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【Cycle*2024 ミラノ~サンレモ:プレビュー】サイクルロードレースの春到来! マチュー、ポガチャルの2強に迫るアウトサイダーたち 伝統と高き格式の一戦に世界の目が注がれる
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介春を告げるレース、ミラノ〜サンレモ
1月から始まっているサイクルロードレースシーンは、いよいよ一発目の大きなヤマを迎える。今回で115回目を迎える伝統の一戦、ミラノ~サンレモで“春の王者”が決まる。
とりわけ歴史と高い格式を持つクラシックレース“モニュメント”の中では、現行のカレンダーで最も早く開催される。開催地イタリアで春を意味する「ラ・プリマヴェーラ(la Primavera)」との愛称をもち、春の到来を告げるレースだ。加えて、300km近いレース距離……今回であれば288kmと、どのワンデーレースよりも長い距離を走って勝者を決めることも大きな特徴であり、誰からも愛される由縁でもある。
かつてはスプリンターズクラシックとして見る向きもあったけど、昨今のレース戦術においては、その趣きはまったくと言って良いほど存在しない。もちろんスプリンターにもチャンスはあり、出場チームの多くがエーススプリンターを配備するが、実際に大集団フィニッシュとなったのはアルノー・デマール(現アルケア・B&Bホテルズ)が勝った2016年までさかのぼらなければならない。
もっとも、前回はマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)が最終登坂のポッジオ頂上手前で独走に持ち込み、前々回はマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)がドロッパーシートポスト(レバーをワンタッチ操作することでサドル高を変えられるシステム)を駆使しての驚異的なダウンヒル。両者の伝説的な勝ち方は、終盤勝負で逃げに持ち込んだものだった。
今年も大方の予想は、「終盤の丘越えで決定打が生まれるであろう」というもの。果たしてその通りになるのか否か、コースの特徴や注目選手をピックアップしながらレースをイメージしてみよう。
前述のとおり288kmに設定されるコースは、ミラノの南約50kmに位置するパヴィアをスタート。しばし平坦基調が続くのはいつもと同じで、中間地点を前に1つ目の登坂区間であるパッソ・デル・トルキーノをクリアする。これを越えると海沿いに出るが、トルキーノの下りで重大なクラッシュが過去に多く起きており、リスクは避けつつ進むことが必要だ。
高低の変化が出てくるとレースは目まぐるしい展開へ
イタリアン・リヴィエラのリグーリア海岸を左に見ながらサンレモへ。再び長い平坦が続き、フィニッシュまで残り55kmを切ったあたりから高低の変化がはっきりとしてくる。3つの小さな丘越えを済ませる頃には、メイン集団が逃げグループをキャッチ、または引き戻す寸前まで持ち込んでいるとみられる。
残り27kmで、重要登坂1つ目のチプレッサを迎える。登坂距離5.6km、平均勾配4.1%で、頂上手前の緩斜面までにどの程度の人数が集団に残っているか。前回はUAEチームエミレーツの牽きによって約50人まで絞られている。この頂上から最終登坂ポッジオの入口までが13km。スピード化が進むレースシーンにあって、ここで遅れてしまうようだとその後の前線復帰は困難を極める。
そしてやってくるポッジオ。登坂距離3.7kmで平均勾配は3.7%だが、道幅がさほど広いとはいえず、集団前方が加速して縦長になって上るので、位置取りが大きな要素になる。頂上手前の最大勾配8%区間は、これまで決定打が数多く生まれたポイント。頂上を越え、連続ヘアピンコーナーのダウンヒルを単独でこなすのか、数人のパックで進むのか、または集団が一列縦並びで降下するのか、それが最終局面に直結する。
最後はおなじみローマ通りのフィニッシュラインへ。ポッジオの下りを終えてからの約2kmでの攻防も見ごたえ十分。逃げを試みる選手とそれをチェックする選手、互いを見合う様子など、思惑が行き交う優勝争いは観る者にも緊張感を与える。
勝者が決まるのは、レーススタートからおおよそ6時間30分後。あらゆるタイプのライダーが集い、タイトルを争う。
やはり、前回覇者のマチューを真っ先に挙げておかねばならない。勝った昨年は事前に数レース走っていたが、今回はこれがシーズン初戦。“本職”であるシクロクロスで強さを見せつけていたとはいえ、一度休養し再調整したうえでロードシーンに戻ってくるので、どんな走りをするのか未知数。いずれにせよ、後述するタデイ・ポガチャルをマークしながら進むと見られ、仕掛けるならば今年もポッジオということになるだろう。
前回大会で積極的に仕掛けたポガチャル(先頭)
