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イングランド・プレミアリーグのスター軍団が集結するベルギーとイングランドのファイナル進出が大いに期待されていた2018年ロシアワールドカップ。しかし10、11日の両日に行われた準決勝で、ベルギーはフランス、イングランドはクロアチアに揃って敗退。惜しくも王者の座に輝くことはできず、14日の3位決定戦に進むことになった。
まずベルギーの方だが、6日の準々決勝でブラジルを1-2で撃破し、勢いに乗って4強まで勝ち上がってきた。「ベルギーの4強入りは86年メキシコ大会以来。あの時よりタレント力は圧倒的に上。2014年ブラジル大会で8強入りしたタレントたちが円熟期を迎えていて、今回は最初から大きな成果を残すと思っていた」と同国のウェブサイト「Vortbalkrant.com」のフロレント・マリス記者も鼻息が荒かった。
実際、フランスとの一戦は極めてハイレベルなものだった。4-3-3布陣を採るフランスに対し、ベルギーは4-2-3-1でスタート。左サイドに位置したエデン・アザール(チェルシー)が凄まじい突破力と打開力でチャンスを作る。「クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)とメッシ(バルセロナ)、ネイマール(PSG)が去った今、この大会を自分の大会にしたい」と意気込んでいた通りの切れ味の鋭さを背番号10は見せつける。開始20分間は圧倒的なベルギーペースでアザールとマルアン・フェライニ(マンチェスターU)が再三決定機を迎えたが、ゴールだけが遠い。結果的にはこの時間帯が彼らにとっての大きな分かれ目になってしまった。
強固な守備組織を前面に押し出していたフランスが攻勢に出たのは前半30分以降。後半5分の先制点も右CKからのサミュエル・ウムティティ(バルセロナ)のヘディング弾だった。この瞬間、ベルギー守備陣はニアサイドを空けてしまい、フェライニが競り合ったが一歩遅れてドンピシャリのタイミングで合わせられてしまった。この虎の子の1点をフランスはガッチリ守り切り、ベルギーの追撃を振り切った。アザールが凄まじい輝きを放ち続けていただけに、この結果は残念すぎた。
ロベルト・マルチネス監督の采配で悔やまれた部分があるとすれば、ボランチにムサ・デンベレ(トッテナム)を起用したことか。彼に配球や中盤の安定化を期待したようだが、ケヴィン・デブライネ(マンチェスターC)が下がった後の方が機能していた印象だった。もう1つ、ミシー・バチュアイ(ドルトムント)を投入するタイミングがもう少し早くてもよかった。選手起用1つで流れが変わるのはサッカーの常だが、今回はトーマス・ムニエ(PSG)の出場停止も響いたと言えるだろう。
一方、イングランドの方は過去2戦連続で120分間の死闘を演じているクロアチアよりフィジカル・メンタル的に優位だと見られていた。若くフレッシュなメンバーの勢いそのままに開始早々の5分にキーラン・トリッピアー(トッテナム)の直接FKが決まり、彼らは主導権を握る。前半のクロアチアは疲労困憊のせいか動きが重かったため、このまま後半まで行きそうなムードも漂った。
しかし「ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)ら30代選手にとってのラストワールドカップを絶対に手にしたい」というクロアチアの飽くなき闘志を前に、若きイングランドは徐々に後手に回り始める。
それを決定的にしたのが、後半23分のイヴァン・ペリシッチ(インテル)の同点弾だった。シメ・ブルサリコ(アトレチコ)のクロスに思い切って飛び込み、カイル・ウォーカー(トッテナム)の頭上を抜いたシュートを境に、クロアチアは息を吹き返し、俄然、走力と運動量を高めていく。
イングランドもマーカス・ラッシュフォード(マンチェスターU)ら攻撃陣を投入して流れを変えようとするも、焦燥感ばかりが前に出てしまう。そのあたりがイングランドの若さなのだろう。平均年齢の高いクロアチアはその弱みを徹底的に突き、延長後半4分にマリオ・マンジュキッチ(ユベントス)が決勝弾を奪う。この2点目を食らって、イングランドはなす術が見いだせなかった。
残念だったのは、エースFWハリー・ケイン(トッテナム)に2戦連続ゴールが生まれなかったこと。彼の決定力が影をひそめると、イングランドは以前の「点の取れないチーム」に戻ってしまう。ラヒム・スターリング(マンチェスターC)らデレ・アリ(トッテナム)らもまだまだ波があり、安定した得点力はない。だからこそ、ケインにはエースの意地を見せてほしかった。
こうしてプレミアスター軍団はロシアのファイナルの舞台には立てなくなった。が、まだ3位決定戦もある。未来あるタレントたちが今後に弾みのつくようなパフォーマンスを見せてくれれば、来季プレミアリーグ、4年後のカタールワールドカップにもつながる。ベルギーとイングランドはトッテナム勢を筆頭に同じクラブでプレーする面々が多いだけに、手の内が分かりあっている。そこが1つの見どころでもある。華麗な攻撃のベルギーか、堅守とハードワークのイングランドか。14日の両国のラストマッチも興味深く見守りたい。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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