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【Cycle*2024 パリ〜ルーベ:レビュー】レインボージャージを素敵に見せたいファンデルプールが特別な瞬間を楽しんだ地獄の日曜日
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸優勝のファンデルプールを挟んで、左が2位フィリプセン、右が3位ピーダスン
アルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)が2024年4月7日にフランスで開催された第121回パリ〜ルーベで、60kmの独走を成功させて2年連続優勝を遂げた。前週にベルギーで行われたロンド・ファン・フラーンデレンに続く勝利で、「石畳のモニュメント」と呼ばれる春の伝統レースを連勝した史上10人目の選手となった。また、世界チャンピオンジャージを着ての快挙は1962年のリック・ファンローイ(ベルギー)以来2人目。
3分遅れの2位集団で先頭を取ってフィニッシュしたのはチームメートのヤスペル・フィリプセン(ベルギー)で、アルペシン・ドゥクーニンクは前年と同様にワンツーフィニッシュを決めた。3位はリドル・トレックのマッズ・ピーダスン(デンマーク)。
パリ〜ルーベ。長い歳月で風化したパヴェ(石畳)は、春の自転車ロードレース以外の日々は農作業の車両が往来する程度だという。石畳の道はクルマ1台分の幅しかなく、レース中に進入できる関係車両は著しく制限され、チームのサポートカーもこの区間は迂回を余儀なくされる。各チームは石畳区間のどこかに交換車輪を持ったスタッフを待機させる。だから機材故障した選手はどんな状態であってもスタッフのところまで走らなければならない。
レース名の通り、黎明期はパリを出発し、ベルギー国境のルーベを目指したが、その後パリの北東に位置するコンピエーニュが出発地として定着した。コース後半は石畳の道を縫い合わせるように走り、最後はルーベの旧自転車競技場にゴールする。勝者は表彰台で現物の敷設石でできた伝統のトロフィーを掲げる。
ところで六角形の広大な国土を誇るフランスは農業大国でもある。農家には365の聖人の名前を割り当てた農業カレンダーが各戸に配布され、農作業家は「いつタネを撒くか」「いつ収穫するか」の目安にする。そんな脈々と続く伝統に宗教行事も加味され、春になればキリストの復活をお祝いするイースターの日程に社会生活が左右される。「復活祭」は春分の日の後の最初の満月の次の日曜日(厳密には西方教会と東方教会という教派で期日は異なる)。
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【ハイライト】パリ〜ルーベ|Cycle*2024
快晴のもとで行われたパリ〜ルーベ
フランスでは自転車を使ったレースが始まった頃から、この農業カレンダーを参考にして伝統大会のスケジュールが決められた。パリ〜ルーベは原則的に4月の第2日曜日。ただし4月14日ではちょっと遅いから、例外的に7日の場合があってよし。今回の2024年もその例外が適用された。
パリ〜ルーベ運営がツール・ド・フランス主催者のA.S.O.になってもその慣例は継続する。2020年はコロナ禍により秋に延期され、それでも感染拡大が収まらず、1896年に始まった伝統レースは二度の世界大戦時以来となる中止に。2021年も4月開催から延期を余儀なくされたが、10月に順延して待ちに待った開催にこぎつけた。2022年は4月10日にフランス大統領選挙(第1投票)が行われたため、しかたなく1週間遅れの17日開催となった。
フランス庶民の生活と密接に関わり続けるパリ~ルーベ。第121回大会は172選手が11時26分にコンピエーニュをスタートし、フランスの北にあるベルギー国境に近いルーベのアンドレ・ペトリュー自転車競技場までの259.7kmを走る。後半に断続的に待ち構えるのは29カ所の石畳セクターだ。2022年優勝者のディラン・ファンバーレ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)は不出走だった。
レースはゼロkm地点からアタックがかかり、22km地点で最初の逃げグループが誕生した。後続のメイン集団では37km地点で落車が発生。このクラッシュでリドル・トレックのジョナサン・ミランとイネオス・グレナディアーズのエリア・ヴィヴィアーニがリタイアを余儀なくされた。最終的に4位になるUAEチームエミレーツのニルス・ポリッツも影響を受けた。
バヴェの両側にはファンがいっぱい
「ミランがいれば状況は大きく変わっていただろうと確信している。彼がクラッシュしたのは我々にとって非常に残念」と、レース後にピーダスンはコメントしている。
ファンデルプールを擁するアルペシン・ドゥクーニンクは追い風も味方につけて、レース開始から最初の1時間を時速54.1kmでペースメークし、逃げた選手とのタイム差を管理した。リドル・トレックも協力し、その差は76キロ地点での最大の1分40秒に留めた。29からのカウントダウンで始まる石畳セクターに突入する時点でその差は1分25秒。アルペシン・ドゥクーニンクのテンポは安定していた。
パンクによるホイール交換に備えてチームスタッフが点在
