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渡辺勇大選手(右)/東野有紗選手(左)
昨夏の東京五輪に臨んだバドミントン日本代表で唯一となるメダルを獲得したのは、混合ダブルスの渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)だった。同種目で日本勢初となる銅メダルは、バドミントンという競技、混合ダブルスという種目の認知度を高める価値がある。東京五輪の後も個人戦では1大会を除いて決勝に進出。世界選手権では、日本勢初の銀メダルを獲得するなど活躍を続けている。
1月下旬、2人にリモートインタビューで話を聞いた。前編では、東京五輪のメダルの価値をどのように感じているのか。また、ペアを結成して10年が経つ中、良いパートナー関係を継続するためにどんな工夫をしているのか。そして、後編(本編)では、渡辺が2種目挑戦を続けるつもりなのか、2024年パリ五輪に向けては、どのような意識で臨んでいるのかなどのテーマに迫った。
「アラサー」で迎えるパリ五輪への一つの課題は、体調管理
――東京五輪で銅メダルを獲得後、9~12月は長期遠征でした。個人戦では1大会を除いてすべて決勝に進出し、世界選手権でも前回2019年の銅を上回る銀メダル。新しい手ごたえはありますか
東野:安定して勝てるのは、一番大事なことだと思います。以前は、(連戦だと)1週目は勝つけど2週目は負けるとか、その逆とか。今回、安定して勝ち続けることができたのは、自信になりましたし、最後までとは言わないですけど、こんなに長い期間、2人とも良い調子で続けてこれたのが、一番、良かったんじゃないかなと思っています。
――東野選手は、試合の映像を見ていたら、五輪の前より落ち着いて、プレーも試合後のコメントも堂々としていたように感じたのですが
東野:ホントですか?多分、試合が連続していたので、試合に慣れて落ち着いてプレーできたり、インタビューに答えたり出来たのかなと感じます。変えたというところはないですね。自信がついたというより、もっと強くなりたい気持ちが強いので、まだまだだなと感じています。
東野有紗選手
――連戦の中、コンディションを保つために、どんな工夫をしていましたか
東野:五輪前は、実は2人ともケガをしていて、治すのに必死でした。五輪の直前合宿からやっと2人で組み始めてやっと練習できるようになったので、コンビネーションを合わせることを強く意識していました。昨シーズンの後半は(欧州と東南アジアの往復で)気温の変化がすごくて体調を崩しがちだったので、何とか乗り越えるように意識していました。のどがやられるので、お湯を沸かしたり、部屋を加湿して、のどをやられないように気を付けていました。
渡辺:「やられないように」って言いましたけど、めちゃくちゃ、やられていましたよね(笑)。五輪の前にケガをしたり、遠征中に体調を崩したり。僕らに調整術を聞くのは、間違っています(笑)。どの大会も強くなっていくための通過点で、どこかにピークを持ってくるということは、あまり考えていません。だから、たまたま、五輪前や世界選手権前にケガや体調不良が重なったと捉えています。ただ、今後は、コンディション調整も含めて2人で勉強していかなければいけないと昨シーズンを通して再認識しました。今年は、僕が25歳になり、先輩は26歳になって「アラサー」に入っていく年。もう若いとは言い難くて、ケガや体調不良が選手生命に関わって来る年齢に来たと思っています。今までは、練習でも常に「まだまだ、いける!」というモード。その気持ちは忘れずにやっていきたいですが、ケガをして休んでしまうと、その時間がすごくマイナスになってしまいます。気を付けて、2人で長くプレーできるようにしたいと思っています。
■渡辺は2種目挑戦継続へ、女子複と掛け持ちした東野「本当に大変でした」
――東野選手は、21年10月に欧州の2大会で女子ダブルスにも出場しました。東京五輪までは、渡辺選手が男子ダブルスと2種目でプレーしていたわけですが、2種目エントリーについて、どう感じましたか
東野:勇大君を見ているだけでも大変そうだと感じていましたが、やってみると本当に大変でした。2週間だけだったから乗り切れましたけど、勇大君はこれを毎週のようにやるんだと考えたら、本当に覚悟が必要だなと感じました。2種目目を終えてから次の日までの時間がないですし、1日の中でも試合と試合の間が長かったり、短かったり。どうやって休憩や準備をするかが大変で、2種目目までの時間でホテルに戻った方がいいかを毎回のように(渡辺に)相談していました(笑)。
――東野選手は、女子ダブルスを組んだ福島選手とは仲が良いと聞いています。男子では、東京五輪に男子ダブルスで出た4選手のうち、渡辺選手以外の3人が代表を卒業してしまいました。現在の日本代表の雰囲気について教えてください
東野:みんな、本当に仲が良いです。誰が一番というのはないですけど、由紀ちゃんとは特に仲良くさせていただいています。
渡辺:みんな、仲は良いよね。男子は、ダブルスの大御所たち(笑)が抜けて、新しい選手も入ってきましたけど、元々、保木卓朗/小林優吾ペアとか(古賀輝と組む)齋藤太一さんは、学校の先輩で元から仲良くさせてもらって、お世話になっている身なので。(遠藤大由、園田啓悟/嘉村健士ペアが代表からいなくなって)寂しいというのはありますけど、ほかの選手や僕にとっては(代わって出場機会を得る)チャンス。みんな仲良しだけど、みんなライバル。一つでも上をと目指していますし、合宿でも、みんながヒリヒリしている感じがいいなと思います。僕が男子ダブルスの練習に混ざることはなくなってしまったので、見ていて感じることですけど、保木/小林も古賀/齋藤も、自分たちがチャンスをつかむぞ、世界のトップで戦うぞという、準備はできているんじゃないかなと感じています。
