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サッカー フットサル コラム 2023年4月8日

女子W杯前の最後の遠征 ポルトガル戦で大苦戦した日本女子代表

後藤健生コラム by 後藤 健生
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シービリーブスカップ カナダ戦でのなでしこジャパン

シービリーブスカップ カナダ戦でのなでしこジャパン

7月にオーストラリアとニュージーランドで開催される女子ワールドカップを前に最後の海外遠征に出た日本女子代表(なでしこジャパン)。その初戦ではポルトガルと対戦して2対1と逆転勝利を収めたが、ポルトガルはFIFAランキング21位と日本(同11位)にとっては格下。なんとか逆転して逃げ切ったものの、残念ながらワールドカップに向けて、あまり良いイメージは残せない試合となってしまった。

池田太監督は昨年10月のナイジェリアとの親善試合以来、スリーバックに取り組んでいる。11月の遠征ではイングランド(0対4)、スペイン(0対1)と連敗。2月のアメリカ遠征(SheBelieves Cup)でもブラジル、アメリカに連敗(ともに0対1)したものの、アメリカ戦では互角以上の戦いを演じ、3戦目では東京オリンピック金メダルのカナダに対して3対0で快勝。ようやく新システムにも見通しが立ってきていたところだった。

昨年以来、これまでの遠征で対戦したのはすべて日本よりFIFAランキングが上のチームだったが、今回は21位のポルトガル、15位のデンマークとの対戦する。それだけに、良い内容で勝利していわゆる「勝利のメンタリティー」を身に着けたかった。

ポルトガル北部のギマランエスで行われたポルトガル戦。日本は前半の25分にポルトガルに先制ゴールを許してしまう。

最終ラインからのロングキックをつながれ、ディアナ・シルバのスルーパスでジェシカが抜け出してフリーになり、最後はアナ・カペタに決められたもの。ポルトガルのファーストシュートでの失点だったが、その前の時間から同じように守備ラインの裏を取られる場面が何度もあったので、これは“必然の”失点だった。

日本は、前線からプレスをかけに行ったのだが、ポルトガル選手は日本のプレスをかいくぐってパスをつなぐだけのテクニックを持っていた。そして、最大の問題は前線でプレスをかけにいっても日本のMFやDFの押し上げがなかったため、チームが前後に間延びしてしまい、ポルトガルにスペースを与えてしまったことだ。

ポルトガルが激しいプレッシングをかけてきたことで、日本のボランチ2人(長谷川唯と長野風花)が押し込まれたことが中盤にスペースができた原因だった。

また、この日のギマランエスの34度という高温も日本選手の運動量を奪った。池田監督は試合後のフラッシュインタビューで「前半は寝てしまった」と表現したが、暑さのために動きが悪くなってしまったのだろう。春を迎えたばかりのこの時期、選手たちの体は冬仕様になっている。基礎代謝量は高く、発汗機能は失われており、暑さの影響は大きい。

こうした状況を考えれば、無理に前線から追うのは諦めるべきだったのではないだろうか。実際、後半の日本は守備局面では引き気味でハーフライン付近からプレスをかけに行くように修正した。本来はピッチ上の選手の判断で、前半のうちに修正したかったが、ディフェンスリーダーの熊谷紗希がベンチだったこともあって、前半のうちには修正できなかった。

それでも、失点後にはボールを保持して反撃に移って何度か決定機を作り、35分に同点ゴールを決めた。このあたりは、個々の能力の差によるもの。もし、相手がワールドカップ優勝を狙うような強豪国(たとえばグループリーグ3戦目で対戦するスペイン)だったら、前半のうちに追加点を奪われてしまったことだろう。

守備面では課題ばかりが目についたが、攻撃面ではスリーバック(3-4-3)が機能した。

左サイドではウィングバックで起用された杉田妃和がパス出しの起点となって、シャドーの猶本光とのコンビネーションで形を作り、右サイドではウィングバックの清水梨紗がシャドーの藤野あおばを走らせた。藤野は、1対1の場面で積極的にドリブルをしかけ、9分にはマークの相手を一歩だけ外してボールスピードのあるクロスを入れた。左から詰めてきた杉田のヘディングシュートはGKのイニェス・ペレイラに弾かれたが、これが日本の最初の決定機。藤野は77分までプレーして何度もチャンスを生み出した。この日のベストプレーヤーの1人と言っていい。

35分の同点ゴールは左の杉田のサイドから生まれた。杉田が切り返しで相手DFを外して、ペナルティーエリア内の深い位置、いわゆる「ポケット」に走り込んだ田中美南にスルーパス。そして、最後は田中の折り返しをゴール前に走り込んだ長谷川が決めた。杉田のキープによって田中がDFの裏を取り、長谷川がゴール前に顔を出す時間が生まれたのだ。

いずれにしても、両サイドのウィングバックとシャドーの動きが多くのチャンスを作ったのであり、スリーバックは攻撃面では機能していた。

後半には池田監督はメンバー交代を使い、最後の時間帯にはフォーバックに切りかえるなど、いくつかのテストを行った。

まず、ハーフタイムの交代で守屋都弥がウィングバックとして起用された(清水が最終ラインに下がる)。

守屋はやはりスリーバックを採用しているINAC神戸レオネッサでウィングバックとして大活躍している選手。2月のアメリカ遠征でも招集されたが負傷で離脱。ポルトガル戦が代表デビューとなった。ウィングバックの本職として期待は大きかったが、やはり初の代表戦ということで思い切ったプレーができなかったようだ。

53分の逆転ゴールは長谷川からのロングボールを追った田中が右足のアウトサイドで完璧にコントロールし、出てきた相手GKの動きを見て、今度は左足のアウトサイドで浮かせて決めたもの。シュート技術の高い田中らしいゴールだった。

このゴールの直前にも清水からのロングボールに田中が抜け出してGKと1対1になるシーンがあったが、サイドからのクロスは長身のDFに跳ね返されていただけに、相手DFの弱点を見極めて縦に狙いを定めたのだろう。

その後も押し気味で65分に杉田のクロスを藤野が難しい角度からヘディングでゴール左隅を狙った決定機もあったが、これはGKの好守に阻まれた。

そして、日本が1点リードのまま迎えた終盤、同点を目指してポルトガルがロングボールを使うようになった時点で池田監督はシステムを4-4-2に変更した。しかし、フォーバックはまったく機能せず、ポルトガルに押し込まれてしまった。

久しぶりのフォーバックで立ち位置を確認する方に意識が向いてしまい、守備の出足が悪くなったのが苦戦の原因。本来はセンターバックの南萌華が左サイドバックに入り、本来はサイドバックの清水がセンターバックに入るなど最終ラインの構成がアンバランスだったことも苦戦の原因だったかもしれない。交代カードを切りながらの修正だったので仕方がなかったのではあるが……。

さて、日本は4月11日にはデンマークと対戦するが、ポルトガル戦で出てきた課題を一つずつ解決していってほしいものだ。ワールドカップまで、もう“実戦”の機会はごくわずかしかないのだから。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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