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サイクル ロードレース コラム 2018年7月13日

ツール・ド・フランス2018 第6ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ステージ優勝を決めたダニエル・マーティン

パリのマイヨ・ジョーヌ候補たちが、「ブルターニュのラルプデュエズ」で、ちょっとした前哨戦を繰り広げた。クラシックハンターたちもまた、強豪クライマー勢と堂々渡り合った。一方では最終盤のメカトラで2人の総合有力者がタイムを失った。最後はダニエル・マーティンが上手く機をとらえると、ミュール・ド・ブルターニュのてっぺんまで単独で駆け上がった。

ブルターニュで過ごす3日目、日差しは相変わらず強かった。それでも緑の木々の間を吹き抜ける爽やかな風が、ちょっとした清涼感を演出してくれた。コース上では、この風が、選手たちを大いに苦しめた。分断を生み出し、ツール名物の激坂をより難しいものに変えた。

今大会ここまで、毎日最低1人は逃げに送り込んできたディレクトエネルジーが、第6ステージでも動いた。スタートフラッグが振り下ろされた瞬間に、ダミアン・ゴダンが急加速。チームメートのファビアン・グルリエ、地元ブルターニュ子ローラン・ピション、3日間赤玉ジャージを着たディオン・スミス、テュルジス3兄弟の次男坊アントニー・テュルジスがすかさず反応すると、あっさり5人の逃げを作り上げる。

BMCレーシングの主導のもと、逃げには7分以上のリードが許された。ところがステージも残り110Kmを切った頃、クイックステップフロアーズがメイン集団を引き始めた。もちろん総合10秒以内に3選手を有するチームが、追走作業に取り掛かったところで、なんら不自然ではない。しかも3人のうち2人は現役屈指のパンチャー、つまり本日のステージ優勝本命である。

しかし数キロ先で、ベルギーチームの本当の企みが明らかになる。突如として……先頭のメンバー全員で猛烈な加速を切ったのだ! 豊かな大地には、遮るものなど何もなく、ただ強い横風が吹いていた。あっという間に集団に亀裂が入り、さらにはズタズタに分断された。ナイロ・キンタナ、ヴィンチェンツォ・ニバリ、ヤコブ・フグルサング等々の総合有力勢が、一時は後方へと押しやられた。

ただクイックステップが最も千切りたかったはずの総合首位グレッグ・ヴァンアーヴェルマートは、きっちり先頭集団に留まり続けた。またカーブをいくつもこなすうち、いつしか風向きも変わった。補給地点も過ぎた。結局は20Km近くもクレイジーな高速走行を続けた先に、クイックステップは作戦終了を決めた。スピードが少し緩み、後方に千切れた選手たちも徐々に集団復帰を果たした。

むしろ分断計画の被害者はエスケープだった。7分以上あったタイム差は、おかげで2分に縮まった。わずかなチャンスに賭けて、ゴダンが再アタックを試みた。さらに1回目の最終登坂では、グルリエがディレクトエネルジー魂を見せ、最後まで吸収に抵抗し続けた。しかし今回も大きな成果は手に入らなかった。ただゴダンがチームに今大会3枚目の「赤ゼッケン(敢闘賞)」を持ち帰っただけだった。

「こうして逃げを繰り返せば、僕らチームはきっと、いつかは最後まで逃げ切れるエスケープに乗ることができる。逃げ分野で主役になるために、僕らはツールにやってきたのさ」(ゴダン、フィニッシュ後インタビューより)

3年ぶりにツールに戻ってきたブルターニュの「壁」が、史上初めて、コースに2回組み込まれた。1回目は比較的大きな集団のまま、プロトンは全長2Kmの急坂をよじ登った。ただ山頂間際でトームス・スクウィンシュがするり抜け出すと、自らの山岳ジャージにさらに2ptを積み重ねた。後に続いて飛び出したジャック・バウワーのほうが、厄介だった。なにしろ下りへと全力へと飛び込んでいったのだ。

史上初めて2回組み込まれたということは、ミュール・ド・ブルターニュからの下りもまた、ツール史上初めての登場である。急カーブがいくつか続く細道を、バウワーはギリギリで攻めた。一時は後方を30秒ほど突き放した。おかげでメイン集団内はクレイジーなほどの緊迫感で満たされ、スピードは上がっていくばかり。

そんなカオスの中、フィニッシュ手前13Kmで、ゲラント・トーマスがボーナスポイントを手に入れた。第2ステージ中に争わずして3位通過=1秒を収集した時とは違って、今回は自らの意思で獲りに行った。

「誰かが取りに行くようには見えなかったし、いまだ2秒の収集が可能だった。だったら可能なうちに取っておこうと思っただけ。もう1度同じことが許してもらえるとは思わない。きっと3度目の幸運はない」(トーマス、フィニッシュゾーンインタビューより)

