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献身、信頼、尊重の人。日立台のグラウンドを覆い尽くす柏レイソルU-18・藤田優人コーチの圧倒的熱量 高円宮杯プレミアリーグEAST 柏レイソルU-18×尚志高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史ホームで快勝を収めた柏レイソルU-18
「本当に1人1人に寄り添ってくれるので、人としても尊敬できる人ですね。男として熱いので、そのパワーに引っ張られる感じですし、付いていきたくなるような人です」と伊達歩由登が口にした言葉には、多くのチームメイトが賛同するだろう。柏レイソルU-18で指導に当たっている藤田優人コーチのことだ。
国見高校、明治大学といわゆるエリート街道を歩んできたが、そのプレースタイルは実直そのもの。与えられたタスクを120パーセントで遂行する姿勢は際立っており、数々の指揮官から重宝されたのも頷ける。そんな藤田は2020年いっぱいで現役を引退すると、柏レイソルアカデミーで指導者としてのキャリアをスタートさせる。
まるで昨日のことのように、その輪郭を思い出しながら明かしてくれたエピソードが印象深い。「初めてこの子たちを見た、初めての練習で、ボール回しをしたんです。それで『カウント20ね』と言ったのに、誰も数を数えなくて、初日の10分くらいで雷が落ちました(笑)。『カウントしろ』と。もともと受け持つ時におとなしい子たちとは聞いていたんですけど、ここまでかと。そういうところからスタートしたので、今はこういう状態になったことには感慨深いものがありますね。もちろんまだまだですけど」。
『この子たち』とは今年のU-18に在籍している3年生のことだ。伊達もその頃のことを笑いながら振り返る。「中3の最後にあった一番最初の藤田さんの練習の時に、天然芝のグラウンドで走ったんですけど、それがキツ過ぎて、自分は時間内に全然入れなくて(笑)。でも、高1からも3年間ずっと走ってきたことで、だんだん走れるようになってきて、結構メンタルも強くなったかなと思います」。あくまでも一端ではあるが、彼らの積み重ねてきた時間が垣間見えるような話ではないだろうか。
開口一番、「強いですよね。選手が頑張っているので」という言葉が藤田から飛び出す。プレミアリーグEAST第20節。後半戦は無敗を続け、優勝争いを繰り広げている尚志高校と対峙したホームゲームは3-0の快勝。実は前半戦こそ10位に沈んでいた柏U-18も、後半戦はこれで7勝1分け1敗と圧倒的な成績を残して、4位にまで浮上してきているのだ。
ついついこちらとしては劇的な変化の理由を求めてしまうが、藤田は積み重ねてきたものの成果を強調しつつ、ある仕掛けを教えてくれた。「ウチにはもともと意欲的な選手は多いんですけど、今の子の多くはいろいろ大人がやってしまい過ぎるあまり、頑張り方がわからないんです。だから、選手たちとの会話の中で『こういうふうにやるんだよ』ということは全部教えずに、『どういうプレーをしたいの?』とか『こういうプレーができてないよね』とか、『じゃあこういうことが必要なんじゃない?』ということを半分以下の40パーセントぐらいは教えて、あとの60パーセントぐらいは『自分で考えろ』と」。
伊達は後期に入ってからの変化をこう語る。「前期は4-3-1-2でやっていて、結構戦術的にやっていたんですけど、後期になってから4-4-2になって、ピッチの中で自分たちで意見を出し合って、コーチが言わなくても自分たちでやれるようになってきていると思います」。
彼らは“60パーセントの”余地の中で考え、悩み、自分たちなりの答えを導き出していく。もちろん好調の理由はそれだけにとどまらないだろう。でも、“60パーセント”を託されたのであれば、そこに全力で応えようとする選手たちと、それを見守る藤田の意図的な思惑がマッチしたのであろうことは、やはり見逃せない。
