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年末から年始にかけて、天皇杯全日本選手権や皇后杯全日本女子選手権、さらに年代別の大会などいくつものカップ戦(ノックアウト式トーナメント)が行われた。
ノックアウト式トーナメントの最大の興味は「ジャイアントキリング」なのだが、どの大会でもあまり大きな番狂わせは起こらなかった。大きな出来事としては全日本大学女子選手権で早稲田大学が敗れたり、男子大学の全国大会「#atarimaeni CUP」で明治大学が敗れたくらいだろうか……。
そういうわけで、「サッカーは番狂わせが多いスポーツ」と言われる割に「ジャイアントキリング」はなかなか起こらないものだなぁと思っていたら、最後の最後にかなりのアップセットが用意されていた。
第99回全国高等学校選手権大会の決勝戦で、山梨学院が青森山田をPK戦の末に破って2度目の優勝を飾ったのである。
もっとも、これを「ジャイアントキリング」などと言うと山梨学院の関係者やファンからは怒られるかもしれない。たしかに、同じ高校生同士の試合、同格のチームなのだからどちらが勝ってもおかしくないのではあるが……。
しかし、やはり高校サッカーの世界で青森山田というのは“絶対王者”と言っていい存在であろう。
この種のノックアウト式トーナメントで3大会連続で決勝に進出するというのは「快挙」と呼んでもいいことだし、2020年度は中止になってしまったが、高円宮杯プレミアリーグ(イースト)でも、青森山田は毎年のように優勝争いに絡んでいる。
日本のサッカー界において、若手選手の育成では今ではJリーグクラブの下部組織の役割が大きくなっており、中学生年代の優秀選手の多くもJリーグクラブのユースに流れていくようになった。そのため、今ではJリーグクラブと同等に戦える高校チームはそれほど多くない。そうした中で、青森山田などいくつかの全国区的な高校が優秀選手を集めて、Jリーグクラブと対抗できるチームを毎年作っているのだ。
今大会を見ても、青森山田の強さは群を抜いていた。
個々人の能力はもちろん、パス・スピードや攻守の切り替えなど高校レベルを超えていた。しっかりと速いパスを回して人数をかけて攻め込み、ボールを奪ってもすぐに切り替えて、敵陣でボールを回収して二次攻撃、三次攻撃を続ける。
準決勝でも守りを固めてカウンターを狙った矢板中央に対して5対0と圧勝しており、その勢いを駆って決勝でも山梨学院を圧倒するかと思われていた。
だが、延長戦を含めて110分戦って2対2の引き分けに終わり、PK戦の末、女神は山梨学院に微笑んだのだ(ちなみに、山梨学院はこの大会3度目のPK戦だった)。
決勝戦でも、内容的には間違いなく青森山田が上回っていた。
ボールを保持する時間はもちろん上回ったし、何度も相手守備陣を切り裂いて決定的なチャンスを作ることができていた。シュート数も山梨学院の7本に対して青森山田は3倍以上の24本。CKの数に至っては山梨学院がたったの1本だったのに対して、青森山田のCKは13本に達した。そして、これにDF内田陽介のロングスローまで加わるのだ。
しかし、中央をしっかりと固めた山梨学院のDFがシュートをブロックし、GKでキャプテンの熊倉匠が何度も決定機を阻止、さらにクロスバーやゴールポストに嫌われる不運もあって、青森山田の得点はわずか2点に留まった。
しかし、それでも後半には57分、63分と連続ゴールを決めて、一度は逆転に成功したのだ。大量得点はできないかもしれないが、そのままのスコアで青森山田が逃げ切るようにも思えた。なにしろ、青森山田が逆転に成功したあたりの時間帯では内容的には青森山田が圧倒していたからだ。
ところが、78分にFKから山梨学院に素早くつながれて、最後はDFとGKが絡む中でこぼれ球が生まれ、山梨学院の野田武瑠に押し込まれてしまったのだ。
青森山田側の視点で見た場合、あれだけ攻めながら3点目を決められなかった攻撃陣と、一瞬のスキを衝かれて2点を失った守備陣と、両者に課題が突き付けられた。
攻撃陣がそうであったように、110分間の試合を通じて守備陣もしっかり守っており、山梨学院に決定機を作られた場面はほとんどなかった。だが、たった2回だが、集中を欠いてピンチを招き、そこでうまく決められてしまったのだ。
1点目は前半の12分。キックオフ直後に宇野禅斗がミドルシュートを放つなど、青森山田はいくつかのチャンスを作っていた。チームとして「このまま行ける」という気持ちが強かったのだろう。山梨学院のサイドハーフ新井爽太が蹴ったアバウトなボールを野田がうまくつないで、右サイドを谷口航大が持ち上がった瞬間、青森山田の守備陣は対応ができなくなっていた。守備陣はスライドして中央を固めることができず、山梨学院の広澤灯喜をフリーにしてクリーンシュートを決められてしまう。
そして、後半の失点はFKからだった。
中盤での接触プレーで主審の笛が鳴ったのだが、やや厳しい判定だったため、青森山田の選手たちは一瞬集中を欠いて足が止まってしまったのだ。そこを見逃さなかった谷口がFKを素早く蹴ってクイックスタート。後手に回った青森山田の守備が乱れたところを、野田に決められてしまった。
90分を通じて大きな問題もなく守っていたのに、たったの2回集中を欠いてしまったことによって欲しかったタイトルが逃げて行ってしまった……。「サッカーというのは、本当に恐ろしいものだ」ということを痛感させられた試合だった。
もちろん、その相手の一瞬のスキを見逃さずにきちんと得点につなげた山梨学院の選手たちは間違いなく素晴らしかったのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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