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「アイスホッケーのアジアリーグから日本の3チームが脱退する」というニュースを聞いた。
アジアリーグは、2003年に当時の日本リーグ所属の4チームに韓国のハルラ(漢拏)を加えて発足。2017-18シーズンは日本の4チームに韓国の3チーム、そしてロシアのサハリンを加えた8チームで行われた(中国のチームが参加したこともある)。
ところが、日本の4チームのうち日本製紙クレインズが今年限りで廃部となることを決定。残りの3チームが今後の方針として、アジアリーグからの脱退を決めたというのだ。
もともと日本のチームを中心に各国のチームが加わった形で運営されていただけに、アジアリーグの存続は難しいのかもしれない。
かつては日本でもアイスホッケーはかなりの人気スポーツで、1970年代~80年代には世界選手権のグループBの大会が日本でも何度も開催され、日本が最強のグループA昇格にあと一歩に迫ったこともあった。正直言って、当時は「日本サッカーリーグよりも勢いがある」と思われた時期もあったし、僕もアイスホッケーをよく見に行ったものだった(サッカーとアイスホッケーは良く似たスポーツだ。足でボールを扱うことと、スティックでパックを操ることの困難さが同じ程度なので、中盤でのターンオーバーが頻発するあたりが、2つのスポーツの共通点)。
ところが、その後、日本のアイスホッケーは弱体化。男子の日本代表は1980年大会以降、地元開催の1998年長野大会を除いて冬季オリンピックに出場できないでいる。
そして、日本からアジアリーグに出場していた4チームのうち日本製紙がついに撤退してしまったのだ。企業からの支援に頼り切っていた「実業団」という枠組みが、もう限界に達しているのだろう。そういえば、僕自身ももう何年もアイスホッケーの試合を見に行っていない。
そんな中でアジアリーグという活動は気になっていた。「国際リーグ」というのが成功するかどうか、興味があったのである。
一国の国境内に留まらない「国際リーグ」。すぐに思い浮かべるのが、ラグビーの「スーパーラグビー」だろう。
もともと、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドという南半球のラグビー伝統国の間で始まった大会だが、2016年からは新興国のアルゼンチンのジャガーズと日本のサンウルブズが加わり、日本でもすっかりお馴みの大会となった。
スーパーラグビー参加各国にはそれぞれ国内リーグがあり、参加チームもクラブチームと選抜チームの中間のような形態になっているので「スーパーラグビー」はそれ自体が国内リーグと同等の存在ではない。だが、それにしても、こういう国際的なクラブレベルの大会というのはサッカー界にはなかったので、そこに何かヒントはないかと気になっていたのだ。
しばらく前にこのコラムで、ヨーロッパの強豪クラブを集めたエリートリーグの話題を紹介した。イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティとかリヴァプール。ドイツ・ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘン。スペインのリーガのレアル・マドリードやバルセロナ。イタリア・セリエAのユベントスといったクラブによる強豪同士のエリートリーグだ。
しかし、今回、話題にしているのは、そうではない。普通に各国で行われている国内リーグを国境を越えた形で広域化してはどうかという話だ。
アイディアは昔からあった。オランダとベルギーのリーグを統一してベネルックス・リーグにするとか、ポルトガルのエリート・クラブをスペインのリーガに加盟させるとか、ポルトガルとオランダ、ベルギーで一つのリーグを作ろうという極端なアイディアすらあった。
要するに、一か国だけでは人口や経済の規模が小さくて財政的に大国のクラブと対抗できない小国のクラブが生き残り、トップ選手の国外流出を防ぐのが目的だ。
スポーツ的にも、小さな国では優勝の可能性を持つ強豪チームが少なくて、リーグ戦の興味が失われてしまうという弊害がある。オランダだったらアヤックスとフェイノールト、PSVアイントホーフェン。ポルトガルだったらスポルティングにベンフィカ、ポルト。スコットランドだったらセルティックとレインジャーズと、優勝争いに絡めそうなのは一部のクラブだけだ(大国でも最近はメガクラブとその他のクラブの格差が広がりすぎており、だからこそエリートリーグとしての「ヨーロッパリーグ」構想が顔を出すのだが……)。
さらに、ここ30年ほどの間にヨーロッパでは国境の単位がますます細分化されている。ユーゴスラビア連邦が崩壊してしまったために、ツルヴェナ・ズヴェズダ(レッドスター=セルビア)対ディナモ・ザグレブ(クロアチア)という黄金カードが見られなくなってしまったし、もしカタルーニャが本当に独立してしまったら、レアル対バルサのクラシコも見られなくなってしまう。
それなら、やはり国境の枠を越えて「ユーゴスラビア・リーグ」を復活させた方が、リーグ戦の興味もつながるし、各国の強化にもつながるのではないか……。
サッカー界にはアイスホッケーのアジアリーグや、スーパーラグビーのような大会は存在しない(あるのは、各国リーグの上位チームを集めた各大陸のチャンピオンズリーグだけ)。これは、サッカーの世界にはFIFAという伝統ある強力な統轄団体が存在し、そのFIFAは「1国1協会」という原則で動いている。各国協会の枠を越えた国際大会はすべてFIFAあるいは各大陸連盟が管轄する。つまり、「1国1協会」の原則というのは「各国協会の管轄圏は国内に限る」という排他的な考え方でもあるのだ。
しかし、小国のクラブの財政的弱体化を防ぎ、リーグ戦のレベルを上げるためには「国際リーグ」を作った方がいいと思われるケースは間違いなくある(もちろん、「ユーゴスラビア」の復活などは政治的に不可能かもしれないが……)。
東アジアでもそうだ。強豪クラブ同士の対戦を増やすことは、各国の強化につながる。JリーグとKリーグで一つの大会を行う、たとえばYBCルヴァンカップを日韓合同で、あるいは中国やロシア極東のクラブを加えて開催できれば、とても得るとことが大きいと思うのだが……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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