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その時だ。ゴールまで2kmを切ったところで、集団落車が発生。前から15人程度は何とか難を逃れたが、他の全員が大きな分断の犠牲となってしまった。勝負の場へと駒を進められたのはオリカ・グリーンエッジが3人、キャノンデールが3人、レディオシャックが2人、オメガファルマもカヴを含む2人。これ以外はアシストもなく、1人で取り残されたスプリンターばかりだった。
カヴでさえ孤立させられた。ゴール1kmのアーチをくぐり抜けた直後のことだ。
「チームは1日中素晴らしい仕事をしてくれた。でもラストは、パーフェクトに物事が運んだわけではないんだ。前を引いてくれていたステーグマンスが、メカトラに襲われてしまったからね。でも、そこからボクは、自分のベストを尽くした。まずはグリーンエッジ列車に飛び乗らなきゃならなかった。ものすごいエネルギーを要したよ」
さらにはジャコモ・ニッツォロが割り込んできたが、百戦錬磨の現役最速スプリンターにとってはまるで無問題だった。そして2年前まで自らの最終発射台を務めていたマシュー・ゴスが、ゴール前250mで真っ先にスプリントを仕掛けると、カヴェンディッシュも弾かれたように飛び出した。
「スプリンターってのは、限界の中でもスプリントできるようなヤツのことを指すんだよ。そして今日のボクは、まさしくレッドゾーンに足を突っ込んでいた。でも、頭がおかしくなるくらい、どうしても今日の勝利が欲しかった。だってチームがすごい仕事をしてくれたから。ラスト1kmで列車を作ってもらえなかったからといって、それがすなわち、チームがボクのために全力を尽くしてくれなかったという意味にはならないんだから」
大外右側から攻めあがったカヴェンディッシュは、ゴスをあっという間に抜き去り、瞬時に加速を始めたヴィヴィアーニや、フレンチチャンピオンのナセル・ブアニをあざ笑うかのように払いのけた。今年のデ・パンヌ3日間でプロ入り100勝目を飾った27歳にとっては11回目の、オメガファルマ・クイックステップのジャージを身にまとってからは初めての、ジロ・デ・イタリア区間勝利。チームタイムトライアル優勝で2009年と2011年の過去2回、初日マリア・ローザに輝いた経験があったが、今年は生まれて初めて個人的な勝利でピンク色のジャージに袖を通した。
「2週間前、ポール・スミスの事務所で話しをしたんだ。そこで彼に言われた。『ナポリに行くからね。だからボクのためにジャージを取ってくれると、約束してくれよ』とね。だからボクは『ベストは尽くします』と答えていたんだけど、最高だね。すごく嬉しいよ」
イギリスを代表する服飾デザイナー、ポール・スミスが描き上げたマリア・ローザを着て、そのデザイナー本人と表彰台に並ぶことができたのだから、カヴはなんたる果報者だろう!スミス卿が最終日に自らのジャージを着ていて欲しいと願うウィギンスや、その他の総合有力選手には、「ゴール前3km以内に落車・メカトラブルに見舞われた場合、アクシデントが起こった時点に所属していた集団の他選手と同じゴールタイムが与えられる」というルールにのっとって、みなカヴェンディッシュと同タイムが与えられた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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