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バドミントン日本代表は、今夏のパリ五輪で全5種目のメダルを狙う。5月19日に出場選手の内定会見が行われ、全選手が出席した。最多出場者となるのは、女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)。2016年リオデジャネイロ大会、2021年東京大会は、ともにベスト8。初のメダル獲得を目指す三度目の舞台に「今回の五輪では、笑って終われるように、自分のベストを尽くして頑張りたい」と意気込みを語った。
日本代表の中で、金メダル候補との距離が最も近い選手と言える。2021年、22年の世界選手権連覇が示す通り、実力には問題がない。23年秋から負傷が続いているのが気がかりだが、それ以外に問題点はない。バドミントンを楽しむことを重んじる山口は、過去二度の五輪で、大舞台特有の期待、重圧との向き合い方を考えさせられてきた。
「自分自身が楽しみたいというだけの気持ちと、やっぱり周りの人にも楽しんでもらいたい、良い結果で(期待に)応えたい、周りの人のために頑張りたいという気持ちの両方がある。どっちに偏っても良くないと思う。自分も楽しみつつ、周りの人のために一歩を頑張るところも両立できれば良い気持ちのコンディションでプレーできるのかなと思います。(五輪は)4年に一度しかないし、普段と感じ方が違う大会だと思うので、その分、成長につながる気付き、感じることが大きいのかなと思う」(山口)
五輪の特別感に揺らぐまいと自分なりの一生懸命を発揮したが、大きな期待に応えられなかったと知って流したリオの涙。今度こそ期待に応えたいと思うがあまり、自分のプレーを出せずに苦しんだ東京の涙。二度の涙を経験し、ようやく自然体で二つの大きな特別感に向き合える。無観客だった前回とは違い、今回は有観客。応援や反応を楽しめれば、笑って終われる五輪にできるはずだ。
■渡辺/東野「金メダルへの距離は近付いている」
渡辺勇大&東野有紗ペア
前回大会で銅メダルを獲得した混合ダブルスの渡辺勇大/東野有紗(BIPROGY)は、二度目の五輪。金メダルへのステップアップを目指す。渡辺は「前回は、中国2強の中、銅メダルを誰が取るかみたいな戦いだったし、実際に(2強には)割って入ることはできなかった。そこから、僕らもレベルアップして、何度か中国ペアとも戦って(勝っている)。ほかの国も強くなっていますけど、金を取るという距離で言うと、3年前よりも近付いているなと思っています」と自信を示した。
ただし、今回は中国2強に加え、23年世界選手権を制した韓国や、タイのペアも対抗馬として台頭。前回より混戦模様になり、新しい難しさもある。五輪のダブルス種目は、グループリーグで8強を決め、決勝トーナメントへ進む方式。大会の序盤、中盤の重みは前回よりも増す。試合中の戦術変更ができるようになったことを進化の手応えに挙げた東野は「今は(中国だけでなく)ほかの選手もすごく上がってきていると思うので、1回戦から気が抜けない。戦い方も本当に重要になる」と警戒心を示した。
難しい戦いを覚悟しているからこそ、準備にも余念がない。渡辺は「前回は、シードがいるグループの中では恵まれていた。中国ペアの組に入っていたら結果は違ったと思う。なので(今回は)まずシードを取りに行って、リーグを1位で上がることにすごく意味がある」と金メダルへの道のりをしっかりとシミュレーションしていた。経験を生かし、混戦の中を少しでも優位に立ち、一つでも先へと進むつもりだ。
■父子鷹で臨む奈良岡、幼少期に磨いたスキルの価値示す
奈良岡功大(左)と西本 拳太(右)
複数回出場は、山口が3回、渡辺/東野、女子ダブルスの松本麻佑/永原和可那(北都銀行)が2回。松本/永原は、世界選手権を2度優勝するなど実績も十分。いずれもこれまでの成績を超えてのメダル獲得が期待される。
ほかの選手は、いずれも五輪初挑戦だ。中でも最年少の奈良岡功大(NTT東日本)は、注目選手だ。本人は「パリの次(2028年ロサンゼルス大会)もあるし、その次(2032年ブリスベン大会もあると思う」、「正直(パリ出場を)狙っていなかった。五輪レースを周れればいいやと思っていた」と話し、ターゲットにして来た大会であるという見方を否定する。しかし、2023年の世界選手権で男子シングルス銀メダル。パリで上位を争える可能性を感じたことは認める。初出場でメダルを狙える力を十分に持っている。
強さの根底にあるのは、父子鷹で幼少期から磨いてきたスキルだ。父でありコーチである浩さんは、同じ競技を選んでほしくないとの思いから、競技を始めた5歳の頃から3000本の素振りを課したが、ほかの子どもが続けられなくても我が子が続ける姿を見て「つまらない練習をやり続けるのが、すごい」と認めるようになった。しゃもじをラケットに見立てて手首の使い方を習得したり、自室で壁打ちをして穴を開けたりと、当時の練習エピソードは、事を欠かない。奈良岡は「(義務感で)頑張っちゃ意味がない。一生懸命に楽しくやった方が身になる。ショットは何種類もある。そういうのを何個も(イメージして)やっていくと、楽しいなと思う」と涼しい顔で言うが、地道な練習を続けた成果は大きい。A代表に入り、世界トップレベルの強豪と何度も対峙した今でも「海外の試合でもスキルで負けていると思ったことは、あまりない」と揺るがない自信を持っている。親子で磨いたスキルが五輪でどこまで通じるか、注目される。
■全種目でメダル獲得へ
保木卓朗&小林優吾ペア
初出場でも実績があるのは、奈良岡だけではない。男子ダブルスの保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)は、2021年の世界選手権において同種目で日本初となる優勝を飾った。世界ランク1位に到達したのも日本男子ダブルス初だった。保木は「五輪で目指しているのは、史上初の(男子ダブルス日本勢の)メダル獲得。史上初の金。史上初という言葉をもっと取りたい」と意気込みを語った。小林は、得意の強打に加え、レシーブやネット前でのプレーにも磨きがかかり「今、一番、楽しい。いろんなことができる。試合中もあっちに打ったらという探求心が止まらない」と充実一途。大混戦の種目で新しい歴史を作りに行く。
女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)は、今、日本勢で最も勢いがあるペア。金メダル候補の中国ペアとも接戦続きだ。1学年上の志田がけん引してきたが、松山に任せる部分も増え、それぞれの力を最大限に引き出せるようになった。志田は「組み始めたときは、仲の良い親友。今は、家族、きょうだいのような、話さなくても分かる存在。本当のパートナーになったなとすごく感じている」と総合力を増した実感を言葉にした。
男子シングルスの西本拳太(ジェイテクト)は「ダークホースとして金メダルを狙う」と虎視眈々。女子シングルスの大堀彩(トナミ運輸)は、コーチでもある父の均さんに対し「恩返しという意味で五輪出場を勝ち取れたのは良かった」と感謝を示し、父の首にメダルをかけるイメージについて聞くと「それが一番大きな夢」と話した。パリ五輪まで残り2カ月、それぞれの強い思いを力に、日本は夢の全種目メダル獲得へ突き進む。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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