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サッカー フットサル コラム 2018年4月25日

ヴェンゲル監督の退任 イングランドの近代化こそが最大の遺産

後藤健生コラム by 後藤 健生
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アーセナルのアルセーヌ・ヴェンゲル監督が今シーズン限りで退任することが決まった。 1996年に監督に就任。22シーズンにわたって名門アーセナルを率いて戦い、プレミアリーグで3度、FAカップで7度の優勝。2003/04年シーズンの無敗優勝こそが最大の金M字塔だ。このところタイトルから遠ざかり、今シーズンもプレミアリーグで6位に甘んじており、退任の決定はやむを得ないが、実績から言えば押しも押されもせぬプレミアリーグを代表する名監督の1人だ。

1993年の開幕以来Jリーグのお荷物のような存在だった名古屋グランパスエイトを強豪の地位に引き上げ、同クラブに所属していたドラガン・ストイコビッチに輝きを取り戻させたヴェンゲル監督がアーセナルに移った1966年の夏のことだった。 ふた昔前のプレミアリーグは、まだ近代化の途上にあった。

当時のイングランド最強チームは、サー・アレックス・ファーガソン監督就任から10年を迎えたマンチェスター・ユナイテッドだった。ヴェンゲルの監督就任の前シーズンにはプレミアとFAカップのダブル・チャンピオンとなり、さらに1996/67年シーズンにはプレミア連覇を達成している。

そのユナイテッドのライバルであり、現在ではイングランド最大のメガクラブとなったマンチェスター・シティは、当時はまだユナイテッドの後塵を拝していた。まだ古い(そして、雰囲気のある)メインロードをホームにしていたシティは、1995/96年シーズンにプレミアリーグで18位に終わり、翌シーズンにはディヴィジョン1(つまり2部リーグ)に降格していた。そんな時代だった。

チェルシーは外国人選手多数を擁してすでに強豪チームの一つであり、グレン・ホドル監督がイングランド代表監督に就任したのにともなって1996/97年シーズンにはルート・フリットがプレーイング・マネージャーとなった。また、まだ陸上競技のトラックが付いていたスタンフォード・ブリッジの大規模改修が始まったのも1995年のことだった。しかし、この改修に多くの経費を割いたこともあってクラブ経営も難しくなっていたのだ。ラモン・アブラモビッチがチェルシーを買収するのは2003年のことである。

リヴァプールは1980年代に起こった2つのスタジアム事故(1985年のヘイゼルの悲劇と89年のヒルズボロの悲劇)からようやく立ち直った時期だった。 2つの悲劇やブラッドフォードでのスタンド火災など相次いだスタジアム事故。テイラー報告がまとめられ、以後、イングランドのスタジアムは近代化(全座席化)され、危険で汚かったサッカー場が近代化すると同時にサッカーというスポーツは中産階級以上の人びとの娯楽へと変わっていった。

ルート・フリットの名前が出たが、当時、外国人選手はどんどん増えつつあったものの、イングランドのクラブのほとんどの監督はまだイングランド人(または、スコットランドなど英国人)だった。 そんな時代にフランスを代表する指導者であったヴェンゲルがアーセナルの監督に就任したのである。

イングランドのサッカーは、プレミアリーグはすでに発足していたものの、まだ「古き良き時代」を引きずっていた。トレーニング法や選手の健康管理など科学的なコントロールはなされていなかったし、ピッチ上の戦術もロングボールを多用するいわゆる「イングランド・スタイル」が幅を利かせていた時代だった。

一方のフランスでは、クレールフォンテーヌのフランス・サッカー連盟(FFF)直属の養成所や各クラブのアカデミーから次々と若い有望な選手を輩出するなど、近代的で科学的なアプローチで強化を進めてきていた。ヴェンゲルがイングランドにやって来た2年後のワールドカップでは、エメ・ジャケ監督の下で勝負強さも身に着けたフランスが初優勝を飾ることになる。

フランス流の近代的なアプローチを導入したことによって、ヴェンゲル監督のアーセナルはたちまちプレミアリーグを代表する強豪となっていった。そして、ヴェンゲルや1998年からリヴァプールを率いることになるジェラール・ウリエなどは、まだまだプリミティブな状態だったイングランド・サッカーの近代化の先駆けとなったのである。

ヴェンゲルがアーセナルで成功すると、各クラブは次々と外国人指導者と契約を交わすようになり、現在ではプレミアリーグのほとんどのクラブが外国人監督の指揮下にある。イングランドは19世紀にサッカーというポーツを生み出した国、つまり「サッカーの母国」である。その母国としてのプライドもあり、かつてはイングランドのクラブが外国人指導者を受け入れることは難しかった(まして、後進国であるポルトガル人がイングランドの強豪を指揮することなど誰も予想できなかった!)。

イングランドのサッカーを近代化への流れを加速したこと。これがヴェンゲルの最大の功績だったことは誰も否定できないはずだ。 さて、今季のプレミアリーグではすでに6位のポジションで固まりつつあるアーセナルだが、ヴェンゲル監督にとってはおそらくイングランドでの最後の1か月となるはず。ぜひ有終の美を飾ってほしいものだ。

週末のプレミアリーグ第36節では22年の在任期間を通じて最大のライバルだったマンチェスター・ユナイテッドとの対戦が控えている。試合後に、ライバルの一人だったジョゼ・モウリーニョとヴェンゲルがどんな表情で握手をかわすのか(あるいは、かわさないのか)注目したい。

また、ミッドウィークにはアトレティコ・マドリードとのヨーロッパリーグ準決勝もある。アトレティコを破ることができれば、ヴェンゲルにとっては母国フランス・リヨンで行われる決勝戦に駒を進めることができる(対戦相手もフランスのマルセイユとなる可能性がある)。もし、ヨーロッパリーグのタイトルを取れば、ヴェンゲルとしては退任するクラブに、チャンピオンズリーグ出場権というビッグな置き土産を遺すこともできるのだ。最終版のアーセナルに注目したい。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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