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倒れず前線にボールを運ぶ藤田譲瑠チマ。ウクライナ戦でも期待
パリ五輪を目指すU-23日本代表がU-23マリ代表と対戦し、1対3の逆転負けを喫した。
マリは若手育成が進んでおり、年代別の世界大会では何度も上位に食い込んでいる。たとえば、日本がラウンド16で敗退した昨年のU-17W杯インドネシア大会でも、マリは3位に入っている。年代別大会の世界的強豪国といってもいい。
そして、マリは昨年のU-23アフリカ・ネーションズカップでも3位決定戦でギニアを下して、五輪出場を決めている。
フランス生まれの選手もいるし、マリの育成の成功の秘密はフランスとのつながりにある。それだけに、パリ開催の五輪ではマリが上位進出を果たしても不思議はない。
実際、マリの選手は非常にスピードがあり、高速の中でも正確にボールを扱うテクニックを持っており、日本の守備陣は手を焼くこととなった。
U-23日本代表も決して悪い出来だったわけではない。
とくに、前半の立ち上がりは完全にマリを上回り、右サイドから山田楓喜(東京ヴェルディ)が蹴り込んだFKをマリが処理できなず、平河悠(FC町田ゼルビア)が蹴り込んで試合開始から1分50秒(2分)で先制ゴールが生まれた。
それは、まるで前夜の北朝鮮戦でのフル代表のような電光石火の先制ゴールだったが、フル代表と違って、U-23代表の方は時間が経過しても動きが落ちることはなかった。
試合開始2分、20番・平河悠のゴールで日本が先制
フル代表の先発メンバーは全員が海外クラブ所属だった。ヨーロッパのシーズンは佳境を迎えており、ヨーロッパのカップ戦に出場している選手も多いため、選手たちは疲労をため込んでいる。そんな中、長距離移動を経て集合したばかりの木曜日の試合はいつも難しい試合となるのだ。
だが、マリ戦のU-23代表はシントトロイデン所属の山本理仁を除いて10人が国内組。Jリーグが開幕して約1か月。選手たちのコンディションが良いのは当然だ。
マリが個人的な走るスピードやキック・スピードといった「物理的な速さ」を武器にしていたのに対して、日本はボールを速く動かす「戦術的な速さ」で対抗した。
前半、日本が狙ったのは、センターバックの西尾隆矢(セレッソ大阪)と高井幸大(川崎フロンターレ)からMFの山本理仁やトップの藤尾翔太(FC町田ゼルビア)、植中朝日(横浜F・マリノス)に強いボールを当て、そのボールをワンタッチでつなぐパターンだった。
この“くさびのパス”を使った攻撃パターンが、ピッチ上で表現できていたのは収穫だった。
ただし、このパターンは「諸刃の剣」でもあった。
パスを出す側のDFが、しっかりと状況判断できていなかったのだ。その結果、“くさびのパス”を使うタイミングを誤って、マリにカットされてピンチを招いてしまったのだ。
1点を先制した直後の5分には、西尾が蹴ったボールをを拾われてピンチを招いたが、この場面ではママドゥ・サンギャレのシュートがポストに当たって事なきを得た。だが、その後も何度も同じような場面が生まれ、34分にもやはりパスの乱れを狙われてママドゥ・サンギャレの同点弾を許してしまった。
パスを出しても受け手がマークされている、あるいは受けられたとしても苦しい体勢になってしまう。そんな場面で無理にパスを付けようとするから、そうしたピンチが生まれてしまうのだ。
懸命にボールキープする藤尾翔太
そうした状況ではパスという選択をキャンセルしてGKに戻してもいいし、割り切ってロングボールを蹴っておいてもいい。これからも、あのパターンを使うのなら、そうした判断能力を身に着けていく必要があるだろう。ただし、U-23代表は五輪本番までそれほど準備のための合宿も、試合もできないのだ。五輪予選を兼ねるU-23アジアカップでも、リスクを承知で果敢にトライしていくのだろうか……。
マリ戦後半の日本は、このDFからの“くさび”の形は封印。サイド攻撃から後半トップに入って中盤まで落ちてパスを引き出す動きをした染野唯月(東京V)にボールを供給したり、トップに残る細谷真大(柏レイソル)を狙うなど、無理のないボール回しに転じた。
パスをカットで危険な場面を招いてしまった場面はあったが、DF陣は強力なマリのアタッカーたちと渡り合う経験を積んだ。
西尾と高井は、相手のスピードに苦しみ、ドリブルに寄せきれない場面もあったが、空中戦では互角に戦った。とくに高井は空中戦では優勢で、その潜在力を見せた。
空中戦で競り勝つ高井幸大
サイドバックも、苦戦を強いられた。
なにしろ、マリは両サイドハーフが協力だった。
左サイドハーフのティエモコ・ディアラはサイドに張らずに、トップ下あたりにポジションを取ったり、ドリブルで中に切れ込んだりと、戦術的な動きが上手い選手だった。逆に、右サイドのシェイク・ウマル・アブドゥラ・フォファナはスピードとパワーを兼ね備えた、いわゆるフィジカル・モンスター的な選手だったが、ここは日本代表経験もあるバングーナガンデ佳史扶がなんとか抑えていた。
しかし、時間が経過するとともにマリの選手たちの動きが上がっていった。
そして、90分を通じてボールを握る時間が長かった日本がなかなかシュートを枠内に飛ばせなかったのに対して、マリは非常に効率よくゴールを決めた。
U-23マリ代表の10番M.サンギャレが同点弾
1点目は日本のDF間のパスの乱れを拾ったもの。2点目はCKからの流れでママドゥ・サンギャレのシュートをGKの野澤大志ブランドン(FC東京)が弾いたところを押し込んだもの。そして、3点目は1点を追って攻めに出ていた日本の逆を突いて、マリの左サイド、ブライマ・ディアラがスローインからのボールを受けてドリブルで突破したもの。
いずれも完全に崩されたわけではなかっただけに、日本にとっては残念な3失点だった。
こうして“アフリカの洗礼”を受けた日本だったが、世界トップクラスのスピードを体感できたのは最大の収穫。そして、DFからの“くさびのパス”を使った攻撃にある程度のメドがつき、同時にそれを使いこなす難しさが分かったことも収穫か。
日本は3月25日に中2日の日程で、U-23ウクライナ代表と対戦する。こちらも、欧州予選3位で五輪出場を決めている強豪だ。マリとはまったく違ったタイプだし、日本はマリ戦で先発しなかった選手が多数起用されるはずなので、新しい顔を見せてくれるだろう。
マリ戦では、藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)が76分に交代出場し、藤田がアンカーとしてプレーすることで山本を2列目に上げてより攻撃的な並びに変えることができた。
かつて東京V在籍中はアジリティの高さを生かしてボールを奪取し、奪ったボールを前線に供給したり、自らドリブルで持ち上がったりして中盤を支配していた藤田だったが、横浜F・マリノスに移籍してからは出場機会が減って、小ぢんまりしたプレーをしていたが、久しぶりに生で藤田は東京V時代のようなダイナミックな動きを取り戻していた。
ウクライナ戦でも藤田のプレーには期待したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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