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東京オリンピック開催に伴う中断明けのJ1リーグ第23節。田中碧に続いて三笘薫も海外移籍が決まり、主力2人が抜けたものの、首位を独走中の川崎フロンターレは大分トリニータに勝って着実に勝点3を積み上げた。一方、2位に付けていた横浜F・マリノスは引き分けに終わり、3位のヴィッセル神戸は柏レイソルに敗れて、川崎と追走集団との差はさらに開いてしまった。
今シーズンの前半、川崎と首位争いを繰り広げていた名古屋グランパスも、最下位の横浜FCに完敗を喫して順位を6位まで下げてしまった。
中断明けのJ1リーグの最大の話題は、名古屋を破った横浜FCの変貌ぶりだったのではないだろうか。
J1リーグでは5月に1勝しただけだった横浜FCは、中断直前の7月11日に行われた第22節でサンフレッチェ広島に勝利しており、約1か月後を置いて“今季初の連勝”を飾ったことになる。
勝利という結果もさることながら、何より驚かされたのはその試合内容だった。上位チームの名古屋を相手に完勝して見せたのだ。
横浜FCは、中断の間にU-24ドイツ代表として東京オリンピックにも参加したスベンド・ブローダーセンをはじめ5人の外国籍選手を補強していた(他の4人のフィールドプレーヤーはいずれもブラジル人)。名古屋戦では、早速ブローダーセンがゴールを守り、名古屋の前田直輝の左上隅を狙った強シュートをセービングするなど、見事な守備を見せた(強風の影響だったのか、キックは不安定だったが)。
しかし、横浜FCの勝利は「新外国人」の活躍によるものではなく、戦術的な勝利だった。
今シーズンの横浜FCは、4月に監督が交代。その後も、中断前まで何をすべきかが定まらず、右往左往するうちにリーグ戦の半分が過ぎてしまうという最悪のパターンだったが、中断期間を利用して、まさに「変貌」を遂げていたのである。
最大の勝因は、名古屋の攻撃を完封した守備面にあった。
名古屋は山崎凌吾が左足首靭帯断裂という重傷を負って長期離脱中。横浜FC戦はFWとして柿谷曜一朗とガブリエル・シャビエルが起用された。ともに、トップ下タイプの2人がツートップに並んだのだ。「偽の9番」という表現があるが、この日の名古屋はいわば「偽のツートップ」だった。そして、両サイドハーフには右にマテウス、左には東京オリンピックの3位決定戦から中2日の相馬勇紀が並んだ。
この4人のアタッカーに対して、横浜FCはスリーバック(伊野派雅彦、韓浩康、ガブリエウ)で対抗した。守備の局面では両ウィングバックのマギーニョ(右)と高木友也(左)も戻って、名古屋の4人のアタッカーを5人のDFで見る形だ。そして、名古屋の「偽のツートップ」を3人のセンターバックが封じ込めた。もともと、CFタイプではない柿谷とガブリエル・シャビエルがトップに張っていたのだから、3人のストッパーにとってここを抑えることは難しい仕事ではなかったのではないだろうか。
4-4-2の相手に対して、3-4-3で守る場合には「両サイドをどのように守るか」という問題がある。この試合でいえば、名古屋の左サイドは前では相馬がドリブルを仕掛け、後ろから吉田豊が攻撃に参加してくる。右サイドでマテウスがは変幻自在に中央や左サイドにも顔を出し、その空いたスペースにサイドバックの宮原和也が上がってくる。
この両サイドを、横浜FCのウィングバックが1人で見ることになるとサイドが弱点となってしまう。しかし、横浜FCはシャドーストライカーの位置に入った松浦拓弥と松尾佑介が相手のサイドバックをしっかりとチェックしたのだ。サイドバックをこの2人が抑えたおかげで、横浜FCのウィングバックは相手サイドハーフに集中できたのである。
しかも、松浦と松尾の2人のシャドーは攻撃面でも大活躍を見せた。
9分の先制ゴールは、記録上オウンゴールとなったが、横浜FCが完全に名古屋の守備を切り裂いた見事なゴールだった。タッチライン沿いで松尾がドリブルし、中のレーンを駆け上がったウィングバックの高木にパス。高木がペナルティーエリア内をえぐって、中央に走り込んだ渡邉千真に出したパスが相手DFに当たってゴールラインを割った。
そして、33分の2点目はハーフライン付近でこぼれ球を拾った右シャドーの松浦が出した狙いすましたスルーパスを、抜け出した松尾が受けて、名古屋のGKランゲラックの動きを見てループシュートを決めたもの。好守で大活躍した松尾こそが、この試合のマン・オブ・ザ・マッチだった。
こうして、内容的にゲームを完全に支配した横浜FCが2対0のスコアで勝ち切ったのだが、不可解だったのは名古屋のマッシモ・フィッカデンティ監督がどうして戦術的に動かなかったのかということだ。
名古屋はハーフタイムにオリンピックでの疲れでキレがなかった相馬に代えて前田を入れ、宮原に代えて森下龍矢を投入した(マテウスを左サイドに置き、右に前田が入った)。そして、さらに57分にはガブリエル・シャビエルに代えて齋藤学を入れ、MFの米本拓司に代えて長澤和樹が起用された。「早い時間の積極的な交代」と言っていいだろう。しかし、システムは前半と同じく、4-4-2のままだった。
相手の守備の組織に完全にはまってしまい、パスの出しどころがなくなり、結局はバックパスでなんとかつなぐだけだったのだ。システム変更が必要だったのは明らかだった。
せっかく、トップに柿谷やガブリエル・シャビエルといった「トップ下タイプ」が入っていたのだ。2人が前後にポジションを入れ替えて、相手のスリーバックやボランチの守備を混乱させるとか、4-3-3に変更してMFを3人に増やすことによって中盤で優位に立つなど、いくつかの選択肢はあったはずだ。
実際、後半に投入された齋藤がトップの位置から下りて、相手の最終ラインとボランチの間のスペースでパスを受けるようになると、名古屋の攻撃の機会は増えた。齋藤の動きが戦術的な指示によるものだったのか、それとも前線にボールが回ってこないので齋藤が自身で判断したのかは分からないが、そうした動きをもっと早い時間から意図的に使えば打開の道はあったように思える。
いずれにしても、横浜FCは攻守ともに最後まで組織が乱れることがなく、3-4-3のシステムを非常に効果的に使って完勝した。相手に強力なトップがいたらどうなるのか? また、これからは対戦相手が横浜FCのシステムを研究してくることも考えられる。そうした場合に、横浜FCの早川友伸監督がどのような手を打ってくるのか……。
もし、コンスタントに名古屋戦のような戦いができるのであれば、横浜FCはJ1リーグ後半戦ではJ1残留を勝ち取るとともに、上位の順位争いをかき回す存在になるのかもしれない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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