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サッカー フットサル コラム 2021年8月4日

世界最高峰のパス・サッカーとの真剣勝負。スペインとの120分間の死闘はA代表強化に直結

後藤健生コラム by 後藤 健生
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金メダル獲得を本気で目指していたU-24日本代表。準決勝ではスペイン代表の猛攻をしのぎ続けていたが、延長後半の115分にマルコ・アセンシオに決められて、0対1での敗戦。メキシコとの3位決定戦に回ることになった。相手の攻撃が切れてスローインになった一瞬、気が緩んで突破を許した形だが、連戦の疲労の中での延長戦では仕方のないことだった。

結果はきわめて残念なものだったが、試合自体は日本のサッカー史に残る大熱戦だった。

一言で言えば「スペインは強かった」。これだけである。

スペインは、つい先日まで行われていた欧州選手権(EURO)に出場していたA代表の選手を6人も招集して本気でオリンピックに乗り込んできた。

異例のことである。ヨーロッパでは、一般的にオリンピックのサッカーへの関心は高くない。U-23代表(今回はU-24)というのは、あくまでも育成の一貫でしかない。A代表が優先なのはもちろんだし、オリンピックのサッカーでは各国協会に選手招集の権利がないから、クラブ側が招集を拒否することも多い。

今回のオリンピックでも、フランスではクラブ側による選手のリリース拒否が相次ぎ、22人のメンバーを集めるのに苦労した。オーバーエイジとしてフランス代表に参加したアンドレピエール・ジニャックとフロリアン・トバンは、いずれもメキシコのティグレス所属だったから参加できたのだ。今大会では選手の枠が22人に拡大されたが(そのおかげで、19人目の日本代表選手だった林大地が全試合で先発起用された)、ドイツは18人の選手しか連れてこられなかった。

そんな中で、スペインは国内的に選手のリリースを義務化して、A代表の選手も招集したのだ。EUROに参加した直後に酷暑の中の東京オリンピックにも招集された選手にとっては、かなり負担は大きかったことだろうが……。

いずれにしても、スペインは“A代表並み”の陣容だったのである。

オリンピックのサッカー競技は1970年代まではアマチュアだけが参加できた。そして、1992年大会からは23歳以下の選手の大会となった。従って、ワールドカップに比べれば格下の大会なのだ。

そんな中で、プロの参加が本格的に解禁となり、しかも年齢制限が設けられる直前の1988年ソウル大会のサッカーはハイレベルだった。つまり、この大会では前回までのワールドカップに参加経験がなければ、すべての選手に参加資格があったのだ。

そのため、オリンピック直前の欧州選手権で大活躍した西ドイツ(当時)のユルゲン・クリンスマンやトーマス・ヘスラー、ソ連(当時)のアレクセイ・ミハイリチェンコといったスーパースターたちが参加していたし、ブラジルからはベベトやロマーリオが出場していた。

そんなソウル・オリンピック当時のチームと比べても、東京大会のスペイン代表はおそらくオリンピックのサッカー競技史上最強チームだったのではないだろうか。

オリンピック準決勝という舞台でそんなスペインとの真剣勝負を経験できたのだ。日本にとっては、実に貴重な経験となった。

しかも、日本はパスをつないでの攻撃を試みて真っ向から勝負したのである。

重要なことは、スペインも日本もともにパス・サッカーを志向しているチームだという事実だ。

日本の守備陣は、スペインの攻撃をしっかりと受け止めた。

1996年のアトランタ・オリンピックでは、日本は初戦でブラジル相手に勝利した。

しかし、あの試合ではまさに「雨あられ」という常套句そのままにブラジルのシュートを浴び続け、それをGKの川口能活が奇跡的なセービングで止め続け、またゴールポストにも助けられた試合だった。まさに「マイアミの“奇跡”」と形容するに相応しい内容だった。

だが、今回のスペインとの対戦で日本が115分まで無失点でしのげたのは、奇跡ではない。オーバーエイジの吉田麻也と酒井宏樹はスペインの攻撃を完全に読み切って、完璧なタイミングで相手FWにボールが入るのを阻止し続けたし、コースを完全に予測してシュートブロックに入っていた。前線からのプレスのかけ方も、中盤でのスクリーンも完璧だった。あれだけスペインにボールを握られながら、本当に危険なシーンはほんの数回しかなかった。

つまり、日本の守備は見事に機能したのだ。

これは、相手がパス・サッカーを志向するチームだったからだ。日本にとって最も嫌なのは強烈なフィジカル能力を持った選手によるパワープレーなのだ。

2014年ブラジル・ワールドカップの初戦で、日本はコートジボワール相手に先制しながら、後半から出場したディディエ・ドログバに対して敬意を払いすぎて逆転を許してしまったし、ロンドン・オリンピック3位決定戦では韓国の強力なトップを止められなかった。

だが、スペインの攻撃のクオリティーは非常に高かったものの、論理的なパスで崩してくる相手には日本のDFは対応できるのだった。

ところが、それは「逆もまた真」だった。

スペインは、準々決勝のコートジボワール戦では延長戦を含めれば5対2で大勝したが、崖っぷちまで追い詰められた。後半のアディショナルタイムに失点し、そして、その後終了直前に追いついてなんとか延長に持ち込んだのだ。

やはり、スペインとしてもフィジカルの強さを前面に出してくるコートジボワールのような攻撃に対しては守りにくかったのだろう。だから、2失点したのだ。

ところが、日本はパスをつないで攻めてくる。そして、パス・サッカーということではスペインは日本よりはるかにクオリティーが高い。従って、スペインの守備陣は日本のパスコースをすべて読み切って、日本の攻撃を完封できたのだ。

日本としては、パス・サッカー志向ではない相手(たとえば、コートジボワール)と戦っていたら、相手のフィジカルにつぶされて失点したかもしれないが、逆に、日本の機動力が生きて得点も生み出すことが出来ていたかもしれない。

いずれにしても、パス・サッカーを志向する日本代表が、パス・サッカーという意味で世界最高峰の(それも、A代表に近いレベルの)スペイン代表との戦いを経験できたのだ。本当に貴重な経験だった。

しかも、U-24日本代表の守備陣は酒井、吉田、冨安健洋(スペイン戦は出場停止)とA代表のDFラインが揃っている。ボランチの遠藤航もA代表の中心だし、田中碧もA代表のレギュラーを狙う選手だ。また、手薄と言われていた左サイドバックでも、今大会を通じて中山雄太が長友佑都の後継争いに名乗りを上げた。2列目の堂安律や久保建英も、もちろんA代表の貴重な戦力だ。

つまり、スペインとの真剣勝負という貴重な体験は、カタール・ワールドカップを目指しているA代表の強化に直結するのである。敗戦は残念だったが、あれだけのレベルのチームを送り込んでくれたスペインには大いに感謝すべきであろう。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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