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誰も想像さえしていなかった。変哲のない、難度も高くない中級山岳ステージが、2012年ブエルタの歴史を大きく変えた。アシストたちと、元アシストの美しき友情と恩返しの物語が、チャンピオンの勇気と快挙に華を添えた。
「自分が持てる全てを尽くす。それがボクの走り方。変えることはできない。勝つためにトライする。ボクの頭の中にあるのはそれだけ」(アルベルト・コンタドール)
確かに第2回目の休養日には、28秒差でマイヨ・ロホを追いかけるアルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)は、こんな風に改めて強く決意を語っていたものだ。しかし決戦の場は第20ステージのボラ・デル・ムンドになるに違いない……と予測されていた。なによりコンタドール本人が、そうほのめかしていたのだ。
「ボクに足りなかったのは、遠くから、勇敢にアタックすることで獲りに行くタイプの山頂フィニッシュだね。でもボラ・デル・ムンドがまだ残っている。トライするよ」(アルベルト・コンタドール)
マドリードまで残りわずか5日となり、いまだやり残したことのある選手たちや、最後に帳尻を何とか合わせたいチームが、スタート直後から激しいアタック合戦を繰り広げた。山岳賞ジャージを争うサイモン・クラーク(オリカ グリーンエッジ)やダヴィド・モンクティエ(コフィディス ルクレディアンリーニュ)も攻撃的な走りを見せた。ようやく80km地点で11人が逃げ出し、一時は3分差をつけた。ところがプロトンはすぐさま恐ろしい追走を開始。吸収まであと数十秒……という120km地点で、合流を待ちきれない18人がさらにプロトンから飛び出した。前の11人と合流し、29人の大きな大きな集団が出来上がった。
チーム サクソバンク・ティンコフバンクも、1つ目の集団にブルーノ・ピレスを送り込んでいた。2つ目の集団には、さらにヘスス・エルナンデスとセルジオ・パウリーニョが紛れた。コンタドールは無線で3人にたった一言「エンジン全開で行け」と告げた。理想通りの長い山がないのなら、自分でその状況を作り出すまでだ。これでピストルをぶっ放す準備は整った。
「両肩に天使と悪魔と乗せているような、そんな気分だった。一方はボクに『前に行け』とささやき、もう一方は『危険を冒しちゃならない』とささやいた。そして、正しいアドバイスにしたがったんだ。本能に任せて、アタックを打った」(アルベルト・コンタドール)
無謀としか言いようがなかった。コンタドールはたった1人でメインプロトンから飛び出した。まるで「カミカゼ」のように。ゴールまではいまだ53km。ひどく遠かった。
マイヨ・ロホのホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)と総合3位のアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)は、もちろんギアを加速へと入れ替えた。しかし、コンタドールはあっという間に逃げの29人に追いつくと、アシスト3人の協力を得てさらに前方へと突進した。ピレスが引き、エルナンデスが引き継ぎ、最後にはパウリーニョが全身全霊でエースを牽引した。タイム差はあっという間に1分15秒にまで広がった。
コンタドールの2回目のアタックは、ステージ2つ目の中間ポイントを先頭通過するためだった。ゴール前23.3kmで、ボーナスタイム6秒を手に入れたコンタドールには、嬉しい誤算もあった。2つ目の波に乗って逃げに入り込んでいたパオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)が、慌てて追いついてくると、協力体制を取り始めたのだ!
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