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サッカー フットサル コラム 2023年2月21日

勝ち点3を掴みそこねたレアル・ソシエダ、久保主導の可変システムは機能し切れず

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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久保建英

セルタ戦で可変システムに挑んだ久保建英

“久保主導の可変システムは機能し切れず”。

先週のセルタ戦(1-1)に久保建英視点でタイトルを付けるとこうなるだろうか。
久保のポジションは先々週のエスパニョールから[4-3-3]の1列目右、3トップの右サイドになっている。

それまでのシステムとポジションは[4-4-2]のセカンドトップまたはトップ下。絶対的で唯一の存在のシルバが負傷でトップ下に適任がいなくなったこと。オヤルサバルが[4-4-2]のセカンドトップでもトップ下でも生きないこと。アルグアシル監督を[4-3-3]に変更させたのは、これら2つが理由だろう。

オヤルサバルは3トップの左、久保は同右、セルロートがCFという並びで、今最も頼りになるアタッカー3人を勢ぞろいさせることができる。

ところが、セルタ戦ではさらなる変更を試みた。右にいる久保が左へ流れて左右非対称の並びになる。選手が流動的に配置を変えてシステムが変わることを「可変システム」と呼ぶが、それをやってきたのだ。

左利きの久保は右では逆足なので、サイドラインに張り付くよりも真ん中へ入って行くことを得意とする。なので、ブライスがサイドへ張り出した時に久保が中に入ってシュートを狙う、ということはこれまでも普通にやっていた。だが、この試合のようにオヤルサバルの隣でプレーするということはなかった。

「ポジションチェンジ」ではシステムは維持される。だが、久保が右へ流れることでシステムが左右非対称に変わっていたので、これは新システムに移行する「可変」である。

可変のスイッチを入れるのは久保。右に流れる久保に周りが適応してポジションを変える。
いつスイッチが入るのか? 注意深く見ていてわかったのは、オヤルサバルがボールを持ち、かつ周りにサポートがいてボールを失わず時間を作ることができる時に久保が動く、こと。オヤルサバルと周りがキープしている間に、久保がスルスルと近寄って来て、コンビに絡む、という仕組みだ。

この時久保は完全にフリーになっている。当たり前だ。彼がそこに現れることは完全に想定外なのだから。
久保をフリーにできる。これが可変のメリット。デメリットは久保のいた右サイドに穴が開き、ブライスだけではカバーできないこと。

左を厚くすれば、右が薄くなる。これが道理。変なボールの失い方をすれば穴を使われてセンタリング、シュートまでもっていかれる危険なカウンターを喰う。しかも右SBは人手不足で本職ウインガーのバレネチェアである。

久保が左に行くことでオヤルサバルとのコンビで決定的なチャンスを作れていたわけではない。これは監督の性格なのだろうけど、私は攻撃よりも守備を心配するタイプなので、カウンターを喰うのではとハラハラしていた。

「メリットよりデメリットの方が大きいかな」と思っていたら、案の定、後半は可変が鳴りを潜めた。監督の指示があったのだろう。

ちなみに、久保のアシストによるオヤルサバルの得点はカウンターから生まれたもので、可変は関係ない。
味方のインターセプトから久保がボールを受けマークを外してドリブル前進。ゴール前に侵入する絶妙のタイミングで出されたボールを、オヤルサバルがニアポストに強烈に叩き込んだ。絵に描いたようなカウンター。マークを引き付けパスコースを開けたセルロートの右サイドへの囮ランも見事だった。

可変があった前半もなかった後半もソシエダは思うようにボールが持てなかった。
メリーノが入ってからいい形でボールを奪えるようになったが、有効なカウンターに結び付けられなかった。相手が退場で10人になっても逆に押し込まれて、後半ロスタイムにオウンゴールで失点した──内容から考えれば、あり得る結末だった。

終了の笛が鳴った瞬間の、ゲームMVP久保の口を開けた茫然した表情が印象的だった。彼にはシュートに固執して3人のフリーの味方にボールを渡さず絶好機を逃した悔いもあったろう。

それにしてもみなさん、あのイアゴ・アスパスのロングシュートを見ましたか?
こぼれて来たボールをノートラップで蹴ったボールはGKの頭の上を越え、ポストの根元をかすめて外へ出た。命拾いしたあの瞬間、怖さがソシエダの体に染み込んだに違いない。アスパスを見るためだけでもセルタを見る価値がある、と再確認できたスーパーなプレーだった。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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