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キリンチャレンジカップでトリニダード・トバゴ、エルサルバドルと対戦した日本代表チームは、大幅にメンバーを入れ替えてブラジルに向けて移動。「招待」の形で南米選手権「コパ・アメリカ」に参加する。
ブラジルに遠征する日本代表は公式にはA代表と称しているが、23人中18人が22歳以下。つまり、実質的にはU−22代表+オーバーエイジという構成だ。つまり来年の東京オリンピックを目指すチームの主力部隊ということになる。来年のオリンピック出場選手は、大半が今回のコパ・アメリカ組にトゥーロン国際に参加して準決勝を決めたチーム。そして、ポーランドでのFIFA U−20 ワールドカップに参加した選手の合計50人弱くらいの「ラージグループ」の中から絞り込まれるはずだ(オーバーエイジ枠も、今回U−22代表とともにコパ・アメリカ参加組の中から選ばれる可能性は強い)。
今回のコパ・アメリカでは日本は招待参加であり、FIFAのインターナショナルマッチのウィンドー以外での活動だから、日本サッカー協会には選手を拘束する権限がない。しかも、コパ・アメリカ開催中にもJリーグは中断しないから、Jリーグ所属の国内組でも自由に選ぶことができず、そんなこともあってU-22代表クラスでの参加となったのだろう。
選手の拘束権がないことは最初から分かっていたことのはずだ。日本サッカー協会は、コパ・アメリカ参加を決めた時点でなぜJリーグに中断を申し入れなかったのかという疑問は残る。どのような方針で強化を進めるつもりだったのか、技術委員会としてしっかり説明をしてほしい。そういった観点から、今回の代表の編成方針をネガティブに捉えている人も多いようだ。
だが、結論として言えば、僕はコパ・アメリカに実質的なU-22代表を送り込むことには大賛成だ。
森保一監督は、この難しい状況を逆手にとって、コパ・アメリカをオリンピック代表の強化に使うことにしたのだ。
サッカーの世界では「オリンピックよりワールドカップ」であり、いつもならA代表強化が最優先だ。だが、来年のオリンピックは自国開催なのだから、サッカー界にとってとても重要な大会だ。他競技がメダルラッシュで沸き返るような状況の中でサッカーが不成績では日本のスポーツ界におけるサッカーという競技の地位が揺るぎかねない。その存在をアピールするためには最低限でもメダル、できれば金メダルを取っておきたいのだ。さらに言えば、男子と女子の両方で金メダルを取れれば最高だ。
しかし、U-22代表の強化試合の数は限られているし、海外組の拘束力もなく、Jリーグの選手も自由には招集できないのが現状。オリンピック代表監督は、毎回のように自由に選手を集めてチーム作りができないことで頭を悩ませる。
だが、森保監督は兼任監督であることを利用して、今回のコパ・アメリカをオリンピック代表の強化の場にしてしまったのだ。南米のA代表チーム同士の真剣勝負の場を、オリンピック・チームの強化に使うというのだ。考えてみれば、じつに贅沢なことである。
今回の「コパ・アメリカをどうするか」という難題もそうだが、代表チーム強化にはスケジュール的に難しいところが多い。そうして日程面での問題点を利用しながら、森保一監督は就任以来着実にチーム作りを進めているようだ。
2018年のロシア・ワールドカップ終了後に「オリンピック・チームの監督兼任」という形で森保監督が就任した。
目標である2022年のカタール・ワールドカップに向けた強化のためには、まず最初にいわゆる「ラージグループ」を作ることから始めたかったはずだ。
しかし、2019年1月にはアラブ首長国連邦(UAE)でアジアカップが開かれることになっていた。「アジアカップは強化試合」と割り切って、将来のために若手で戦うことも考えられたが、森保監督はあくまでもアジアカップを勝ちに行った。
そのため、9月のシリーズで素晴らしい攻撃力を発揮した堂安律、南野拓実、中島翔哉の3人を中心に据えてコアメンバーを固定して強化を進め、アジアカップで準優勝という成績を残した。ここまでが、強化の第1段階である。
そして、アジアカップを終えるとチーム作りは第2段階に入った。
つまり、ワールドカップ以降招集されていなかった香川真司や岡崎慎司を呼び戻したり、若い選手を積極的に起用。U-22代表の活動も含めて、いわゆる「ラージグループ」の形成を始めた。3月から6月かけての、新戦力の発掘とラージグループの形成が強化の第2段階ということになる。
第2段階では、さらに新システム(3−4−3)も導入して攻撃面でのオプションを増やすことに成功した。
スリーバックを初めて使ったトリニダード・トバゴ戦では、新システムはあまり効果的ではなかったが、次のエルサルバドル戦ではスリーバックが機能し始めた。
まず、両翼にサイドバックの長友佑都や酒井宏樹ではなく、エルサルバドル戦では伊東純也と原口元気というアタッカーを起用。そのため、アウトサイドで高いポジションを取ることができた。また、最終ラインのDF3人も新システムに慣れて、エルサルバドル戦の2ゴールはどちらもDFの冨安健洋、畠中槙之輔が起点となっていた。
森保監督3−4−3にはなくてはならない動きだ。
かつて、アルベルト・ザッケローニ監督も何度かスリーバックを試みたことがあるが、結局は新システム導入を断念した。それをたった2試合目で機能させることができたのは、最近の若い選手たちの戦術理解能力の高さのおかげであろう。
こうしてアジアカップで第2段階を終了した森保監督。
第3段階はワールドカップ2次予選からと考えているのだろう。格下の相手に最強メンバーを当てる必要はない。真剣勝負の戦いの中で新戦力を発掘しながら、新システムに習熟できるようにすればいい。そして、2次予選の間に新システムを完成させる……。こうして、2次予選のうちに第3段階を終え、そして五輪代表チームと融合させて最終予選に臨むというのが森保監督が描いている「工程表」のはずである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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