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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2023年10月04日

ロードバイクの才能は、パワーメーターを1年間つけて数値を見たらわかるそうですが、どの数値が出たら才能があると言えますか?

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ロードバイクの才能は、パワーメーターを1年間つけて数値を見たらわかるそうですが、具体的にどのような数値が出たら才能があると言えるのですか。例えばFTPが4倍から5.5倍になるとかですか?

(男性 高校生以下)

■栗村さんからの回答

栗村さん

ご質問にあるFTPとは「Functional Threshold Power」の頭文字をとったもので、1時間維持できるパワーの平均値を意味します。それを体重で割るとパワーウェイトレシオとなり、例えばFTPが240Wで体重が60kgであれば、240÷60=4ですから、「4倍」と表現するわけですね。

AW7_FxNodu9aQAMHhMk.jpg才能だけでなく不断の努力でプロ16年目を迎える新城幸也選手

たしかに、1年間のトレーニングでこの数字が大きく向上すれば、その選手には才能がある可能性が高まります。質問者さんのおっしゃるように、パワーメーターの出現以降、自転車選手の能力が可視化できるようになりました。当然、パワー値が大きい方が出力は高いわけですから、速く走れるのは当たり前です。しかし、実際にはパワーメーターの数字とロードレースでの成績が完全にリンクしているわけではありません。同じ体型・同じパワーデータの選手が二人いたとしても、二人の成績が全然違うことはありえます。世界トップクラスの選手のFTPが著しく低いことはあり得ませんが、一方で、大きなFTPを発揮できるのに成績が伴わない選手はたくさんいます。

なぜなら、本格的なロードレースにおける選手の「強さ」に占めるパワーの割合のイメージは、せいぜい75%くらいだからです。FTPに限っていえば、50%くらいでしょうか。ほかにも、消耗の少ないペタリングスキルや空力の良いフォーム、レースセンスや位置取りの上手い・下手は、パワーには現れない要素がいっぱいあるからです。もちろん、ヒルクライムレースや個人タイムトライアルなどの個人種目であれば上記割合はもっと大きくなるとは思いますが。

パワーメーターを使ったトレーニングや屋内トレーニングが普及してからは、日本の社会人レーサーからもとんでもないパワーを持つ人たちがたくさん出てきました。FTPなど一部の数字だけ見ると欧州プロ並みのビジネスパーソンがいるわけです。

しかし、ロードレース選手として重要な要素は他にもたくさんあります。たとえば以前、新城選手が「重要なのはパワーだけではなく、高い出力を何回繰り返せるかだ」と言っていました。1200Wのスプリントや500Wでのダッシュを一回だけ繰り出すのではなく、レース時間が4時間を超えてからの勝負所で何回も繰り返せる能力が大切ということです。

もちろんパワー値はフィジカルの強さの正確な指標です。でも、「パワー値=フィジカルの強さ」ではありません。たとえば、マイナスのトルクを生む「引き足」のなめらかさは、パワー値に影響するのではないか、という議論を見たことがあります。それはつまり、まったく同じフィジカルを持つ2人の選手がいたとしても、なめらかな引き足というスキルによってパワーの値が大いに変わるということです。要するにパワー値というのはスキルによっても左右されるのです。

もし、パワー値だけでその選手の才能をある程度分析したいのであれば、持続時間ごとの平均ワット数と、数時間経過後にそれを繰り返す能力など、より高度な分析が必要です。FTPというのは、その選手の能力のごく一部を切り取った数字でしかありません。

まとめると、FTPが低いのにツール・ド・フランスで勝つことはできませんが、FTPが高いからと言って有能なロードレース選手と断言することはできないということです。

FTPは、一般社会での学歴みたいなものです。通っていた学校の偏差値とその人の能力にはたしかに相関があると思われますが、偏差値が高ければ社会で成功する保証があるかというと、全然違いますよね。参考値にすぎません。人生にたとえられるロードレースも、社会と同じくらい複雑です。だから、ロードバイク(ロードレース)の才能を見極めるのには、数値的なエビデンスと共に、実践でのいろいろな適正を、時間をかけて見極めていく必要があるということです。

文:栗村 修・佐藤 喬

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