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モニターでプレーを確認するプレミアリーグの主審
2月24日の金曜日。小雨が降りしきる中で行われた湘南ベルマーレ対横浜FCの試合は、前半は湘南、後半は横浜FCのゲームとなり、「点を取り合っての引き分け」(2対2)は妥当な結果だったが、横浜FCの小川航基が2ゴール、湘南も町野修斗が1ゴールと、ともに期待の新鋭ストライカーが得点したことでゲームは盛り上がった。
やはり、前線に本格的なCFがいるとゲームは引き締まるものだ。
小川の先制ゴールは試合開始からわずか13秒で決まった。キックオフから最終ラインに戻したボールをDFのガブリエウが右サイド深くに蹴り込んだところからつないで、最後は小川が決めた。その瞬間、アシスタント・レフェリーの旗が上がったのだが、そこでVARが介入してゴールは認められた。
そして、この試合、その後もVARが何度も介入したため、前半は5分02秒、後半に至っては13分02秒ものアディショナルタイムがあった。
しかし、長いアディショナルタイムはこの試合だけではなかった。
平塚での試合の翌25日に行われた鹿島アントラーズ対川崎フロンターレの試合の後半のアディショナルタイムはなんと14分51秒にも達したのだ。
前半5分に川崎から鹿島に移籍した知念慶が古巣相手のゴールを決めて、鹿島が1対0でリードしたまま後半に入り、さらに川崎のDF山村和也が退場となって、川崎は絶体絶命のピンチに追い込まれた。だが、10人の川崎はその後も落ち着いてパスをつないで攻撃を続け、89分にはCKからの流れの中で家長昭博がバイシクル・シュートを試み、そのボールに新加入の山田新が合わせて同点とする。
そして、アディショナルタイムには川崎にPKが与えられ、鹿島の家長のキックはGK早川友基が防いだかに見えたものの、GKがゴールラインより前に出ていたためにやり直しとなり、川崎が逆転勝ちしてその底力を見せた。
山村の退場にかかわるチェックやPKの場面でのチェックやPKやり直しなど、終盤に様々なイベントが発生したこの試合、後半のアディショナルタイムはなんと14分15秒にも達したのだ。
アディショナルタイムの長さだけを見れば、J1リーグはもはや“ワールドカップ並み”のようである。
サッカーの魅力の一つはプレーが途切れずに続くことであり、ほぼ定刻通りに試合が終わることだった。だが、VARの導入によって数分間にわたってプレーが中断することは珍しくなくなり、試合時間はどんどん伸びてしまう。
これでいいのだろうか?
今シーズンに入ってJリーグでのVARの運用で大きく変わったのが、オフサイドの場面での3Dラインの採用だ。
攻撃側の選手の体の部位の中で最も前に出ていた位置に赤いラインを引き、守備側の選手には青いラインを引く。この技術によって、空中で腕や肩が前に出ていたかどうかが判定できるようになる。つまり、オフサイドをさらに正確に判定できるようになるのだ。
ヨーロッパの主要国リーグではすでに採用されていた技術なので、Jリーグが今年から3Dライン技術を採用したことは、一般に歓迎されているようだ。
だが、ボールがプレーされた瞬間の各選手の各部位の位置を決めてラインを引く作業はかなり複雑なものになるので、どうしても時間がかかってしまう。その結果、中断の時間が長くなってしまうのだ。
J1リーグの開幕節のサンフレッチェ広島対北海道コンサドーレ札幌の試合では、広島のゴールとなるべき場面でゴールが認められないという誤審が生じて、日本サッカー協会審判委員会が謝罪するという“事件”があった(この結果、横浜と川崎の牙城を崩すチームとして期待されていた広島は開幕戦での勝利を逃した)。
映像を見れば、ボールがゴールラインを越えているのは明らかだったのに、なぜVARはそれを見逃してしまったのか?
その本当の原因は分からないが、「3Dラインの作業」という大きな負担がVAR担当審判員にのしかかっていたことも原因の一つなのではないだろか。
しかし、審判員に大きな負担をかけてまで、腕や肩がほんの10センチ前に出ていたかどうかといった些細なオフサイドまで判定する必要が本当にあるのだろうか?
VARの基本は「明らかな誤りを防ぐ」ことのはずだ。赤や青の3Dラインを引かなくては判別できないのだとしたら、そのこと自体、それは「明らかな誤り」ではないことの証明になる。3Dラインを引かなくては判定できないならそれは“誤差範囲”であり、“誤差範囲”内なのであれば、それは同一線上と解釈してオンサイドと考えればいいのではないか?
サッカーというのはかなり“いい加減な”スポーツである。
ピッチ状態が荒れていることもあれば、強風が吹き荒れることもあり、ボールがイレギュラーな動きをすることはいくらでもある。選手が多少のミスキックをしても、パスを受ける選手が一生懸命に走ればパスはつながる。
FKの場面を想像してみよう。FKのボールが置かれた位置は本当に正確に反則が起こった場所だったか? 実際には、反則が起こった位置と、ボールの位置が1メートル以上離れていることはしょっちゅうある。
そして、守備側がボールから10ヤード(9.15メートル)離れた位置に「壁」を作るのだが、その距離はレフェリーが歩幅で距離を測ってスプレーでラインを引く。しかし、歩幅で計測した距離は正確なのだろうか? 実際に壁の位置が10ヤードより近いことも、遠いこともけっこう見かける。少なくともアタッキングサード内でのFKの場面ではアメリカン・フットボールで使うようなチェーンや電子機器を使って、正確に10ヤードを測るべきではないだろうか?
しかし、そういうことをしないで皆がレフェリーの歩幅を信頼している。それは、プレーの中断を嫌うからだ。「プレーを中断させない」という利益を得るために「壁」の位置が不正確であっても目をつむっているのだ。
それがサッカーというスポーツの常識なのだ。
それなのに、オフサイド判定では些細な判定をするために余計なエネルギーを割いているのだ。3Dラインを使ってわれわれがやろうとしているのは、本来必要とされる「有効数字」以上に細かな桁数までを求めるような行為なのではないか?
「木を見て森を見ず」という言葉がある。本来は「森」という全体像を見るべきなのに1本1本の「木」のことしか見えていない状態のことを(批判的に)言い表す言葉だ。現在のサッカーにおけるVARの運用は「木を見て森を見ずに、枝ばかり見ている状態」であるような気がする。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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