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久保建英
対グラナダ戦でマジョルカと久保建英のいくつかのことがわかってきた。
(1)ダニ・ロドリゲス、イ・カンイン、久保の併用は可能だが、左サイドに入った者のパフォーマンスが下がること。その前提で、狭いスペースで突破力があるイ・カンインがトップ下、久保はスペースと余裕があり視野と技の幅を生かせる右がベスト、で、ダニ・ロドリゲスに左で泣いてもらう。
(2)久保の背後、イ・カンインが左に入った際の背後は弱点になる。彼らは背走ができないから。久保の右はカバーするとして両サイドが弱点だと戦えないから、久保が右には入った時のイ・カンイン左の選択はない。
久保の背後は右SBマフェオにマークを付けられることが多いので、セントラルMFのガラレタかババがカバーすべき。それでも弱点であり続けるだろうが、久保のメリットと差し引きすればプラスになる。
(3)久保は絶好調と言っていい。アシストの1つ前、決定的な崩すパスとなった振り向きざまのサイドチェンジ、イエローカード2枚を誘ったファールでないと止められないドリブル、スルー、シュートなど、ボールが入れば必ず何か決定的な仕事をする。
問題はボールが入らないこと。
プレスを掛けられるとボール出しができず、大きく蹴るしかない。グラナダのホルヘ・モリーナのようなポストプレーをできる選手がおらず、蹴るとほぼマイボールにならず、久保にボールが届かない。昨日の先発メンバーでハイボールを何とかできそうなのはダニ・ロドリゲスくらいで、久保、イ・カンイン、アンヘルは全敗。久保を無力化しマジョルカを無力化するために、他のチームも蹴らせるように持っていくだろう。
ルイス・ガルシア・プラサ監督は戦術的に次の2つの手を打った。
(1)アンヘルを左サイドへ、ダニ・ロドリゲスをセンターへ一時的にポジションチェンジをし、後者を狙って蹴らせる。
(2)[4−2−3−1]を[4−4−2]にしてアンヘルとフェル・ニーニョの2トップにして、どちらかをサイドへ流れさせてロングボールの受け手とする。
が、いずれも機能しなかった。
私が監督だったらどうするか?
(1)1トップにはアブドンを使う。彼ならアバウトなロングボールも競り合える。そうして頭ですらしてイ・カンインに走り込ませるなどのコンビネーションを確立させる。決定力も駆け引きもスピードもアンヘルやフェル・ニーニョの方が上だが、彼の起用でマイボール率は確実に上がる。
最初から2トップでスタートするのでは3人の攻撃的MFのうち誰か(今ならイ・カンイン)がプレーできず、プラスにはならない。
(2)久保がグラウンダーのボールを受けられるよう瞬間的に下がらせる。昨日も1回、そんなシーンがあった。
ただ下がって来るだけだと対策されるので、ガラレタをすれ違いで右サイドへ上げる。低い位置で久保がもらってもドリブル前進ではファウルで潰されるので、久保に入った瞬間にマフェオにサイドを上がらせ、彼かガラレタかへボールを預け、その間に久保を前へ走らせるなどのコンビネーションを確立する。
(3)アブドンとダニ・ロドリゲスで相手の最終ラインが下がって来られないよう釘付けにしておき、フリーで下がったイ・カンインが相手セントラルMFの背後でボールを受ける――メッシのゼロトップの発想で。このパターンは久保がケガをする前に何度か見せていたが、そこへ誰がパスを出すのか、という問題は残る。
(4)アブドンとダニ・ロドリゲスを比較的小柄な選手が多いSBとマッチアップさせる。サイドを割っても高い位置でリスタートになるから、相手のスローインに激しいプレスを掛けてインターセプトを狙う――これはジエゴ・コスタがいた時代のシメオネがやっていた。
(5)CBにドリブル前進させ、ファーストプレスに出て来る相手の背後をガラレタとババが動いて受け手となる。彼らにもマークが付いている場合は彼らを囮にして、手薄になっているはずのサイドへ展開する――これにはCBのキック力が必要で、そんなCBがいたらそもそもボール出しに苦労していないか……。
GKからのボール出しは要はセットプレーなので、設計図を作って反復練習すれば必ず向上する。以上のようなアイディアにはファンタジー(=机上の空論)の部分も多分にあって、練習で実際にやってみると機能しなかったりするが、テストを繰り返すうちに修正点も出てきてブラッシュアップされていく。
練習時間が取れるクリスマス休暇後はセットプレーを固めるチャンスで、ルイス・ガルシア・プラサの腕が問われる。一方で、我われ無責任な観戦者としては机上の空論でもいいので、いろいろ考えて想像することがサッカーの楽しみとなる。
チーム得点王ダニ・ロドリゲスでさえ3ゴール、続くフェル・ニーニョとアンヘルが2ゴール、アブドンは1ゴールとFWには多くを望めない。久保、イ・カンイン、ダニ・ロドリゲスのタレントにいかに多くのボールを触らせる仕組みを作るかに、マジョルカの後半戦は懸っている。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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