実はなかなか結果の出なかった前半戦も折り返しに近付いていた7月。藤田はこういう話をしていた。「負けていて言うのもアレですけど、選手はものすごく成長していると思います。年間を通して計画的に進めているところもあるので、この夏で守備のところに取り組んでいく計画はありますし、それと並行して個人を伸ばすというところが一番大事にしているところなので、それぞれがストロングを出せるような状況を作っていきたいなと思います」。
ちなみに、前半戦は1試合平均の失点が1.8だったのに対し、後半戦は0.9まで減っている。「年間を通して計画的に進めている」「この夏で守備のところに取り組んでいく計画はある」。有言実行。すべては計画通り、といったところだろうか。
キャプテンを務める別府慧は、藤田に対して「今の3年生は1年生の頃からずっと鍛えてもらっていて、キツい練習をやってきたので(笑)、自分たちも藤田さんのことを理解していますし、藤田さんも自分たちのことを理解してくれていると思っています。藤田さんはどんな状況の選手でもちゃんと見てくれていて、たとえば何かを聞きに行ったら、絶対にそれ以上のものを返してくれて、教えてくれて、自分たちのモチベーションを上げてくれるんです」と全幅の信頼を置いている。
今シーズンの柏U-18のプレミアは、ホームで行われた開幕戦で青森山田高校に0-5という惨敗を喫したところから始まった。前述した通り、その後も思うようには勝ち点が伸びず、チームも自身も苦しんでいた時に藤田コーチから掛けてもらった言葉が、別府は忘れられないという。
「プレミアも開幕戦で結果が出ず、難しい部分を感じていた頃に、藤田さんが『オレに付いてこい』と言ってくれたので、『もう付いていくしかないな』って。全員で『藤田さんを勝たせよう』という気持ちになって、そこから一体感が出てきたかなと思います」
彼らに残されたのは、あとリーグ戦の2試合だけになった。3年間をともにしてきた教え子たちへの想いを、藤田も隠さない。
「たぶんレイソルアカデミー史上、一番キツい3年間を過ごしている選手たちだと思うので(笑)、いろいろな想いがありますよ。キツいというのは心身ともに、ですね。でも、その経験は今後の人生で絶対に自信になるんです。苦しい経験をして結果を得られれば、選手たちの今後の人生に生きてくるかなと思うので、今の時代はやり過ぎることに厳しいですけど、僕はそれが必要かなと考えています」
「僕はたぶんレイソルのアカデミーの中で一番“悪口”を言われている指導者だと思いますよ。でも、悪口を言われるぐらいになったら良い指導者だというのが、僕の勝手な持論です。僕も学生の頃は『何だよ!』と思ってきましたけど、今では指導者の方々にも本当に感謝しかないですし、『あの時に正してくれてありがたかったな』とか『あのトレーニングにはこういう意味があったんだ』とか、自分が身を持って経験していますからね」
なりたくてなったという指導者としてのキャリアは、この先もずっと、ずっと、続いていく。だが、そのスタートを切った最初の3年間で日々顔を突き合わせ、ともに悪戦苦闘した選手たちが特別でないはずがない。「もう彼らと過ごせるのも残り2試合なので、『まだ終わりたくないな』という気持ちと、本当にめんどくさい子が多いので『早く終わりたいな』という両方の気持ちですね(笑)」。
37歳。指導者3年目。まだその道では駆け出しの部類に入るだろう。あるいは自身が言うように、時には悪口だって言われているかもしれない。それでも、きっとこの人にしか見えないものが必ずあって、この人にしか救えない選手が必ずいる。「毎日毎日面白いです。彼らがそう思わせてくれているので、こっちも彼らに育てられているなという感触がありますよね」。
もう諦めるしかない。幸福なことに、残念ながら、藤田優人は自ら歩み始めたこの指導者の道に、引き返せないところまで足を踏み入れてしまったのだ。
柏レイソルU-18を束ねる藤田優人コーチ
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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