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このブログについて
【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。
「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。
【輪生相談】40前後で顕著に若さと老化の「壁」を感じました。カラダだけでなく、マインドから自分を底上げする方法を知りたいです。
現在56歳の男です。MTBを皮切りにスポーツ自転車に触れ、断続的にではありますが、半生が過ぎました。40前後で顕著に若さと老化の「壁」を感じました。乗り越えるためにタバコを捨て、もう19年が経っています。そのせいか心拍も呼吸もずいぶん楽になりました。ですが、ここでまた「壁」が。若い時の不摂生が糖尿病と心臓冠動脈の閉塞というカタチで表れました。自分より大先輩の方々から「もっと頑張れ」と発破をかけられますが、健康をベースに、もう一つ先に行きたいと思います。カラダだけでなく、マインドから自分を底上げする方法などご教授いただければ幸いです。
(男性 その他)
■栗村さんからの回答
僕も50代になりましたから、質問者さんのお気持ちはよくわかります。つい、若かったころの自分と比べてしまうんですね。シワは増えるし、老眼になるし、自転車で通勤することもあるんですが、現役時代は飛ぶように駆け上がったちょっとした上りもヒイヒイとあえぐ羽目になります。
とくに僕はもともと肉体の強さをウリにしていたスポーツ選手でしたから、若いころの自分と比べると、今の自分は劣化したところばかり目につきます。アスリートではない普通の方なら、経験や仕事のスキルは歳を重ねたほうが増すでしょうし、ミドルエイジになってスポーツを始めた方なら体力も今のほうがあるケースも少なくないでしょう。歳をとることは、必ずしも悪いことではないはずです。
39歳でもなお現役で走り続ける新城幸也
でも僕は元アスリートですから、フィジカル的には歳をとることが「いいこと」である面が非常に少ないのです。その意味では、質問者さんよりも年齢の壁を感じやすいかもしれません。僕が老いてもいつもの上り坂は30年前のままですから、肉体の老化を実感しやすいのです。いやあ、人生、厳しいですね。
しかし、です。改めて考えると、50代に突入した自分が老いた自分にがっかりしてしまうのは、過去の自分という決して勝てない相手と「比較」するからですよね。そのころの自分と比べなければどうでしょうか。たとえば自転車通勤をしていなかったころの僕と今の僕とを比べるとパフォーマンスは少しアップしていますし、お尻や太ももの筋肉も美しくなり、また別の評価が下せます。
つまり、結局は比較する対象がモチベーションの持続性を左右すると思うんですよ。25歳のイケイケのホビーレーサーもポガチャルやファンアールトと比べると全然勝負にならないはずですが、彼らと比較せず、たとえばもっと弱かった過去の自分や次のレースで勝てそうなライバルと自分を比べているから、モチベーションを保てているわけですよね。要するに、ある個人の幸福度には、相対評価が大きく影響を及ぼすので、なにと比べるかが問題です。
では、56歳で、いろいろな病気をお持ちの質問者さんは誰と比べるべきか。僕が提案したいのは、別の世界のご自分です。
その別の世界では、質問者さんは年齢の壁が嫌になってしまい、自転車をきれいさっぱり辞めてしまいました。当然、健康状態は悪化しているでしょうし、趣味がない日常には張りがないでしょう。
そういったパラレルワールドのご自分と今のご自分を比べてみてください。今の方が幸せだと思いませんか?少なくとも僕は、今の質問者さんのほうが素敵だと思いますよ。
老いや病気などは変えられない条件であり、そこに抵抗することには限界があります。もちろん、老いがプラスに働く場面はいくらでもありますが、少なくともスポーツはそうではない。
ならば受け入れましょう。もう少し正確に言うと、モチベーションの源泉になる比較対象を意識的にちゃんと調整しましょう。比べてもしょうがないなにかと比べていませんか?
大先輩から「もっと頑張れ」と発破をかけられるとのことですが、大抵の人はこの言葉で追い込まれてしまうのではないでしょうか。質問者さんがプロアスリートだったり高級取りのサラリーマンなら仕事上で言われても仕方ありませんが、趣味や健康の世界で「もっと頑張れ」は、なにか違う気がしますね。
そして「もう一つ先に行きたい」とのことですが、「先」の定義がとても重要ですね。「タイム」や「パワー」などの絶対的な基準だといずれ行き詰まりますし、フィジカルモンスターの大先輩と比べてもただ自分の不甲斐なさを痛感して卑屈になるだけです。
老いの問題を離れても、比較対象を上手に設定することはモチベーションを保つコツです。今、どんなに強い選手だって、500以上の勝利を挙げたエディ・メルクスの記録を超すことは難しいでしょう。
比較対象はパラレルワールドの自分でもいいですし、パフォーマンスが伸びているなら昨年の自分でもいいでしょう。もちろん他人でもOKです。究極的には、1回完結型の満足感を、つまりアクティビティをこなすことで脳の報酬系が作動し、それで満足を得られれば無敵ですね。たまに記者などから過去の大記録と比較する質問をされたアスリートが「今に集中する(今を楽しむ)」といったコメントをしていますが、あれも同じ思考です。要するに害にもなり得る比較を切り捨てているわけです。それこそが質問者さんの目指す究極の「先」なのかもしれません。
いずれにしても、己を知り、なにを基準にしてがんばるためのモチベーションを生み出していくのかが、物事を継続していくためのコツだと言えそうです。
文:栗村 修・佐藤 喬