ロッカールームにTVカメラを入れるようになったラ・リーガ、暴かれる聖域

W杯でスペイン国王フェリペ6世の激励を受けるスペイン代表

全国の監督のみなさんにお聞きしたい。

──あなたはロッカールームにカメラが入るのを許可しますか？

私は嫌です。前に取材を受けた時にも断った。紅白戦に限って許可をした。

やっぱりロッカールームってプライベートの空間だと思うんですよね。それに子どもの気が散ってしまうしね。だから試合前は特に嫌です。

私はスペインサッカーの伝統の下で生きてきた。どのクラブでも会長やスポーツディレクター（SD）でさえロッカールームに入るのは禁止だった。

会長が一番偉くて、SDはその次で、監督の上司はSDです。だけど、ロッカールーム内で一番偉いのは監督です。会長もSDも出禁にできる絶対権力者です。

元セビージャのSDモンチは言っています。「私が自由にロッカールームに出入りすることを許可することが、セビージャの監督の条件だった」と。

でも、監督を離れて言うと、プロのロッカールームには入ってみたい。監督がどんなことを話すのかを聞いてみたい。

いや、部外者が入るのは失礼だし、監督と選手の邪魔を必ずすることになるので、隠しカメラとマイクを天井に固定するかなんかして。

こんな話をするのも、今季からラ・リーガではロッカールームにTVカメラを入れているんです。

いろんな発見がありました。

アスレティック・ビルバオはグラウンドに出る直前に、キリスト教の祈りを捧げるんですね。これ、経験者以外、誰も知らなかった。100年以上守られてきた秘密だった。

ロッカールーム内に置かれている食べ物は水とバナナ。これはまあ消化が良いからわかるんですが、オサスナのロッカールームでは宅配ピザの箱がチラッと映りました。あと、どこか忘れたけどサンドイッチもあった。

プロがそんなことをしていいんでしょうか？

チームがスタジアム入りするのは大体1時間半前です。そんな直前に脂っこいピザを喰うなんて……。

私は「試合の2時間前に食事を済ませて」と父母に言っていました。スペイン連盟の監督学校でそう習ったから。こういう発見は面白かったです。

パンツ一丁の選手たちも映っていましたよ。

映るよね、だからプライベートな空間なんです。

私は、放送禁止用語がお茶の間に流れることも危惧しています。いや、別にいいんですよ、プロでもアマでも激しい言葉が行き交っているのはスペインでは常識ですから。

危惧するのは、近年、言葉の暴力とかパワハラとかにセンシティブになっているご家庭が我慢できるか？ということなんです。「これは特別な文脈で発せされたものだから……」と問題視しないでいられるか、ということです。

今季からラ・リーガはこの他、試合直前の監督インタビュー、それも監督同士の対談形式で、なんて凄いこともやっています。

まあ、ウォーミングアップをフィジカルコーチらスタッフに全投げできるプロだからできることですが。

まあ、私は戦いの直前に社交辞令を言い合うってのは見たくないですけどね。

一番興味深かったのは、給水タイムの監督のおしゃべりをぶら下げたマイクで拾うってのです。これは面白い。なんたって本物ですから。

怒ってもいる監督も怒られている選手もいます。汚い言葉も混じっています。これがリアルな姿です。ただ、やっぱり本物なんで第2節はマイク禁止にしているチームがいくつもありました（すべては強制ではなく許可制です）。

ロッカールームにカメラが入ることに反対している監督は2人だけ。レアル・マドリーのアンチェロッティとマジョルカのアギーレです。

「身銭を切ってもいいからカメラを入れるな」（アンチェロッティ）。

「キングスリーグのショーじゃないんだから。お金を払えば何でもできるってわけではない」（アギーレ）。
※キングスリーグについては先週のコラムに書きました。

彼ら以外の監督が同意している理由は2つ。

ラ・リーガの人気アップになるからと、放映権料の一部がPR協力金としてクラブの収入になるからです。「身銭を切っても」というのはそういう意味でした。

私がラ・リーガの監督だったら、嫌々従うかな。PRとお金のためなら、と。

ただ、取材者として、視聴者として、アマチュアの監督として本当に見たいのは「本物」。ロッカールームの隠しカメラが拾った映像ですが……。

文：木村浩嗣