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サッカー フットサル コラム 2023年10月27日

アジアカップは開催可能なのか? パレスチナ情勢がサッカー界に与える影響

後藤健生コラム by 後藤 健生
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中東情勢が緊迫している。

10月7日にパレスチナのガザ地区を実効支配しているイスラム武装勢力「ハマス」がロケット弾やパラグライダーなどを駆使してイスラエルを攻撃。イスラエル人1000人以上を殺害し、200人以上を人質として拉致した。

イスラエルはこれに反発してガザ地区を完全に封鎖。地上部隊の侵攻も近いと伝えられている。水や燃料の補給を絶たれ、毎日のように空爆を受けるガザ地区ではすでに数千人が死亡。多くの人たちの生命が危険にさらされている。

ハマスのテロ行為はもちろん許されるものではない。イスラエル人に対するテロであるのと同時に、あのような攻撃を仕掛ければイスラエルから反撃を受け、パレスチナ人が殺戮されることは予想できたはず。ハマスは“自国民”を危険にさらした責任も問われなくてはならない。

現在のパレスチナの地にはかつてユダヤ人が住んでいた。2000年も昔のことだ。

その後、ユダヤ人は世界中に散らばったが、20世紀に入るとヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人がパレスチナにユダヤ人国家を作ろうと考えてこの地に戻ってきた。そして、第2次世界大戦後には実際に「イスラエル」が建国され、この地で生活していたアラブ系のパレスチナ人は土地を奪われて難民化。その後、パレスチナ人を支持するアラブ諸国とイスラエルの間で何度か戦争があり、1993年に両者が共存するための合意も成立したのだが、イスラエルは合意を守らずに占領地を拡大し続けた。

ハマスのイスラエルに対する攻撃にはそうした背景があるのだ。

日本にとって中東は地理的にも、心理的にもかなり遠い地域だ。だが、パレスチナ情勢が悪化すれば影響は免れない。中東からの石油供給が滞れば日本経済は大打撃を受けるし、原油価格が上昇すれば物価高に拍車がかかる。

サッカー界も影響を受ける。

パレスチナ代表はFIFAランキングで96位。アジアでは16番目で、2026年北米ワールドカップ・アジア2次予選の組分け抽選ではポッド2に入っていた(困難な状況下でそれだけの実力を維持してきたことには敬意を示さざるを得ない)。そして、組分け抽選の結果、パレスチナはオーストラリアと同じグループIに組み込まれ、11月17日にはレバノンとのアウェーゲーム、21日にはオーストラリアとのホームゲームが予定されていた。

パレスチナは、もちろん国内で試合ができる環境ではない。また、レバノンも紛争が長く続いている国だ(イランが支援している武装組織「ヒズボラ」がイスラエルを攻撃するのではないかと懸念されている)。

そこで、パレスチナ戦はUAEのシャルージャ、オーストラリア戦はクウェートで行われることが決まっていた。だが、紛争の当事者であるパレスチナの試合が予定通り開催できるとは思えない。

いや、パレスチナがらみの試合だけではない。

もし、今後イスラエルが本当に地上侵攻を開始して多くのパレスチナ人の生命が奪われることになれば、中東地域全域に反イスラエル感情が高まり、テロが拡散するかもしれない。そうなったら、中東では国際試合をすることが難しくなるだろう。

日本代表も、11月21日にシリアとのアウェー戦が予定されている。シリアは長期の内戦が続いており、数百万人が難民、避難民となっている国だ。国内では試合を開催できる状態ではない。そのため、シリア戦はサウジアラビアのジッダで行われることになっている。

独裁国家であるサウジアラビアはそれほど治安は悪くないが、今後パレスチナ情勢が悪化すれば、この国でも政治が不安定化したり、テロの怖れが高まるかもしれない。つまり、シリア戦が中止や延期になる可能性もあるのだ。

万が一、シリア戦が中止になった場合には日本代表の強化試合を組み入れる必要がある。今から、その可能性を考えて動いておくべきだろう。

現在、アジア・サッカー連盟(AFC)という組織は中東諸国が中心となって回っている。2013年以来会長を務めるのはシャイフ・サルマーン・ビン・イブラーヒーム・アール=ハリーファというバーレーン人だし、アジアカップは(中国が開催を返上したため)2大会連続で中東開催となる。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)も、中東のシーズン制に合わせて、今年から「秋春制」に変更になった。

さらに、先日は2034年のワールドカップ開催地としてサウジアラビアが立候補し、AFCはサウジアラビアを支持する方向で動きそうだ(日本サッカー協会の田嶋幸三会長も、早々にサウジアラビア支持を表明した)。

しかし、イスラエルのガザ地区への地上侵攻が始まり、さらにヒズボラやイランが介入したりすれば、中東全体が大混乱に陥るので、アジアのサッカー界全体が巻き込まれるかもしれないのだ。

2024年1月から2月にかけて、カタールでアジアカップが開催される。カタールは中東の中では安定している国で、パレスチナ紛争を巡って仲介役を果たす可能性もある。

だが、表面的には王族のターニー家による独裁が続くカタールだが、国内で権力争いが起こる可能性も否定できず、アラビア湾(ペルシャ湾)を隔ててイランと対峙しているだけに、イランが今回の紛争に関わるようになると難しい状況に追い込まれる。

影響を受けるのは中東地域だけではない。

ヨーロッパには歴史的に多くのアラブ系住民やユダヤ人が暮らしているので、パレスチナ情勢が悪化すれば国内での対立やテロ行為の危険が増す。

10月16日には、ベルギーの首都ブリュッセルでテロ行為が発生してスウェーデン人が射殺され、同時刻にボードワン国王スタジアムで行われていたベルギー対スウェーデンの試合がハーフタイムで中断され、結局試合はそのまま中止となった。

この事件の政治的背景はよく分かっていないようだが、もし中東情勢が緊迫するようなことがあれば、各国でテロの脅威が高まり、国際試合ができなくなってしまうかもしれない。

2024年夏にはフランスのパリで夏季オリンピックが開かれる。同大会の開会式はスタジアムの中でなく、セーヌ川で行われ、選手たちは船で入場行進するという。ユニークな開会式となるはずだ。

だが、スタジアムという閉鎖空間ではなくセーヌ川というオープンな会場で行われるのでテロに対する警備が難しく、すでに「変更すべきだ」という意見も出ている(閉会式は、トロカデロ広場で開催の予定だったが、スタッド・ド・フランスに変更された)。

来年はドイツでEUROも開催されるが、パレスチナ情勢が悪化すればEUROやオリンピックのような国際大会にも影響を与えるかもしれない。

ガザ地区で多くの民間人の生命が危ぶまれている時にサッカーの試合や大会のことを語るのは不謹慎かもしれないが、とにかく事態が沈静化することを祈らずにはいられない。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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