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バルセロナ退団会見で涙を拭うメッシ
メッシ退団。
会長の発表会見が終わり、本人のお別れ会見も終了した。静かだ。抗議デモなんてまったく起こっていない。本人もクラブも希望した契約が成立しなかったのは、ラ・リーガの課した年俸キャップ制をクリアできなかったせいだが、ラ・リーガの本部へ怒ったファンが殺到した、という話も聞かない。衝撃のニュースも意外に早く日常化していくのかもしれない。
このリーグを長年見守っている者からすると、“年俸キャップ制が引っくり返され、逆転残留”なんてこともあるかも、と思っていた。なにせ、メッシ喪失は数百億円の喪失となってラ・リーガの売上に跳ね返ってくるし、過去、ファンの蜂起に譲ってセビージャとセルタの強制降格を引っくり返す、なんてこともあったからだ。
だが、バルセロナのラポルタ会長は立派だった。“放出は年俸キャップ制のせい”とはせず、その大元にある“前執行部が作った大赤字のせい”というメッセージを明確に出した。“大目に見てくれれば残留できた”という泣き言もなかった。「ルールはルール」という高いモラルがサッカー界に生まれていることに感心させられた一件でもあった。
メッシがいなくてもリーガは続く。
大半のクラブは無償の補強(レンタル、自由契約)に力を入れ、足りない部分はBチームから補うという形で何とか強化しようとしている。たまに有償補強があっても、それは交換トレードや余剰戦力の売却によって賄われている。メッシ後のリーガはさらなる育成重視に舵を切るに違いない。今でもリーガは5大リーグで最も国産選手比率が高いが、この傾向はさらに強まるだろう。育てて売る、育てて強化する、だ。メッシの穴はアンス・ファティやペドロが埋める。ブライアン・ヒルは売られてセビージャの財政を潤す……。
メッシのいないリーガは我慢して前進する。
バルセロナのガンペール杯に呼べた観衆はわずか3000人だった。だが、昨年は無観客だったのだ。ベティスの親善試合にはキャパシティの25%、1万5000人の入場が許された。全員マスク姿。でも、昨年の3月非常事態宣言が出された以来、初めてお客さんを入れられた。
保健省はキャパの40%を「今月の上限」としている。今週末開幕だが、今日(9日)現在まだチケットは売り出されていない。日々変わる感染状況を見極めての折衝が続いているのだ。EURO2020ではノーマスクで満員の国もあったが、スペインはまだ途上。少しずつ日常を取り戻していく。
メッシのいないリーガは本命不在だ。
レンタルバックのタレントぞろいで潜在能力は凄いレアル・マドリー、ビッグネームを上手に獲ったバルセロナが、最も変化が少ない分計算が立つ昨季の王者アトレティコ・マドリーに挑戦する形になるのだろう。監督のやり繰り力が試されるので、采配、戦術には特に注目だ。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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