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サッカー フットサル コラム 2021年11月9日

ダービーをめぐる複雑な気持ち

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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セビージャダービー

セビージャダービー

昨日(7日)セビージャダービーに行ってきた。現地取材はコロナ禍の前以来、約2年ぶりだ。ベティスの本拠地では一昨年3月、緊急事態宣言が出る直前にレアル・マドリー戦を取材した。あの時はその後こんなことになるなんて想像もしてなかった。

まずは、かつての熱狂が戻ってきたことがうれしい。

6万人ちょっと収容のスタジアムはいつものダービーなら満員御礼だが、昨夜は9割の入り。上空を警察のヘリが飛び、騎馬警官がこちらを見下ろす。試合開始の2時間前には警察がバリケードを張り、両チームのスタジアム入りを警備する。

パトカーに先導されてセビージャのバスが入って来ると、一斉に耳をつんざくばかりの怒声が上がる。その言葉の汚さといったら、日本語に訳したらもう金輪際、原稿依頼が来ないというレベル。街では殴り合いの喧嘩の場に出くわさない限りは耳にしない類の罵り言葉を、子供までが発している。日常であれば親は決して許さないだろうが、今夜は特別。憎きセビージャに対してならば大目にみられる。そんな非日常の空間がダービーである。

遅れて入って来るベティスのバスは発煙筒と爆竹、拍手とコールで迎えられる。火薬の使用はもちろん禁止だが、そんなことを取り締まっていたら逆にファンの反発を買って暴動に発展しかねない。足下には割れた1リットルのビール瓶、ウイスキーの瓶、コーラ、プラスティックのコップがごろごろ転がっていて、よく見て歩かないとケガをする。道での酒盛りはもちろん禁止だが、最悪の事態を避けるため暴力以外は見て見ぬふりをされる。

この飴と鞭の使い分け具合がいかにもスペインだ。

スタジアムの周辺でも中のスタンドでもセビージャの赤いシャツやマフラーは皆無で、ベティスの緑一色。スペインのクラシコを含むダービーではアウェイチームのグッズを身に着けてはいけない。普通は罵倒され、最悪、殴られても文句は言えない。

セビージャファンはスタンドの最上段に隔離され、身分証明とボディーチェックを済ませ、スタジアム入りも出も警察の護送付きで単独行動は許されない。面白いのはセビージャのスタジアムに集められて1時間半くらいかけて徒歩でやって来ること。徒歩が一番コントロールし易いからだ。

こういう殺伐とした空気は、コロナ禍以前とほぼ同じだった。だが、10年ほど前まではもっと酷かったのだ。

投げ込まれたペットボトルで監督が負傷し試合打ち切りとか、警備員が松葉づえで滅多打ちにされたりとか、アウェイファンの応援席にロケット花火が撃ち込まれるなんて恥ずかしい光景がテレビ中継され、全世界に発信されたこともあった。今はスタジアム内は街よりもはるかに安全。危ないのは敗戦後のスタジアム周辺だ。昨日の試合ならベティスが負けたので、ベニートビジャマリンの周辺をセビージャファンの格好で歩いていたら、間違いなく袋叩きに遭う。

一週間前にいたバスクダービー、ソシエダ対アスレティック・ビルバオの雰囲気とはまったく違っていた。

サン・セバスティアンを訪れたのはプライベートだったので試合の取材は行かなかったが、街ではバルで青のソシエダファンと赤のビルバオファンが酒を酌み交わすシーンが普通に見られた。スタンドでも両チームのファンが仲良く並んで座っている。

かつてバスクはビルバオの一人勝ちだったが近年ソシエダが力を付け、イニゴ・マルティネス(ソシエダ→ビルバオ)の因縁の移籍もあってライバル心は高まっている。が、それでも同じバスク勢同士という連帯感が上回っているから、仲が良い。

こっちが健全だと思うし、こういうダービーを見たいと思うが、これは例外。なにせ、子供のサッカーのレベルでも隣のクラブとの試合はダービーとなるくらいだから、サッカーの近隣嫌悪はスペイン人の体の奥深くに根付いている。私も少年チームの監督を指揮していた時には、とんでもなく遠くのトイレのないロッカールームを与えられたり、ロッカールーム自体がなかったり、ウォーミングアップ用のボールを1個しか貸してくれなかったり(手ぶらで行くのが礼儀だが、それ以降はボール持参にした)などの“アウェイの洗礼”を受けた。勝った時にはあまり騒がず静かに引き上げて、クラブに帰った後に報告、会長らと祝うのがお約束だった。

昨日、終了のホイッスルが鳴った後、グラウンドへモンチ(セビージャの有名なスポーツディレクター)が出て来てガッツポーズをして、スタンド最上段のファンと一緒に勝利の雄叫びを上げていた。とんでもない挑発行為であり、帰途につきかけていたベティスファンから最大限の憎悪がこもった罵声を浴びていた。彼らはこの屈辱を決して忘れないだろうし、セビージャファンはモンチのカリスマを再確認しただろう。

こうやって次のダービーに遺恨が受け継がれていく。それがセビージャダービーのスタンダードであり、“ニュー”ではないノーマルなのだ。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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