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サッカー フットサル コラム 2020年2月7日

Jリーグ新シーズンの判定基準。VAR導入を成功させるためにも基準の明確化が望まれる

後藤健生コラム by 後藤 健生
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Jリーグ新シーズンの開幕を間近に控えて、日本サッカー協会(JFA)審判委員会によるメディア向け説明会が設けられ、扇谷健司Jリーグ審判デベロップメントグループ・シニアマネジャーから新シーズンに向けての「判定基準(レフェリング・スタンダード)」の説明が行われた。

まず、最初に強調されたのが「コンタクトプレーの判断基準」で、ビデオ映像を使った説明があった(この映像は加盟各クラブで選手・監督向けの説明にも使用されたものだ)。

最初に見せられた映像は「これはファウルを取らない」といういくつかの事例だった。昨シーズンの試合で主審が笛を吹いてFKもしくはPKとなった場面の映像が流され、そこに「これはファウルは」という趣旨のテロップが付けられていた。

正当なコンタクトプレー(たとえば、正当なショルダーチャージ)であれば反則にならないのは当然だが、たとえ相手の体に手がかかって相手が倒れたとしても、自然な動きの中での手の動きであったり、ボールの位置とまったく関係のないところでのコンタクトであればファウルは取らずにプレーを流す。あるいは、手を懸けられたFWが簡単に倒れたりしたら(シミュレーションでなくても)、これも反則は取らないというのだ。

「これまでの判定基準が変わるものではない」ということも同時に強調されたが、それは競技規則が変更されていないのであれば審判委員会としてはそう言わざるを得ないのであって、最初に「これは今年はファウルを取らない」という趣旨の映像を見せたのだから、事実上「これまでよりもファウルは取らずにプレーを流しますよ」というメッセージなのだと解釈すべきであろう。

実際、この映像を使用して説明を受けたクラブからは、選手や指導者が「これからは多少のファウルでも笛は鳴らないようだ」と解釈しているという“噂”を耳にしたことがある。

この種の判定基準の変化を巡っては、実際の“判例”を積み重ねていかないと理解が進まないものだ。開幕直後は選手が「あれ、これはファウルじゃないんだ?」あるいは「これはファウルなのか?」といった戸惑いを見せる場面も生じることだろう。

開幕直後に審判員の方が、いかに統一した基準で笛を吹くことができるか。それによって審判と選手、そしてサポーターの間で解釈が共有できるようになれば新基準は受け入れられるだろうが……。開幕直後は、各主審の基準に注目して見ていきたい。

また、先日バンコクで開かれたAFC U−23選手権では日本代表の試合で厳しすぎる判定が重なったり、また準々決勝では西野朗監督率いるタイ代表がVARによって微妙な判定によるPKを取られて敗退するなど、「重箱の隅をつつくようにVARによって反則を見つけ出して」審判が試合の行方を決める場面が多かった。

Jリーグの、コンタクトプレーで簡単に試合を止めないという基準は、もちろん世界基準のプレーを目指すJリーグの意図に則ったものであって、けっして間違いではないのだが、微妙なコンタクトでもいちいち笛を吹く傾向が強いアジアの審判のスタンダードとは微妙な(しかし、明確な)差がある。従って、Jリーグ基準やヨーロッパ基準の判定に慣れた日本選手がアジアの大会で不利益を受けることもあろう。代表チームでは担当審判員による判定基準の違いを分析して対策を講じる必要がある。

さて、J1リーグではいよいよ新シーズンから本格的にVARが導入される。

そのVARについては、やはり扇谷氏からビデオ映像を使っての説明があった。使用された素材は昨シーズンの昇格プレーオフ決勝、元日の天皇杯決勝で実際にVARによるチェックが行われた場面。つまり、VARの運用が成功した場面のものだった。

まあ、成功したか紛糾したかではなく、大事だったのはピッチ上の主審とVAR審判の音声によるコミュニケーションである。主審が笛を吹いた(あるいは笛を吹かなかった)理由を声を使って発信し、VAR審判もチェックが必要な場合には「ディレー」つまりプレー再開を止めることを要求。主審とVARの間で短時間のうちに意見が交わされ、さらに別角度での映像をチェックしていく手順の難しさが分かる映像だった。

VARが導入されると、主審は判定の理由をすぐに声に出してVARに伝えなければならないので負担はかなり増えるようだ。

これまでも何度も説明されているように、VARはすべての反則をチェックするためのものではなく、得点、PK判定、退場、警告退場の人違いの4つの場合における明確なミスジャッジを防ぐためのもので、「ほとんど全ての人が明らかな間違いと思う以外はVARが介入することはない」と説明されている。「Minimum interference」という原則である。

しかし、1月にタイで開かれたAFC U−23選手権では明らかにこの基準からの逸脱があった。

説明会の後には審判員との懇談の場も設けられたのだが、U−23選手権に実際に参加した審判の印象として、あの大会ではVARが「小さな反則を探そうとしていた」という印象があったという。

審判員との懇親の場で審判員たちが口をそろえたのが、VARの難しさだ。暗くて狭いブースの中で画面に90分間集中して過ごすのはかなりの重労働のようで、「気温30度のピッチで走り回る方がマシ」ということだ。ある審判員は「普段は鹿島まで自分で車を運転して行っていたのだが、VARの時は運転しないようにした」という。

そんな環境の中で画面に集中していると、ついつい小さな反則の可能性にも目が行ってしまいがちになるという。

VARもやはり慣れだ。どんな場面でVARが介入し、どんな場面で主審が時間をとってオンフィールド・レビューをするのか……。経験を積み重ねながら、Jリーグならではの基準が作られていくのだろう。本格的導入初年度となれば多少の混乱は生じることになるだろうが、長い目で見ていきたい。

U−23選手権を反面教師として、過度に介入することなく、また必要な時にはしっかりと判定を正せるようにしてほしい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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