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サッカー フットサル コラム 2022年5月9日

レアル・マドリー強さの秘密ーーアンチェロッティのギャンブルと分析不可能なマジック

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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リーグ優勝記念パレードでベンゼマらと手を振るアンチェロッティ監督

リーグ優勝記念パレードでベンゼマらと手を振るアンチェロッティ監督

レアル・マドリーが先々週末、4試合を残してリーグ優勝した。第34節での優勝決定は97−98シーズン以来という早さだった。

独走優勝の最大の要因は、バルセロナとアトレティコ・マドリーの不調にある。

メッシが抜け財政難で補強もままならなかったバルセロナはスタートからつまずき、レアル・マドリーと第17節には追い上げ不可能な18ポイントが付いていた。昨季優勝のアトレティコ・マドリーの方は、3バック+ポゼッションサッカーという方向転換がうまくいっていたかのように見えたが、やはり出足でつまずき、そのうち戦術にも迷いが生まれて第8節を最後に2位すら上がれなかった。

レアル・マドリー自身の要因としては、アンチェロッティ監督の大博打の成功を挙げたい。開幕前、新監督にはモドリッチ、クロース、カセミロの後継者選び、セルヒオ・ラモスとバランが抜けたCBコンビの確立、という2つの大きな課題があった。このうち前者はイスコ、バルベルデ、アセンシオを試したものの現状維持に決め、後者はアラバ、ミリトンがベストと見るとその考えを二度と変えることはなかった。

結果的に11人のうち10人:クルトワ;メンディ、アラバ、ミリトン、カルバハル;クロース、カセミロ、モドリッチ;ビニシウス、ベンゼマが固定。唯一アセンシオとロドリゴのいる右サイドだけはポジション争いが許された。以上の12人に、ナチョ、バルベルデ、カマビンガ、ルーカス・バスケスを加えた16人でシーズンをほぼ乗り切った。マルセロ、ベイル、アザール、イスコ、ジョビッチ、マリアーノは数回チャンスを与えただけで切り捨てられることになった。

これがすでに大きな賭けである。

力と実績のある選手を、アンチェロッティは何らかの個人的理由ーー外部からはまったくうかがい知れないものーーで戦力化しなかった。もし、メンバー固定による体力的消耗や誰かのケガで失速していれば、真っ先に批判されるべきはアンチェロッティだったろう。

戦術的に不名誉な戦い方を選択したのもギャンブルだった。

レアル・マドリーはリーグの盟主であり、その名にふさわしい戦い方がある。それがバルセロナほどこだわらないものの、ボールの保持とスペース的優位で主導権を握るスタイルだ。だが、アンチェロッティは試行錯誤の結果、“引いて守ってカウンター狙い”という不名誉な戦い方を選んだ。これはハイプレス+ハイライン+ボール保持が主流となっている欧州超一流クラブの戦術トレンドからも外れるものだった。

この選択の裏には、現在世界最高のGKクルトワを擁していること、カセミロ、クロース、モドリッチにハイプレスを要求すれば体力がもたないこと、スピードで単独突破できるビニシウスと、彼とアセンシオ(またはロドリゴ)を使って少ないチャンス&人数で確実に決められるベンゼマがいたことがあった、と推測できる。

アンチェロッティの賭けがいかに危険なものであったのかは、先日のクラシコでのホームで屈辱の0−4大敗を見ればわかる。

あの試合で明らかになったのは、戦術にはプランBが不在で、ベンゼマの代役も存在しない、ということ。引いてカウンター以外の戦い方はないし、その唯一の戦い方はベンゼマはもちろん、おそらくビニシウス、カセミロ、クロース、モドリッチ、ミリトン、クルトワが欠けても成立しない。必勝の11人と戦い方で必勝チームを作ったのはアンチェロッティの功績だが、欠ければ機能不全を招く主力にほとんどケガ人が出なかったのは運に恵まれていたからだ。

運の影響を排除するために、普通は少々気に喰わない選手もプレーさせ、戦術的にもバリエーションを用意して保険を掛ける。が、アンチェロッティはあの11人、あの戦い方と心中した。レアル・マドリーがキャリア最後のクラブと腹を括っている監督だからこそ、できたことである、

一方、国外、CL決勝トーナメントで、3試合連続の大逆転で決勝まで進出したのは、マジックの力によるものだった。

欧州王者13冠の伝統の力とかサンティアゴ・ベルナベウ・ベルナベウスタジアムの圧力とかも、もちろんある。が、先週マンチェスター・シティ相手に10分間で3点を奪って大逆転勝ちしたのは、ベテランのカセミロ、クロース、モドリッチが下がった後だった。

他力本願が決定的な役割を果たしたとも忘れてはいけない。パリ・サンジェルマン戦とチェルシー戦でのGKの信じられない凡ミス、マンチェスター・シティの数々のシュートの外しっぷり。これらはレアル・マドリーのメリットではなく相手チームのデメリットである。

大逆転は力がある証拠だが、同時に力があればそもそも絶望的なリードを許していない。よって、分析や理由探しが不可能な「マジック」と呼ぶのがより正確だ、と思う。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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