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サッカー フットサル コラム 2022年5月24日

残留監督の資質

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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残留を決めて仲間と喜ぶ久保建英

残留を決めて仲間と喜ぶ久保建英

久保建英がプレーせず、マジョルカが残留を成し遂げた。

招集された試合で出場しなかったのは今季初めてだったが、この采配にこそ残留請負人、ハビエル・アギーレ監督の強い信念が感じられた。

彼の理屈からして久保を出せるはずがない試合展開だった。

グラナダ、マジョルカ、カディスが2つの生き残り枠を懸けた戦いで、マジョルカは一番初めにリードした。この時点で久保はウォーミングアップをしていたが、0-1を守り切れば残留が確定する展開になったことで、鋭いドリブルで得点の原因にも不安な守備で失点の原因にもなり得る、久保は使えなくなった(スペイン3年目の彼の総括は別の機会に必ず書きます)。

5バックでまずは失点を防ぎ、攻撃は2トップを中心に組み立ててカウンターのリスクを負わない、というのはアギーレ監督の残留のための一貫したプランだった。

3ボランチの[5-3-2]を崩して、久保やイ・ガンインら攻撃的なMFを投入するのは、得点が必要な時に限定されていた。つまり、守備重視がプランA、攻撃的なシフトがプランBなわけだが、プランAのうちに3人だけーーアンヘル、ムリキ、マフェオーーで先制できた。ならば、Bへ移行する必要はない。

残留に明確なプラン(成功するかしないかは別にして明確であるかが重要)があり、明解なメッセージで選手とファンに残留を信じさせたことが、残留2監督、アギーレとカディスのセルヒオ・ゴンサレス監督の共通点だった。

試合前、「我われは勝利を確信している」(アギーレ)、「勝てば必ず残留できる」(セルヒオ)という、まあ当たり前のメッセージを出していた。対して、降格グラナダの監督アイトール・カランカは「チームは自信と競争心を回復した」だった。

この言葉の強さの違いは偶然だろうか? 否、必然のように思える。降格が刻々と迫る修羅場で顔面蒼白のカランカを見た後では。

マジョルカの得点で降格の影が見え、カディスの得点で降格が現実になった。

選手たちは浮足立ち、意味のないロングボールを放り込み始めた。信じられないことに、この若い監督には得点を取りに行くプランBがなかった。ケガでプレーできない選手がいたのに交代まで5分もかかり、入ったのはFW、守備的MF、CBという面々だった。守備的MFとCBは長身なのでロングボールのターゲットにするためだった。

この間、カランカの両手はポケットに突っ込まれたままだった。

生きるか死ぬかの戦いに臨み、このままだと十数分後に確実に死ぬチームの指揮官のボディランゲージとしては、信じられないものだ。ダンディでハンサムでクールなのがスタイルなのだろうが、自分を捨てられないのは監督として熱量が少な過ぎやしないか?

雨の中、傘を差して指揮した元イングランド代表監督がかつていた。

どんな豪雨でも戦いの場に留まり、生死を伴にするのが指揮官ではないか。選手がびしょ濡れなのに傘を差せる心境がわからない。

監督のメッセージは重要である。

修羅場であればあるほど解決策を求めて、選手は監督を探す。そして、メッセージは言葉だけではなく、表情や姿勢、ジェスチャーからも伝わる。

最終的には、残留を確信させ得たベテラン監督がいる2チームが残った。極めて妥当なことだった。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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