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22年のメジャーキャリアを誇り、1980年には首位打者に輝いた強打者ビル・バックナーが亡くなった。69歳の若さだった。
歴史的には、彼は1986年のワールドシリーズでのエラーで記憶されている。レッドソックスとメッツの対戦となったこのシリーズ、レッドソックス3勝2敗で迎えた第6戦に「事件」は起きた。同軍は延長10回の表に2点を挙げ、その裏も2アウトまで漕ぎ着けながら、同点にされてしまった。
そして、2死二塁からメッツのムーキー・ウィルソンの何でもない一塁ゴロをバックナーはなんとトンネル。まさかのサヨナラ負けとなった。最終戦もレッドソックスは落とし、1918年以来の世界一を逃してしまった。
このバックナーのエラーは、78年のヤンキースとのワンゲームプレーオフでの守備の人バッキー・デントに打たれた決勝本塁打、2003年のヤンキースとのリーグチャンピオンシップシリーズ最終戦でのアーロン・ブーンに献上したサヨナラ本塁打と並んで、レッドソックス史上の三大悲劇に挙げられている。
すでに、内外のメディアには彼の追悼記事が多く掲載されている。その多くは、バックナーはあのエラーではなく、その一流の実績で語られるべきだという趣旨だった。
それは全く正しい。通算2715安打はあの「最後の4割打者」テッド・ウィリアムズを上回っているし、前述の通り首位打者を獲得したこともある。非常に優れたコンタクトヒッターで三振が少なかった。その長いキャリアで1試合3三振は一度もない。これは驚異的だ。ワールドシリーズでのエラーばかりが有名になってしまったが、本来は守備の名手だった。
しかし、中には次のような視点のものもあった。ESPNのティム・カークジャンは、あのエラーは過大解釈されているとしていた。ぼくも、その通りだと思う。
あのトンネルは、シリーズ敗退を決めた逆転サヨナラエラーではない。その前に同点にされている。彼のエラーでサヨナラ負けとなったが、あの打球を無難に捌いていても、試合終了にはならず11回表に進んでいくだけだった。そして、何よりもその敗戦で3勝3敗のタイになっただけで、最終の第7戦をものにすれば、レッドソックスは世界一を掴めた。
この年のワールドシリーズ敗退は確かに同球団にとって悲劇的ではあった。そして、バックナーの失策はその象徴的な出来事ではあったが、決定的な失態ではなかったと言っても良いだろう。それが長い年月を経て語り継がれると、一層ドラマティックに捉えられるようになったのだ。その背景には、長年煮え湯を呑まされ続けたレッドソックスファン特有の自虐的な球団愛の示し方があったことは間違いないだろう。
ならば、バックナーは不当に「戦犯」扱いされた不幸な選手だったのだろうか?
いや、必ずしもそうとは言えないだろう。スポーツは多くの人々を熱狂させるが、しょせん娯楽だ。どんな悲劇も時間が経てば、懐かしい思い出になる。
もしあの痛恨のトンネルなかりせば、バックナーは確かにツウ好みの好打者ではあったが、野球ファンの大多数を占める緩い層にとっては「へえ、昔そんな選手が居たんだ」という域を出なかっただろう。
しかし、メジャーの150年の歴史を語る際に、ビル・バックナーの名は大げさに言えばベーブ・ルースやジャッキー・ロビンソンらとともに欠くことのできない存在になっている。これから150年経っても、野球ファンはバックナーについて語り合っているはずだ。球史に名を残す、これはすごいことだと思う。

豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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