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サイクル ロードレース コラム 2017年6月14日

【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】3大大会制覇の偉業男ヴィンチェンツォ・ニーバリ、2014年大会圧勝劇の舞台裏

ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸
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※本企画は2017年に実施されたものです。予めご了承ください。

世界中の自転車ファンを魅了して止まないTour de France。男たちの激闘の裏に隠されたHUMAN DRAMAに僕らは胸を打つ。ここに紡ぐ珠玉のストーリー21選があなたに届くとき、聞こえるのはきっと、ツールへの恋の予感

【STAGE 10】イタリアの英雄、ヴィンチェンツォ・ニーバリ

29歳にしてグランツール、いわゆるジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャの三大大会を全制覇したのがイタリアのヴィンチェンツォ・ニーバリだ。ツール・ド・フランス総合優勝は2014年。全21区間のうちマイヨジョーヌを着用したのはなんと19日。

イタリア自転車界の英才教育に加え、キャノンデールチーム時代の合理的論理、2016年まで所属していたカザフスタンチームの精神力などが相まって総合力を高めた。謙虚な姿勢も評価が高く、チームメートの献身的な働きを引き出している。

地元イタリアのリクイガス・キャノンデールに所属していた2012年、ニーバリはジロ・デ・イタリアをパスしてツール・ド・フランスに乗り込んだ。しかしブラッドリー・ウィギンスとそのアシスト役だったクルス・フルームに山岳ステージで封じ込まれた。イタリアの育成システムに乗り頭角を現したニーバリにとっても、かなわぬ敵が君臨することを初めて知る。

その翌年に心機一転。カザフスタンのアスタナチームに電撃移籍した。現役選手を引退して同チームの監督に就任したアレクサンドル・ヴィノクロフが次期エースとしてニーバリ獲得に動いた。カザフスタン選手だけではツール・ド・フランスに勝てないと考えたからだ。

ニーバリの天性に、ヴィノクロフの冷静な判断力が加わって飛躍的にレベルアップを遂げていく。2013年にジロ・デ・イタリア総合優勝。そして2014年は連覇のかかったジロ・デ・イタリアをパスして、ツール・ド・フランスに照準を合わせて乗り込んできた。

優勝争いのキーとなったのは「北の地獄」と呼ばれる石畳区間を走った第5ステージだ。前日に右手首を痛めていたフルームが2度も落車。手首を骨折してリタイアした。さらに石畳の難所でニーバリがアシストとともにアタックし、もう一人の優勝候補アルベルト・コンタドールに大差をつけた。結果的にはこれがコンタドールにプレッシャーを与えることになり、第10ステージの右足骨折でコンタドールも消えていった。

結果的に総合2位に7分以上をつける圧勝だったが、全区間でニーバリにブレーキがなかったこと、そしてアスタナチームの総合力が抜群に高かったことが要因だ。アスタナはすべてのアタックに対して大逃げを容認することがなく、メイン集団の先頭に立ってコントロールした。山岳の上りでもジロ・デ・イタリア優勝経験のあるミケーレ・スカルポーニらがけん引役を務めた。

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だからニーバリは勝負どころの山岳で温存したパワーを発揮するだけでよかった。ニーバリがアタックしても、総合2位ねらいの選手は追走せず。結果的に、山岳では1日だけコンタドールに3秒負けたが、あとはライバルとのタイム差を広げるばかりだった。

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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