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ポガチャルがピレネーで43km独走の伝説的勝利 記録づくめのステージ優勝でマイヨ・ジョーヌを取り戻す|ツール・ド・フランス2026 レースレポート:第6ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介トゥルマレの山腹から43kmの独走劇、ポガチャル
またひとつ、新たな神話が生まれた。ツール・ド・フランス2026第6ステージ、ピレネーの山々を駆けた大会前半戦のヤマ場で、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)が43kmの独走劇。名峰トゥルマレでライバルを引き離すと、最後の最後まで誰をも寄せ付けなかった。最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(チーム ヴィスマ・リースアバイク)にも大差をつける文句なしの走りで、マイヨ・ジョーヌを取り戻した。
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「僕自身がビックリしているよ。すごく美しい勝ち方ができた。いままで走ってきたツールと比べても、5本の指には入る会心の走りだったんじゃないかな。今日は本当にワクワクしていて、きっと良い1日になると思ったんだ。フィニッシュまで集中して、全力で走り切る。僕ができることはそれだけだった」(ポガチャル)
UAEがプロトンを支配してアスパンとトゥルマレへ
プロトンは3日ぶりにピレネーへと戻った。前日はスプリントに沸いたポーの街が、今度は急峻な山々へと挑む選手たちを送り出す番。186.2kmの行程に5カ所のカテゴリー山岳が待つけれど、とりわけ大きなものは中間地点を過ぎてから現れる1級山岳アスパン(登坂距離12km、平均勾配6.5%)と超級山岳トゥルマレ(17.1km、7.3%)。ツールではおなじみの山を越えたら、最後は2級山岳ガヴァルニ・ジェードルの頂上を目指す。
このステージのスタート時点で、マイヨ・ジョーヌでスタートするトースタイン・トレーエン(ウノエックス・モビリティ)からポガチャルとヴィンゲゴーまでは7分53秒。そのタイム差とコースレイアウト、トレーエンの登坂力を勘案すれば、「マイヨ・ジョーヌの移動はないのではないか」との現地予想だった。結果的に、そのはるか上を行く出来事が起こるのだけれど……。
レース序盤は、ヴィクトル・カンペナールツ(チーム ヴィスマ・リースアバイク)のファーストアタックをきっかけとした3人の逃げが形成。前々日のステージを制したマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が乗って、59.1km地点に置かれた中間スプリントポイントでの1位通過に成功。25点を加算させ、マイヨ・ヴェール固めとしている。
雄大な風景は延々と続く
その後逃げメンバーのシャッフルがあって、70km地点を前に5人が新たなグループを形成。さらに人数が増えて一時は12人になったが、この日2つ目の山岳である3級モウザンを越えたところで、ベン・オコーナー(チーム ジェイコ・アルウラー)の単独走に。しばらくひとりで逃げていたが、1級山岳アスパンに入ったところで集団がキャッチ。その頃には、レースはUAEチームエミレーツ・XRGが支配する状況となっていた。
「今日ははじめから集団をコントロールするつもりだった。いつも僕たちがとっている戦術だから」(ポガチャル)
レースの前半にはレムコ・エヴェネプール(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)やフアン・アユソ(リドル・トレック)が一時的に後方へと下がる場面があったが、いずれも大きなトラブルではなかったよう。勝負どころとなるアスパンやトゥルマレを前に、集団へ戻っている。
フィニッシュ前43kmでポガチャルが加速
アスパンを越え、超級山岳トゥルマレまでやってきた。なおもUAEがつくるペースに、マイヨ・ジョーヌのトレーエンがついていけなくなった。テイメン・アレンスマン(ネットカンパニー・イネオス)やジャイ・ヒンドレー(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、トーマス・ピドコック(ピナレロ・Q36.5プロサイクリング チーム)らも脱落。頂上まで5kmを残した段階で、集団に残ったのは約15人の精鋭たち。
その瞬間は、フィニッシュまで43kmを残したところでやってきた。トゥルマレの頂上までは4km以上ある段階で、UAEはイサーク・デルトロを先頭に送り出した。これで集団のペースが上がると、後ろについたのはチームメートのポガチャルだけ。ヴィンゲゴーら総合系ライダーが誰も反応できなかった(反応しなかった……のかもしれない)。
