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ツインズの前田健太投手は日米200勝へ歩みを再開した
1年半前のことだ。「なんだか調子がイマイチ上がってこないな。それでも、相手が強いほど集中力が増すから、ここ最近は勝利投手にもなれているのかな?」筆者はヤンキースタジアムの記者席でそう考えていた。ツインズの前田健太投手(34)が右肘を手術する前、最後の先発をしていた2021年8月21日のことだ。防御率4点台中盤が、直前のアストロズとレイズのア・リーグ強豪球団からは白星を挙げていた。しかし…。異変は五回に起こった。
ボールがコントロールできず、高めに抜ける。明らかにおかしい球が続いた。自らベンチに向かって右手をかざし、スタッフを呼んだ。「(右肘が)もう限界で…。このままだとチームに迷惑がかかってしまう」。交代を申し出て医務室直行。敵地なので担当医はヤンキースのチームドクター。その場でトミー・ジョン手術を勧められたという。だが、その時点では、手術を受ける気はなかった。
ツインズは、ニューヨーク遠征の次は、ボストンに移動してレッドソックス戦。右肘を痛める前から、個別インタビューの取材を申し込んでいた。メインは高校野球についての取材だったが、ついでに一言だけ、右肘について心境を聞いた。「まだどうなるか分からないし、決めていないですよ」。翌日、前田はチームを離れ、セカンドオピニオンを求め、テキサス州ダラスに飛んだ。そこで、トミー・ジョン手術の権威であり、ダルビッシュ有投手(36)の執刀医でもあるマイスター医師からも、手術を勧められ決断した。
前田は1シーズン、戦列から離れたリハビリ期間を「つらいとは思わなかった」という。トミー・ジョン手術は、症例も多く、リハビリのプロセスも確立されている。だから「毎日、決められたことをやる。それ以上オーバーワークもやらないし、サボることもしない」と一日、一日を過ごした。メジャーのマウンドへ再び立つことは、決して奇跡ではない。まだ続く野球人生を納得して投げ切るために「当たり前に必要なことを、当たり前にやるだけ」。2022年4月4日、マイアミでのマーリンズ戦で591日ぶりのメジャー復帰を果たした。
感動して、涙を流すような復活マウンドになることを想像していた。しかし、マエケンは「勝っていれば、なったかもしれません」と笑顔で答えた。
「自分一人では、ここまでくることができなかった。サポートしてくれた人たちがたくさんいたから、いろんな人たちに感謝の気持ちもあるし、久しぶりのマウンドでプレッシャーも感じていた。いい投球ができるか不安があった」
目指す道のりは日米通算200勝(NPB97勝、MLB59勝=156勝)。完全復活したマエケンなら、十分に可能な数字だ。
(文・山田結軌=サンケイスポーツMLB担当)
山田 結軌
1983年3月生まれ、新潟県出身。立教大時代にJ SPORTSの野球班でプロ野球中継の現場でスコアブックを書くアルバイトを経験した。サンケイスポーツには2007年4月入社。阪神、広島、楽天などを担当し、2016年2月より大学時代から夢みたMLB取材を続けている。
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