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今季イングランド・プレミアリーグも5月13日の最終節を残すのみ。マンチェスター・シティの優勝などすでにリーグの大勢は決し、シーズンオフの移籍話が話題に上るようになってきた。
そんな中、古巣・エバートンに昨夏、14年ぶりに復帰したウェイン・ルーニーがわずか1年で新天地へ赴くのではないかという噂が急浮上している。アメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)のDCユナイテッドや中東、中国のクラブからオファーが届いているという現地報道もあるようだ。 もしもアメリカ行きとなれば、この3月にロサンゼルス・ギャラクシーへ移籍したズラタン・イブラヒモビッチに続く大物移籍となる。果たして、イングランドの怪物はどんな道を選ぶのか。そこは多くのサッカーファンの関心事と言っていい。
エバートンのアカデミーで育ったルーニーは、まだ16歳だった2002年夏にプレミアリーグデビューを飾り、02-03・03-04の2シーズンをプレーした。その後、マンチェスター・ユナイテッドにステップアップし、13シーズンを過ごした。マンチェスターU時代には、プレミアリーグ制覇5回、2008年UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)優勝など、数々の栄光を手にし、イングランドサッカー界の看板FWとして長く君臨してきた。
かつてUCLでルーニーと戦った内田篤人(鹿島。当時シャルケ)は「ルーニーなんかは『ボールが回らないな』と思い始めたら、引いてきてサイドチェンジしてまたボールをもらって動いたりするし、点も取るし、そこの駆け引きがすごい。そういう変態なやつがいるから、マンチェスターUとかビッグクラブは強いんですよね」と神妙な面持ちで語っていたが、彼の独特な感性がアレックス・ファーガソン監督率いる赤い悪魔を力強く支えていたのは、紛れもない事実だ。
2012年夏から2シーズンともにプレーした香川真司(ドルトムント)も、超人アタッカーの高度なセンスによって能力以上のものが引き出されていた。ファーガソン監督が勇退しなければ、もう少し2人のコンビを長く見られたはず。そう考えるとやはり残念と言うしかない。
それほどの偉大な男だけに、古巣に戻った以上は現役引退までエバートンのために身を捧げるのかと思われた。クラブ側もそれを望んでいると見られていた。実際、今季のパフォーマンスを見ても、ここまでリーグ31試合に出場して10ゴールと悪くない数字を残している。エバートン自体もビッグ6の牙城こそ崩せていないものの、7位・バーンリーに続く8位でフィニッシュできそうだ。
もちろん、クラブ関係者はUEFAヨーロッパリーグ(EL)圏内の6位以内を望んでいたのかもしれないが、オウマル・ニアッセやチェンク・トスンらプレミア中~上クラスのアタッカーしかいない実情では、ある意味、やむを得ないところがある。ルーニーに昨季得点王争いを演じたロメル・ルカク(マンチェスターU)レベルの大活躍を期待していたのも理解できるが、FWの選手は周囲との連携の問題もあるため、すぐに新天地でブレイクできるとは限らない。それを踏まえても、今季の実績はそこまで悲観するものではないはずだ。
しかしながら、クラブ側は放出の方向に傾いていると言われる。ルーニーの32歳という年齢を視野に入れ「商品として売れる時期に売ってしまいたい」という思惑があるのだろう。巨額の移籍金が転がり込めば、エバートンは別の点取屋を補強できる。確かにビッグ6の一角に食い込みたいと思うなら、それだけの大胆な動きも必要かもしれない。ただ、ルーニーを指示するサポーターの心情はどうだろうか。アカデミー出身選手が古巣に戻ってきたことはどんなチームでも特別なこと。そのあたりも考慮しつつ、今後の動きが進んでいくのではないか。
もしもルーニーがMLSへ赴くことになれば、イブラヒモビッチとともにリーグを盛り上げてくれるだろうし、中東や中国に行っても注目度は抜群だろう。ここ数日、Jリーグのサガン鳥栖がフェルナンド・トーレス(アトレチコ・マドリード)にオファーを出し、ヴィッセル神戸もイニエスタ(バルセロナ)の獲得に本腰を入れていることが判明するなど、日本でも大物選手移籍の話題で持ち切りだが、仮にルーニーに食指を伸ばすクラブが出てきたら面白いかもしれない。
これまでイングランドだけでサッカー人生を送ってきた男がそういう斬新なキャリアを選択するかどうかは分からない。が、いずれにしても、この男の動向がこのオフシーズンの大きな関心事になるのは確か。興味深く見守りたい。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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