UAEチームエミレーツ・XRGの山岳トレインは強靭
さらに300m進んだところで、ついに“真打ち”ポガチャルが前に出た。あっという間にペースを乗せて、独走態勢に持ち込む。
しばらくは10秒ほどの差でヴィンゲゴーが続いていたが、頂上までの2kmでポガチャルはさらにペースを上げる。タイム差を30秒として下りに突入した。
熱くも冷静に、上りでも下りでも攻めた
下りでもポガチャルは攻めた。時速100kmを超えるスーパースピードでダウンヒル。
「2023年のツールでも同じ下りを走っていて(第6ステージ)、ヨナスに置いていかれそうになったんだ。そのときのことがフラッシュバックして、“すぐ後ろにヨナスがいたら絶対に追いつかれる”と思っていた。ただ、今回は脚が残っていて、集中力も保てていた。スピードを生かしつつ、最も安全な方法で下れたことがとても良かった」(ポガチャル)
ポガチャルの勢いは最終登坂に入っても衰えなかった。フィニッシュまで残り5kmでヴィンゲゴーとの差は2分に。最後はさすがに苦しさに表情がゆがんだけれど、大観衆が待つフィニッシュへと一番に到達すると、高々とこぶしを掲げてのウイニングセレブレーション。
「毎回同じことを言うようだけど、本当に僕ひとりの力じゃないんだ。チームメートのみんなが信じられないほどの走りをしてくれて、僕はすごく勇気づけられた。みんなのことを心から誇りに思っているし、最高にクレイジーな仲間たちだよ。チーム内のモチベーションを今日にぶつけることができて、うれしさでいっぱいだ」(ポガチャル)
ヴィンゲゴーとのタイム差は2分38秒と開いた
終わってみれば、2位で終えたヴィンゲゴーとは2分38秒差ものタイム差がついた。
勝利イメージに興奮し前夜は寝付けず
ピレネーでの43km独走は、もはや伝説以外の何物でもない。改めて、タデイ・ポガチャルの強さをみずからの走りでもって見せつけたレースになった。
なにより、前日の段階でそれをシミュレートしていたというのだから、ポガチャルが、UAEチームエミレーツ・XRGが、いかに充実しているか……である。
「昨日のステージが終わった後、ホテルへ向かうチームバスの中で“明日はどうしようか”と話をしていたんだ。その段階で大盛り上がりだったんだよ。“よし、明日にオールインだ!”とね。“もし失敗して、最悪の事態になったって多少失速するくらいだよね”と思えるくらいに僕たちには不安がなかった」(ポガチャル)
興奮のあまり、前夜はなかなか寝付けなかったという。朝、もう一度戦術確認をしてスタートラインへ。大勝利までの筋書きは、完璧なまでに描かれていた。
また、この日のステージ優勝は記録づくめでもあった。ツールでの独走勝利は7回目だけど、これまでの最高が2024年大会の第4ステージで記録した19km。それを大幅に上回る自己ベスト更新。加えて、1大会あたりの複数勝利が7年連続となったのはツール史上初の快挙。
ユニークなところでいくと、マイヨ・アルカンシエルを着てトゥルマレを一番登頂した初の選手に。今大会は「5勝クラブ」入りがかかっているけど、先人4名もポーが登場するステージでの勝利経験を有する。ポガチャルはポー絡みだけでも4勝目。まだまだ気が早いのだけれど、クラブへの“入会要件”を満たしつつある。
ヴィンゲゴー「UAEのスピードについていけなかった」
フィニッシュ地点でポガチャルとヴィンゲゴーが健闘を称え合って握手をしたけれど、両者のコントラストがあまりにもはっきりしていた。敗者は何を思う。
「思い描いたレースにはならなかった。トゥルマレでのUAEのスピードについていけなかったんだ。自分のペースで走るのが精いっぱいだった。今日は最高のコンディションではなかった、それが現実だよ。でも、ロードレースをやっていればこんな日もあるんだ。自分を信じて走っていくよ。きっと脚の調子も良くなっていくだろうしね」(ヴィンゲゴー)
アンデシュ・ヨハンネセンと一緒にフィニッシュするトースタイン・トレーエン
このステージを終えての総合成績とタイム差は、ポガチャルとヴィンゲゴーが2分42秒差。ステージ3位で終えたデルトロが3分27秒差。僅差でレムコやアユソ、ポール・セクサス(デカトロン・CMA CGM チーム)らが続いている。状勢の変化ひとつで、上位陣の順位シャッフルはまだまだあり得る。なお、トレーエンはトゥルマレからの下りで激しい落車。ステージを走り切ったものの、その後肋骨骨折と脳震盪との診断が下り大会を離脱することが決まった。
文:福光 俊介 from Gavarnie-Gedre, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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