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アジアカップ・ラウンド16での日韓戦は「幻」に終わった。
グループリーグ最終日。グループEは勝点4で並んだ韓国とヨルダンの首位争いと見られていた。得失点差ではヨルダンが上回っていたが、最終戦で韓国が大量点を取れば韓国が首位となり、日韓戦が実現するはずだった。
だが、韓国は前半を1点リードして終えたものの、後半立ち上がりに2点を奪われてしまう。李康仁(イ・ガンイン)の直接FKとアディショナルタイムに入ってからの孫興民(ソン・フンミン)のPKで再逆転したものの、105分(延長ではない!90+15分)にカウンターから同点ゴールを許し、試合は3対3の引き分けに終わったのだ。
一方、ヨルダンは34分にカウンターからバーレーンのワントップ、アブドゥラ・ユスフに決められて敗れて3位となり、試合前まで3位だったバーレーンが首位通過。2位通過の韓国はサウジアラビアやオーストラリアがいる山(死の山?)に入ることとなった。
一方的に攻撃を仕掛けながらセットプレーからの得点だけに終わり、カウンターから3失点……。韓国としては“大失態”となったマレーシア戦だった。
韓国は2戦目でもヨルダンに逆転を許し、試合終了間際のオウンゴールでなんとか引き分けに持ち込んでいた。孫興民や李康仁といった個人能力の高い選手を抱えながら、チームとしての完成度はまだまだだった。
攻撃の組み立ても単調過ぎだったし、「3試合で6失点」と守備の欠陥も明らかだ。
もちろん、日本代表もイラクに敗れて2位通過。そして、3試合で5失点もしているのだから、あまり偉そうなことは言える立場ではが……。
昨年の6月以来、国際試合で6連勝と万全かと思われた日本代表。格下相手に5失点した最大の原因はやはり気持ちの問題だったのではないか。
たとえば、ベトナム戦では、失点した場面ではヘディングする相手に対してDFが誰も競りに行っていないのだ。イラク戦の1失点目でも攻め上がってくるアイマン・フセインを誰もマークできなかったし、2点目では菅原由勢がサイドで軽い守備をしてしまった。
相手も強力だったが、ヨーロッパのクラブで戦っている選手が止められないはずはない。
やはり、「格下相手」ということで気持ちが入っていなかったのだろう。ヨーロッパのクラブでハイレベルの戦いを続けていた選手が代表の活動に合流して、まだ集中できていないようだ。
一方で、Jリーグクラブの選手たちは12月初めにシーズンオフに入っており、1か月近く公式戦から離れていた影響があった。
攻撃面でもパスのタイミングが遅く、崩し切れない場面が多くなり、その結果ボールを持ちすぎてしまって、ボールを奪われる場面が多くなった。
さらに、冨安健洋や板倉滉、久保建英など、負傷からようやく復帰したばかりの選手も多い。三笘薫などは、まだ試合に出られていない。
負傷が治っていても、試合から離れていれば試合勘が失われてしまう。たとえば、久保は攻撃の組み立てで素晴らしい働きをしてその能力を発揮しているが、逆にあっさりとボールを失ってしまう場面も多い。本来の久保ならあり得ないようなプレーだ。
グループリーグ3試合では、こうした事情によって日本代表のパフォーマンスは本来のものとはほど遠かった。そして、対戦相手は「なんとかして日本を食ってやろう」と牙をむいてきた。つまり、2022年ワールドカップで日本がドイツやスペインと戦う時のような気持ちで挑んできたのだ。
もっとも、そんなこともすべて想定内だったはずだ。
森保一監督は、負傷が治り切っていない選手を何人も招集した。
「開幕直後にはプレーできなくても、ノックアウトステージに入ってから出場できればいい」という計算からだ。コンディションが上がり切っていなくても、3試合で時間を制限しながらプレーさせることによって状態を上げていく……。それが、チーム・マネージメントというものだ。
グループリーグ最終のインドネシア戦では、明るい兆しがいくつも見られた。
たとえば、小さなミスで失点を重ねて批判を浴びていたGKの鈴木彩艶。3戦目では、思い切った飛び出しやパントキックでのチャンスメークなど、彼に期待されているダイナミックな動きが戻ってきた。
森保監督が今大会で国際経験の少ない鈴木を起用しているのは、彼の成長が2026年ワールドカップ優勝のための欠くことのできない要素と考えているのだろう(つまり、森保監督は本気なのだ)。アジアカップでは苦労しても、ここで経験を積ませたかったのだ。そして、実際、ベトナム戦、イラク戦での苦い経験と、その後に受けたバッシングは鈴木にとっては貴重な経験=財産となった。
吹っ切れたような動きを見せたインドネシア戦は、鈴木にとって大きなきっかけとなることだろう。
そのほかにも、インドネシア戦では右サイドバックとして起用された毎熊晟矢は好守で素晴らしいは仕事をしたし、上田綺世は、この数試合で日本代表が取り組んでいる相手陣内深くの「ポケット」を取る動きでPKをゲットし、さらにPKを含めて2ゴールを決めた(3ゴール目は相手のオウンゴールとなったが、Jリーグだったら上田の得点として認められたことだろう)。
さらに、課題とされたセットプレーでも、インドネシア戦ではCKの場面でさまざまな形にトライした。トレーニングで何らかの取り組みが行われているのだろう。
日本代表はラウンド16ではグループEを首位通過したバーレーンと対戦することになった。ワントップのアブドゥラ・ユスフは193センチの長身でテクニックもある素晴らしいCFだが、攻撃の多彩さでは日本の方がはるかに上。相手の攻め手は限られているのだから、そこをしっかり締めて戦えば問題なく勝てる相手だ。
重要なのは、2位通過になったことでラウンド16まで「中6日」という試合間隔となったことだ。
さまざまな問題を抱えていたグループリーグが終わり、コンディション的にも上向いている中、この6日間にしっかりチームを再構築し、気持ちも切り替えられるからだ。もちろん、負傷を抱えている選手の回復も期待できる。
アップセットを狙うチームはグループリーグで全力を尽くすが、優勝を狙うチームにとっては、ノックアウトステージに入ってからが勝負なのだ(カタール・ワールドカップで優勝したアルゼンチンも、初戦でサウジアラビアに敗れている)。
唯一、心配があるとすれば、ラウンド16の相手が韓国ではなく、バーレーンになったことで選手たちに気の緩みが生じないかということ。だが、これも「中6日」という時間が解決してくれることだろう。
バーレーンに勝利すれば、中2日で準々決勝。大会最強国の一つイランとの対戦の可能性が高いが、「中2日」の試合なので、2試合をトータルで考えるマネージメントも必要になるだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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