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サッカー フットサル コラム 2024年3月1日

輝かしい未来のために苦渋の一年目をベースにできるか

粕谷秀樹のOWN GOAL,FINE GOAL by 粕谷 秀樹
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今シーズンは負傷者続出。リーグ屈指のライトバックであるR・ジェイムズも稼働していない

今シーズンは負傷者続出。リーグ屈指のライトバックであるR・ジェイムズも稼働していない

声高に監督解任を叫ぶのは個人の勝手だが、メリット・デメリットを十分に考慮しなければならない。

2月25日のリーグカップ決勝後、チェルシーのマウリシオ・ポチェッティーノ監督はそそくさと貴賓席から降りていった。オーナーのトッド・ベーリーとは視線すら合わさず、完全に無視していたようにも映った。

気が付かなったはずはない。ベーリー以外の人間とは挨拶したり、ハグしたりしていた。ふたりの関係はぎくしゃくしているようだ。

さて、ベーリーはみずからの哲学を絶対に曲げないトマス・トゥヘルを解雇し、比較的おとなしいといわれるグレアム・ポッターを後釜に据えた。それでもチーム事情は改善せず、監督として失敗続きのフランク・ランパードを暫定的に起用。昨シーズンは12位に沈んでいる。

捲土重来を期した今シーズンは、サウサンプトンやトッテナム、パリ・サンジェルマンなどで一定の成績を残したポチェッティーノを新監督に迎え、チャンピオンズリーグ出場権奪還を最大目標に掲げていた。

26試合を消化した時点で、4位アストンヴィラとは17ポイント差の11位。本来、あるべき立ち位置に戻るのはもはや不可能に近い。

不振の最大要因はけが人続出に尽きる。一時は14人もの選手が戦線を離脱した。現時点でもクリストファー・エンクンク、リース・ジェイムズ、ウェズレイ・フォファナ、ベノワ・バディアシル、カーニー・チュクウェメカ、ロメオ・ラヴィア、レズリー・ウゴチュクの7選手は、週末のブレントフォード戦に間に合いそうもない。

また、当コラムや解説などで何度も繰り返し指摘しているように、年齢的バランスが悪いため、窮地に立たされるとパニックに陥る。

この、絶望的なアンバランスを招いたのがボーリーである。基本軸を若手の才能に置きすぎた。スピードやテクニックに長けていても、経験不足は否めない。

先行されたり、1点差に追いつかれたりするだけで慌てふためく。大ベテランのチアゴ・シウバが後方から指示を送っても、崩れたリズムは取り戻せない。

リヴァプールとのリーグカップ決勝も5~6回の決定機を逸するなど、プレッシャーに対する弱さを露呈した。

ただ、こうした状況はすべて予測できたものであり、諸悪の根源はチーム創りを誤ったベーリーだ。しかも、彼は補強に関してポチェッティーノに権限を与えず、子飼いの部下だけを信用する。うまくいくはずがない。

極度の不振に業を煮やした一部サポーターが、「ポチェッティーノを解任せよ」と訴えはじめた。その気持ちも分からないではないが、一度、クールになった方がいい。

なぜなら、チェルシーは質量ともに十分な選手層を有している。ベーリーが補強方針を見直しさえすれば、ふたたびタイトル戦線に浮上する公算が非常に大きい。今シーズンかぎりでの退団が濃厚なT・シウバに代わる歴戦の勇士が、少なくとも2~3名は必要だ。

さらに、監督を代えてばかりいると印象が悪くなり、違約金もかさむ。おそらく、今夏の補強は大幅に縮小される。財務規定違反が “クロに近いグレーゾーン” だからだ。デメリットが次々に並ぶ。

したがって、天文学的な金額を市場に投下するのは愚策でしかない。ライバルがうらやむほどの現有勢力はメリットであり、彼らを磨きあげることによってチーム力は向上する。もちろん、2~3シーズンが過ぎても成長していない選手は換金対象とし、財務規定違反に備えなくてはならない。

そして、監督を信じることこそが最大のメリットではないだろうか。

ポチェッティーノは若手の育成に長けている。チェルシーはヤングガンズの宝庫だ。相関関係は申し分ない。あとは輝かしい未来のために苦渋の一年目をベースにする度量を、ベーリーが持っているのか、いないのか。

リヴァプールのユルゲン・クロップ監督でさえ、チームを完全に掌握するまで3年ほどかかっている。

文:粕谷秀樹

粕谷 秀樹

ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。

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