渡辺勇大選手
――渡辺選手は、今後、パートナーを探して男子ダブルスにも挑戦していくのですか
渡辺:先輩がいいよと言ってくれますし、チャンスがあるなら(2種目に挑戦して)たくさん勝った方が嬉しいですから。先輩の理解が大前提。それに自分の覚悟、誰と組むかという巡り合わせもありますし、現実的なこととそうでないこともあるので、いろいろと要素を洗い出して、いろいろな人の力を借りて決めていきたいと思っています。
■コロナ禍のバブルで育まれた、ライバルたちとの交流
――21年11月のインドネシア遠征では、選手だけの観光ツアーのようなものが組まれたようですが、他国の選手とのコミュニケーションや雰囲気は、どのような感じですか
渡辺:五輪と世界選手権のメダリスト、あと数名の関係者でツアーが組まれたのがありましたね。ほかにもイベントがありましたが(感染対策で外部との交流を閉ざした)バブルだから、ホテルを貸し切っていて、できたこともあったと思います。すべて関係者だけでしたし。それにしても、インドネシア協会の方がすごく良くしてくださって、さすがバドミントン大国だなと感じさせていただきました。
東野:インドネシアでは3週間、バリ島にいました。貸し切りのホテルにプールがあったので、いろんな国の選手とみんなでバレーボールをしましたし、今までそんなに関わることがなかった選手とも仲良くなって、この長い遠征で交流が増えました。特にタイのサプシリー・タエラッタナチャイ選手(※世界選手権の決勝などで何度も対戦したペアの女子選手)は、SNSでもDMを送り合って仲良くしてくれています。SNSを見ても海外の選手は使い方が上手なので、私たちも同じように発信していけたら日本のバドミントン界も盛り上がるかなと考えていて、私も含めて日本の選手もSNSを活用するようになってきていると思います。
■東野「五輪後に練習を始めたとき、パリに向けて頑張りたいと思った」
東野有紗選手
――2022年は、どんなシーズンにしたいと考えていますか
東野:1大会1大会、1試合1試合臨むのが、自分たちのモットーなので、それを大事に。今年も(すべての大会で)目標は優勝というのを考えて、1年、ケガなくやり遂げたいです。
渡辺:強くなるために競技をしているので、1年を無駄にしないようにしたいですね。今年(2022年)は、世界選手権が東京でありますし。たしか、寅年ですよね?じゃあ、虎のように……ちょっと、なんか派手にやりますか!
東野:なに、それ……(笑)。
渡辺:何か派手な(まだ誰もやっていないような)ことにトライしてみるのも良いかなと。コートの中だけでなく、外でも、何か今までにやっていないようなことを積極的にやっていく年にしたいです!
――その初戦は、2月のS/Jリーグになります。意気込みを聞かせてください
東野:日本ユニシス株式会社として出る団体戦が最後なので(※日本ユニシスは、2022年4月1日付けでBIPROGY株式会社に社名を変更する)、名前を背負って、男女アベック優勝をしたいと思っています。
渡辺:もちろん、優勝を目指します。出場したら勝ち星を挙げられるように頑張りたいですし、試合に出られなくてもサポートを頑張ります。団体戦では、流れや勢いもすごく大事なので。先輩が言ってくれたように、社名が変わるので(日本ユニシスとしての挑戦を)有終の美で終えられるように、精一杯頑張りたいと思います。
渡辺勇大選手
――残念なことに無観客開催になってしまったので、ファンの方は映像で見るしかありません。2人のプレーをファンが生観戦できる次のチャンスは、東京の世界選手権になりますね
渡辺:ファンの方にプレーを見せたいですよ。五輪があって、世界選手権もあって(どちらも日本からメダリストが出て)、良い熱が来ていると思うんですけどね。これをどうやって絶やさず継続するか。オフラインが無理ならオンラインで、何かもっと工夫しないといけないと思うんですけど、選手だけだと力が足りないので、先頭に立ってくれる人がいると嬉しいです。僕らはなんでも手伝えると思うし、何かアイデアがあったら、誘ってください。
――最後に、まだ東京五輪を終えて半年ほどですが、次の大目標としては2024年パリ五輪があります。どのような意識を持っているか、教えてください
東野:東京五輪は、金メダルを取るのが目標でした。銅メダルが取れて嬉しい気持ちもあるんですけど、次の日に考えたのは「やっぱり、金メダルが取りたかったな」という思い。それがすごく強くて、五輪後に練習を始めたときに、パリに向けて頑張りたいという思いは、自分の中ではありました。
渡辺:五輪は、出たい大会ですし、金メダルを取りたい大会です。でも、出場権獲得レースも来年(2023年)からですし、まだちょっと遠い。頭の片隅にパリ五輪という目標を常に置きながら、まずは目の前の試合でレベルアップしていくことが目標です。(例年とは異なり、東京五輪が1年延期されたため4年でなく)3年で次の五輪が来るので、出場メンバーは、それほど大きく変わらないのではないかと僕は思っています。そうなると、今、戦っているメンバーに、いかに負けないかが大事。だから、結果的に金メダルにつながっていくように、目の前の大会でレベルアップできるように、活動していきたいです。
バドミントンインタビュー
渡辺勇大選手×東野有紗選手
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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