むしろトム・デュムランとロマン・バルデが混沌に突き落とされた。前者は残り5.5Kmで痛恨の前輪パンク。後者はラスト4Kmで後輪が破損した。

デュムランは必死に集団復帰を試みた。しかしライバルたちに追いつけぬまま、区間勝者から53秒遅れで坂の頂へとたどり着いた。しかも「チームカーを風よけに使った」として、20秒のペナルティが課された。前日まで、総合勢としてはトーマスに次ぐ2番目の位置につけていたデュムランは、つまりこの日だけで1分13秒を失った。一方のバルデはチームメートのトニー・ガロパンの自転車に飛び乗って、一旦は集団復帰を果たした。ただし激坂に入るとずるずると後退。最終的に31秒を落とすことになる。

ラスト4Kmでバウワーを飲み込み、小さな塊となった集団は、2回目の、つまりフィニッシュへと続く登坂へと飛び込んだ。序盤500mが勾配10%を超える激坂で、真っ先に主導権を奪いにかかったのは「上れる」スプリンター。ペーター・サガン率いるボーラ・ハンスグローエが加速を切った。

「強い向かい風が吹いていたから、スピードがそれほど上がらず、僕にとってはむしろありがたかった。とりあえずトライはした。最大限も尽くした」(サガン、ミックスゾーンインタビューより)

すぐに反応したのがジュリアン・アラフィリップだ。この春のフレーシュ・ワロンヌでミュール・ド・ユイを制したアルデンヌクラシック派は、しかしミュール・ド・ブルターニュには苦しんだ。

「僕にとってはちょっと上り距離が長すぎたみたい。登り前半は上手くいったけど、上に行くにつれて足が動かなくなった。あれ以上の走りはできなかった」(アラフィリップ、フィニッシュエリアインタビューより)

黄色ヴァンアーヴェルマートのチームメートであり、総合優勝候補のリッチー・ポートもまた、自ら加速を試みた。

「坂道で一旦先頭に立てたのは良かったけど、正直に言うと、この種の激坂を勝てるような『パンチ』が僕にはない。まあ黄色を守れたし、僕自身もライバルの一部から数秒稼げただけで満足だよ」(ポート、フィニッシュエリアインタビューより)

ポートが加速した直後だった。マーティンが力強いカウンターアタックを打つ。勾配9%を超えるゾーンで、しかも、何度か畳みかけるように加速すると、ついにあらゆるライバルたちを振り払った。フィニッシュまで残り1.2Km。マーティンが独走を始めた。

「チャンスを感じたんだ。ちょっと早すぎるかな、とも考えた。でもためらっていたら機を逃してしまうだろう?いずれにせよ、僕には、失うものなんて何もなかったんだ。たとえ追いつかれても、これだけ向かい風が強ければ、誰かの後輪に張り付けるだろうと思ったしね」(マーティン、公式記者会見より)

現役屈指の起伏系クラシックハンターから、ここ数年でグランツールGCライダーへと成長を遂げたマーティンは、そのタイミングを読む目や攻撃センスには定評がある。今回のアタックも、決して早すぎはしなかった。追いつかれることもなかった。残り500mからピエール・ラトゥールが急速に追い上げたが、余裕で交わし切った。

「アタックしてからは、最後のギリギリまで、決して振り返らなかった。ひたすら前に突き進んだ。幸いに脚も最後まで持ってくれた」(マーティン、公式記者会見より)

2013年にツールで初めての区間勝利を手にして以来、5年ぶりの栄光が手に入った。今回初めて、UAEの絶対的エースとして本気の総合争いに挑むマーティンにとっては、「チームリーダーとしての地位をさらに固め、チームの雰囲気を盛り立ててくれる」、そんな素晴らしい材料にもなるはずだ。

メカトラ組を除く大部分の総合ライバルは、マーティンから3秒遅れでフィニッシュラインを越えた。クリス・フルームは8秒、リゴベルト・ウランは11秒遅れだった。もちろんマーティンは「ペダル」で敵を突き放した上に、区間勝者としてボーナスタイム10秒も手に入れた。

3秒遅れの14人の中には、サガンとヴァンアーヴェルマートの姿もあった。過去2年のパリ~ルーベ覇者は、第5ステージの「アルデンヌ風(中でもアムステル風)」で区間勝利を争っただけでなく、「軽めのフレーシュ風」でもパンチャーやクライマーと堂々と渡り合った。

当然ヴァンアーヴェルマートはマイヨ・ジョーヌを守り、「もしかしたらルーベ(第9ステージフィニッシュ)へ黄色でたどり着けるかもしれないね」(公式記者会見より)と笑顔を見せた。サガンはフィニッシュ8位でポイントをきっちり収集。「マイヨ・ヴェール用ポイントを、他のスプリンターが取れない時に、こうして自分だけ取れるというのは、本当に悪くないよね(笑)」(ミックスゾーンインタビューより)と、改めて緑ジャージをしっかりと着込んだ。

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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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