選では惜しくもトップ10圏内に入ることはできなかったが、スプリントレース・フィーチャーレースともに1周目からペースを上げて前を走るライバルをオーバーテイクしていく姿が見られた。
バルセロナでは、うまく行ったところがあったが、課題となっているストレートスピードという部分に関しても中盤戦に入っても大きな改善はないまま。本人はそう言っていなかったため、憶測の話になるのだが……ストレートスピードが伸びない分、ライバルと互角に渡り合うためにはコーナーで頑張るしかない。ただ、日本で主流となっているタイヤとは特性が大きく異なるピレリタイヤなので、そこのマネジメントはシビアにやらなければならない。
実際、スパ・フランコルシャンでのフィーチャーレースでも、レース後半にトップのアレクサンダー・ダンを追いかけていた場面でスピンを喫した。あの場面でもストレートが伸びない分、コーナーで頑張らなければいけない。そうして、知らず知らずの間に無理が生じていたのではないだろうか……。
いずれにしても、今季の残り4大会はストレートスピードが重要になってくるコースばかり。宮田も2位表彰台直後のTGRのプレスリリースで「まだトップスピードに悩まされている部分はありますが コーナー中のパフォーマンスは悪くなかったと思います」とコメントしていた。ここの課題を解決しないと、後半戦での好結果を出すのは、少々難しいかもしれない。
【起き続けるエンジン関係のトラブル】
スパ・フランコルシャンでの2位表彰台を見て、もうひとつ疑問に思ったのが『シーズン序盤から悩まされ続けたエンジン周りのトラブルが完全に解決されたか?』ということ。残念ながら、その疑問は1週間後に行われたブダペスト(ハンガリー)で明らかとなった。
ブダペストは、昨年も宮田が決勝で驚異的な追い上げをみせたレースということで、スパでの2位も相まって、期待していた人も多いはず。
しかし、フリー走行が始まってすぐにエンジントラブルでマシンストップ。予選ではマシンが直って普通に走ることはできたが、フリー走行で走れなかった代償は大きく、スプリントレース、フィーチャーレースともに下位に沈む結果に……つまり、今までと変わらない位置に戻ってしまった。
「今年に関してはトラブルが多すぎて、全く結果に繋がらない。メルボルンでは肝心な時にエンジンカットが起きてしまいました」
「もちろんチームも一生懸命やってくれているのでチームを責めるつもりはないです。だけど、前回のレッドブルリンクでもフォーメーションラップでエンジンが壊れましたし、シルバーストンでもトラブルで予選を走ることができませんでした。とにかく歯がゆいです」
「昨年だと、コースは知らないけどクルマは良かったから、もう少しこうしたらこうなるなというのがありました。だけど、今年はそこが上手くリンクできていないのが歯がゆい。もちろんドライバーの部分で力をつけないといけないところはありますが、それ以外の要素がけっこう多すぎます」
振り返ると、今季の宮田はエンジン周りのトラブルに悩まされ、不完全燃焼に終わるレースが多い。
昨年、自身最上位となる5位を獲得したメルボルン(オーストラリア)では、走行中にエンジンカットが時より起きる症状に見舞われた影響でトップ10圏内に食い込めず。
中盤戦のバルセロナで流れを掴んで、“勝負の1戦”と意気込んで臨んだ第7戦シュピールベルク(オーストリア)ではエンジントラブルでフィーチャーレースは全く走れなかった。
気を取り直して臨んだ第8戦シルバーストンも、フリー走行で良い手応えを掴むも、いざ予選に向かうとエンジンが不調になるトラブルに見舞われて、まさかの一度もタイムアタックが出来ずに終了。2レースとも後方からのスタートを余儀なくされ、上位に食い込むチャンスもなく、大会を終えた。
「今年に関してはトラブルが多すぎて、全く結果に繋がらない。メルボルンでは肝心な時にエンジンカットが起きてしまいました。昨年の経験があるなかで、それがうまく繋がらない歯がゆさはあります」
リザルトだけを見えると伝わりづらい部分ではあるが……それだけ、2025年シーズンの宮田にとっては、今年みせる予定だったパフォーマンスを出す機会に恵まれない“不完全燃焼”のレースが続いている。
このトラブルに関しては、チームもできる限りのことをやっていて、シルバーストンでも修復のためにチームが遅くまでマシンの修復に取り組む姿がみられた。ただ、エンジンやECU周りは、供給元であるメカクロームの管理となっており、チーム側もどうすることもできない領域なのだ。
それにしても今年はかなりの回数で宮田のマシンがトラブルに見舞われている。それに対して、ランキング上位陣など、トラブルが出ない車両には全くと言っていいほど出ない。この差は、何なのか……気になるところではある。
いずれにしても、今シーズンはモンツァ(イタリア)、バクー(アゼルバイジャン)、ルサイル(カタール)、ヤスマリーナ(アブダビ)の残り4大会8レース。次に繋げるためにも、さらなる結果を残す必要があることは確かだ。
しかし、現状の宮田とチームの頑張りだけでどうにかなるという話でもない。実際に現場で出来ることは最大限やっているという印象だが、それでもパフォーマンスを発揮する上で課題となっている部分が解決されていないように感じる。
この現状を打破するために……手がないわけではない。それについては、後篇でお伝えできればと思う。
【関連】2024年F2ルサイル(カタール)ラウンドでの取材記
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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