アルペシン・ドゥクーニンクは、エーススプリンターのヤスペル・フィリプセンも動員する。集団の大小問わず、スプリントになればマチューに代わって勝負を託される可能性が高い。チプレッサ、ポッジオを前線でクリアすることが絶対条件だ。
これまで以上にミラノ~サンレモに執着するのがポガチャルである。先のストラーデ・ビアンケでの80km独走は観る者のみならず、レース関係者にも衝撃を与えた。前回ポッジオで勝負しきれなかった反省から、チプレッサで動くのでは?との見方もある。あれだけの独走劇を見せられたら、ミラノ~サンレモでもあるのではないかと思わされるのは当然で、それを実行に移すかどうかが大いに見もの。UAEチームエミレーツはマルク・ヒルシやイサーク・デルトロもメンバー入りするが、実質ポガチャル一択で戦うと見てよさそうだ。
バリュー的にはマチューとポガチャルが群を抜いているが、彼らをどうやって抑えようとチャンスをうかがう選手たちも多数。いかに得意パターンに持ち込むかがカギになる。
前回はポガチャルらに先着し2位となったフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)は、独走力で他を圧倒したい。ポッジオでのアタック合戦をしのいで、うまく周りを振り切ることができるだろうか。イネオス・グレナディアーズは規定より1人少ない6選手で臨む予定だが、トーマス・ピドコックもメンバーに加わり、高いチーム力は変わらない。
戦力的にはリドル・トレックの充実ぶりも光る。マッズ・ピーダスンはチプレッサとポッジオを越えられる脚を持っているし、何より人数が絞られた中でのスプリントにはめっぽう強い。それに、ティレーノ~アドリアティコで大活躍したジョナサン・ミランもメンバー入り。チームとして、スピード勝負になれば絶対的な自信を持つ。3年前にここで勝っているヤスペル・ストゥイヴェン、ストラーデ・ビアンケ2位のトムス・スクインシュが控えるのも心強い。
シーズン最初のモニュメント、ミラノ〜サンレモ
2年間に勝っているモホリッチは、さすがにドロッパーシートポストの再現はないかもしれないが、プロトン随一のダウンヒルテクニックで逃げ切りを狙うことだろう。
北のクラシックに集中するため今大会を回避するワウト・ファンアールトに代わり、ヴィスマ・リースアバイクはヨーロッパ王者のクリストフ・ラポルトと、エーススプリンターのオラフ・コーイで勝負する。ラポルトはどんな展開にも対応ができ、コーイはポッジオでの絞り込みに生き残ることができればスプリント役を引き受けることになる。
2019年に勝っているジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)は、5年ぶりの王座返り咲きなるか。今季はここまで大きな成功を収めてはいないものの、ティレーノ~アドリアティコを走って状態は上がってきているはず。スーダル・クイックステップは日本のレースでも活躍したルーク・ランパーティも出走を予定し、その走りに期待が高まる。
3日前のミラノ~トリノで30kmを独走したアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)の存在も忘れてはいけない。今大会に際し「自分は本命ではない」と語るが、あれだけ強いインパクトを残せば大一番での走りも注目されて当然。プロ1年目にして初のモニュメント出場を決めた留目夕陽らのアシストを受けながら、上位戦線をどう立ち回るか楽しみ。
コースへの適性で見ればビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)やマイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー)のスプリント力も魅力だし、優勝経験のあるデマールやアレクサンダー・クリストフ(ウノエックスモビリティ)も外せない。ジェイコ・アルウラーはカレブ・ユアン、ウノエックスモビリティにはソーレン・ヴァーレンショルトと、別のカードも持ち合わせている。
逃げや独走に持ち込みたい選手としては、独走力の高いシュテファン・キュング(グルパマ・FDJ)や、新調の“ギャラクシー”ジャージで走るブノワ・コスヌフロワ(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル)などなど。とにかく、挙げだすとキリがないほどに力のあるメンバーが勢ぞろいするのだ。
前記の通り、留目の出走も正式に決定。自身のSNSでも出場宣言があり、気合十分。
大会は18のUCIワールドチームに、7つの同プロチームが加わって、全25チームが出場。1チーム7人編成を基本とし、170人以上が一斉にコースへと繰り出す。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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