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ゴールを決めた植中朝日と渡辺皓太
どこか懐かしい気持がした……。AFCチャンピオンズリーグ決勝の横浜F・マリノス対アルアインFCの第1戦である。
アルアインは「引いて守ってカウンター狙い」だった。
そして、12分にはスローインからつないだボールをスフィアン・ラフィミがドリブルで運んでシュート。GKのポープ・ウィリアムスが弾いたボールをモハンメド・アルブルーシが決めて先制してみせた。ラフィミと対面していたエドゥアルドは完全に出遅れて、後追いになってしまい、ラフィミの速さにはまったく対処しようがなかった。
その後、アルアインは当然のことながらますます守備を強固なものにした。
かつて、日本代表が中東のチームと対戦する時には、このように「引いて守ってカウンター」という戦い方をするチームが多く日本代表は苦戦を強いられた。どんなレベルの相手であっても、分厚い守備を破るのは難しいことだ。
だが、最近は日本と対戦する時も中東勢はしっかりとパスをつないだり、前線からプレスをかけたりしてくるチームが多くなっていた。
ところが、アルアインは「引いて守ってカウンター」という“古典的な”スタイルで挑んできたのだ。
記者会見の席でそのことについて質問されたエルナン・クレスポ監督の答えはこうだ。
「ACLではこのように戦って、われわれの実力で決勝まで辿り着いたのだ」
アルアインは西地区の準々決勝ではアルナスル、準決勝ではアルヒラルを倒して決勝進出を決めた。どちらもサウジアラビアを代表する金満クラブである。アルアインにとっては格上相手にカウンターで勝負して勝ち抜いてきたというわけである。
実際、GKのハリド・エイサを始めDFは強力だったし、前線にはスピードのあるラフィミやうまくスペースに入り込んでくるマティアス・パラシオスのように、カウンター攻撃にはうってつけの選手がそろっていた。
そこで、クレスポ監督は横浜F・マリノス相手の決勝でもこれまでと同じ戦い方を選択したのだ。言葉を変えて言えば、彼らは「横浜FMが格上」と認めたわけだ。
もちろん、カップ戦で格上を倒して優勝を狙うためにそういう戦い方を選択することは当然のことだ。昨年(2022年度)のACLの決勝では、浦和レッズがアルヒラルに対して守備を固めてカウンターを狙いに徹して勝利してアジア王者となっている。
早々にリードしたことで、アルアインはカウンター狙いの形をますます徹底した。
これを攻め崩すのは容易なことではない。横浜FMは何度もチャンスを作ったが、GKのハリド・エイサが当たりまくり、またゴールポストにも嫌われてどうしても得点できない。
こういう展開になると、焦って攻撃を仕掛けてさらにカウンターを狙われていた可能性もある。だが、横浜FMの選手たちは冷静だった。相手のカウンターに対して警戒を怠ることなく、落ち着いて攻撃して焦らずにゴールを狙い続けた。それが、逆転劇につながった。苦しい中でも規律を守りきったことこそが、一番の勝因だった。
そして、72分になってようやく右からのヤン・マテウスのクロスに合わせた植中が決めて同点ゴールが生まれた。
0-1 の後半27 分、植中朝日がヘッドで決め同点に
相手が中央の守備を固めてきた時の打開策の一つが2列目からの攻撃参加だ。
植中の得点はまさにこの形だった。ゴール前を固めていたアルアインの守備陣は植中よりワンテンポ遅れて入ってきたアンデルソン・ロペスに集中してしまったため、植中をフリーにしてしまい、ヤン・マテウスのクロスはアンデルソン・ロペスの頭を越えてフリーの植中のところに落ちた。
決勝ゴールとなった2点目も、やはり2列目の渡辺皓太だった(渡辺は、60分からアンカー・ポジションでプレーしていたが、植中の故障で山根陸が投入されてから、渡辺は2列目に上がっていた)。
渡辺の得点は、最初はオフサイドの判定だった。右サイドのヤン・マテウスからのクロスを宮市亮がボレーシュートを試みた瞬間、渡辺がオフサイドのように見えたのだ(僕自身もオフサイドだと思った)。
当初はオフサイドの判定だったがVAR の介入でゴールが認められた
だが、実際にはマティアス・パラシオスがゴールライン近くに残っており、渡辺はオンサイドだった。パラシオスがラインより遅れていたので、ギリギリのラインを見ている副審にはパラシオスが目に入らなかったのだろう。
あの場面でパラシオスがラインコントロールに加われなかったのは、一つにはパラシオスはアタッカーであり、守備の連係に慣れていないからだったし、もう一つの理由はアルアインの選手たちが相当に消耗しており、足が止まり、判断力も低下していたからだ。
しかし、アルアインのエルナン・クレスポ監督は交代カードを切らなかった。唯一の交代は90+2分だった。試合後、クレスポ監督は「交代の必要はないと判断した」と語ったが、ピッチ内の選手たちが疲労をためていたのは明らかだった。
交代できなかったのは、アルアインの選手層が薄かったからだろう。
それに対して、横浜FMは交代で出場した選手たちが結果を出した。決勝ゴールをアシストした宮市も、膝を使って決勝点に結びつけた渡辺皓もともに交代で入った選手だった。
渡辺皓太と共にピッチに送り出され、決勝ゴールをアシストした宮市亮
横浜FMは、5月6日に行われたJ1リーグ第12節の浦和レッズ戦で大幅なターンオーバーを行った。浦和戦の先発メンバーで、アルアイン戦でも先発したのはGKのポープだけだったのだ(アンデルソン・ロペスは浦和戦は出場停止)。
その結果、アルアイン戦では先発選手がフレッシュな状態でプレーできたし、交代出場した選手も浦和戦でプレーしたばかりだったので、自信を持ってプレーすることができた。
DFのエドゥアルドは故障で前半のうちに交代となってしまったが、代わりに入った渡邊泰基は浦和戦でフル出場しており、エドゥアルドと遜色ないプレーをしてみせた。
同点ゴールを決めた植中を筆頭に、横浜FMの若い選手たちのレベルはこの数か月でかなり上がっている。
ハリー・キューウェル監督が投入した選手たちはことごとく期待に応えた。つまり、選手層の厚さと言う意味でも、横浜FMはアルアインを確実に上回っている。
もし、横浜FMが追いつくことができずに0対1のまま第1戦を終えていたら、アルアインは第2戦でも得意のカウンター狙いの試合ができた。横浜FMが強引に攻撃を仕掛ければ、再びカウンターの餌食になってしまう可能性もあった。
だが、横浜FMがホームゲームで逆転に成功したため、アルアインは第2戦ではカウンター狙いに徹するわけにはいかなくなってしまった。アルアインはが出てきてくれれば、横浜FMにとっても得点は狙いやすくなるはずだ。
第1戦での逆転劇によって第2戦は明らかに横浜FM有利となったのである。第1戦で痛い目に遭った相手のスピードを生かしたカウンターへの備えさえしてしっかりすれば、横浜FMの戴冠が見えてくる。
5万人を超えるファン・サポーターが後押しした第1戦、2-1で勝利
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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