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ミケーレ・スカルポーニ選手の2002年から歩んできた自転車競技人生に敬服し、謹んで追悼の意を表します。
ミケーレ・スカルポーニがこの世を去った。2017年4月22日の朝、フィロットラーノの自宅からトレーニングに走りだし、交差点で軽トラックにはねられた。37歳の命が儚く散った。
自転車選手としては、すでに大ベテランの粋に達していた。今年でプロ生活は16シーズン目を迎え、「もはや個人的な夢を追い求める年齢じゃないさ」なんて語っていたという。
若き日に抱いていた夢は、きっと、マリア・ローザを身にまとうことだったはずだ。2002年にプロ入りし、同5月に生まれて初めて出場したイタリア一周では、いきなり18位の好成績を収めた。2009年大会ではステージを2つ勝ちとり、翌年は総合4位と、初めてひと桁台の成績を出した。そして2011年、ミラノのドゥーモ大聖堂の前で、ついに総合表彰台に上った。アルベルト・コンタドールから6分10秒遅れの、上から2番目だった。
翌2月、コンタドールの成績剥奪により、思わぬ形で総合覇者のタイトルを与えられる。2012年大会の開幕直前には、前年大会の優勝トロフィーとピンク色のジャージも受け取った。
「素晴らしいご褒美だけれど、でも、やっぱり、レースの現場で、マリア・ローザをつかみとる感激を味わいたい」(レース公式記者会見より)
こう語ったスカルポーニは、詰めかけた大勢のカメラマンの前で、決してジャージを羽織ることはなかった。そっと胸にあてただけ。3週間後には総合4位で大会を終え、その1年後もまたしても総合4位だった。
2014年にアスタナ入りしてからは、ヴィンチェンツォ・ニーバリのために働く機会が増えた。同夏のツール・ド・フランスでは、プロ入り以来初めて、チームリーダーがグランツール総合優勝を手にする感激を堪能した。
そして迎えた2016年ジロ・デ・イタリア。4分43秒遅れで総合4位に沈むニーバリのために、第19ステージで、見事な作戦を成功させる。スカルポーニはコース序盤に逃げ集団に滑りこむと、チーマ・コッピでアタックを打ち、独走態勢に入った。ところが、6分半ほど後方で、やはりチーマ・コッピの下りでニーバリが飛び出したとの報を受けると……、なんとペダルをこぐ脚を止めた。リーダーの合流を待ったのだ!
「スカルポーニは自ら区間勝利を狙いに行くことだって出来たはずなのに。チームカーからの指示を受け入れると、僕のために完璧な仕事をやってのけてくれた」(ステージ後記者会見より)
凄まじい牽引に導かれ、区間勝利を手に入れたニーバリは、フィニッシュ地で泣きじゃくった。対するスカルポーニは満面の笑みで表彰台に登ると、チーマ・コッピ先頭通過の記念プレートを受け取った。
翌日も老獪な男の脚は冴え渡る。総合で44秒差の2位に浮上したニーバリのために、プロトン前方で加速を切ると、集団を粉々に打ち砕いた。栄光へ向かってチームリーダーが飛び出していった後は、ただひたすら、敗れゆくライバルたちの背後に張り付いた。締めくくりには、ふらふらっとフィニッシュラインを越えながら、ニヤリ、と笑った。そして右の拳を、天高く突き上げた。
夢が叶った、と最終日のインタビューで、スカルポーニは口にした。ようやく、心の底からマリア・ローザを楽しんでいるようだった。自らはついに、生涯一度も、レース現場で身にまとう機会は持てなかった。それでも2016年大会のリーダージャージこそは、自らも含むチーム全体の「努力と友情の結晶」なのだと、胸を張って宣言した。
かつてティレーノ~アドリアティコやジロ・デル・トレンティーノというイタリアの名だたるレースで総合ジャージを持ち帰ってきたスカルポーニは、2017年4月17日、ツアー・オブ・アルプス(元ジロ・デル・トレンティーノ)の初日ステージで、人生最後の勝利を手に入れた。ファビオ・アルの故障で急遽2017年ジロのリーダー役を託されたベテランは、新たな夢に向かって、順調な仕上がりを見せていた。
「この勝利は双子の息子、ジャコモとトマゾー、そして妻に捧げたい。だって彼らのことを、とても愛しているから」(大会公式リリースより)
総合4位で大会を終え、スカルポーニは愛する家族のもとに帰った。当夜にはツアー・オブ・アルプスのリーダージャージを着た息子を背中に乗せて、笑っておどける写真を、SNSに投稿している。シャッターを押したのはきっと、オペラシオン・プエルトによる18ヶ月の出場停止処分中に結婚し、辛い時期も一緒に乗り越えてきたアンナ夫人だったのだろう。
翌朝早く、スカルポーニは天に召された。キャリア通算25勝、ジロ総合優勝1回。記録は永遠に残る。なにより我々の記憶の中から、彼の笑顔が消えることはない。安らかなる眠りを祈りたい。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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