メイン集団はファンデルプールら有力選手を含む40選手となり、120km地点で逃げを吸収した。一方、ヴィスマのクリストフ・ラポルト、スーダル・クイックステップのイヴ・ランパールトらがここまでに脱落していた。ジョシュア・ターリングはパンクからの復帰後にチームカーを利用したことで129.3km地点、セクター24で失格を宣告された。
164.4km地点、勝負どころのアランベールにはピーダスンが先頭で突入。荒れた路面になるのを待って、まず動いたのがファンデルプールだ。これに反応できたのはチームメイトのフィリプセン、ミック・ファンダイケ(ヴィスマ・リースアバイク)、そしてピーダスンだけだった。ところが石畳から出たところでフィリプセンがパンクして脱落。フロントグループは3人になった。167.4km地点のセクター18でシュテファン・キュング(グルパマ・FDJ)、ポリッツ、ジャンニ・フェルミールス(アルペシン・ドゥクーニンク)が先頭を追いかけたが、フェルミールスがチームエースを有利にさせるために協力せず。優勝を争う選手たちは終盤でようやく一緒になったものの、この時点でライバル選手は体力を消耗していた。
アシスト役のフェルミールスが先頭集団を率いて199.5km地点のセクター13に入り、ここでついにファンデルプールが単独でアタック。残り60キロ地点だった。誰も追走することができず、その差はみるみるうちに開いていく。残り10kmで3分00秒となり、ファンデルプールは2023年に続く勝利を決定的にした。
凸凹の石畳セクター。まさに北の地獄だ
勝者となるファンデルプールが独走した60kmは、21世紀になってからの最長距離だという。また後続につけた3分差は直近の20年で最大と記録ずくめの勝利だった。
「実際には信じがたいことだ。チームと一緒にルーベで再び優勝できた。チームの走りは昨年よりもさらに強力で、彼らをとても誇りに思う。最後までやり遂げることができてとても幸せだ。ずっと調子がよくて、今日は今回のクラシックシーズンで最高の日になった」とファンデルプール。
世界チャンピオンジャージで走るファンデルプール
「本当はそんなに早く攻撃するつもりはなかった。自分自身の強みはわかっているので、あの時点ではレースをハードにしたいと思っていた。グループが大きすぎて連携があまりよくなかったので、アタックするベストタイミングだと感じた。後続とのギャップを獲得してみると、とても調子がよかったし、追い風もあってライバルを寄せ付けずにゴールできるだろうと確信した。
パリ〜ルーベではアクシデントもパンク珍しくない。でも、かなりのタイム差があったし、後ろに車も着いていたので自信はあった。先週のロンド・ファン・フラーンデレンで限界だったときよりも、今日は勝利の瞬間を本当に楽しむことができた。本当に素晴らしい気分だった。
パリ〜ルーベで2回優勝するのは間違いなく普通ではない。子どもの頃は、自分が勝っているすべてのレースを想像することさえできなかった。今年はレインボージャージを素敵に見せたいと意気込んで臨み、期待以上の成果を掴んだので、ちょっと言葉がない。この特別な瞬間は永遠に続くものではないので、楽しみたいと思う」
将来的にはベルギー選手のフィリプセンが地元のパリ〜ルーベで優勝することを願っているんだとファンデルプールはコメントを続けている。「今日、彼はそれが十分に可能であることを証明した。ボクたちは来年も成功できるように努力したい。でもその前に、今夜は盛大なパーティーを開く予定だ」
ファンデルプールはこの後、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに参加する予定。そこで勝つのは難しいが、目的を実現するために最善を尽くしたいと意気込む。
ファンデルプールに遅れを取ったピーダスン、ポリッツ、キュング、フィリプセンらは2位争いのゴール勝負で決着した。キュングがベロドローム入場の前に落車し、最後はフィリプセンがピーダスンとポリッツを制した。
チームメートに将来を託された2位のフィリプセンは、「朝食でお粥とオーツ麦のパンケーキを食べただけで、特別なことはなにもない。でも、確かに今日はチーム全員がトップレベルだった」とコメントした。
パリ〜ルーべを連覇したファンデルプール
ファンデルプールが前を走っていたため、フィリプセンは守備的な位置にいて、長い間ライバルの車輪を追うことができた。そのおかげで残り数kmで有利になり、2位のスプリント勝負を制したと分析している。
「ボクはパリ〜ルーベが好き。モチベーションが上がるし、石畳も大好きなので、将来的には優勝を狙ってみたい。でも今日に関して言えば、明らかに一番強いライダーがいて、しかもチームメイトだった」
3位のピーダスンは「それでもうれしい」と笑顔を見せた。「今日のマチュー(ファンデルプール)は違う世界にいた。彼がアタックしたとき全員で追ったが、詰めることができなかった」と。
「モニュメントでいつか彼を倒すことができるのか、まだ分からない。言い訳は一切なく、間違いなく自分の100%を発揮したが、もっと優れた選手たちに負けたということだね」
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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