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日本の新たなエースペアが世界に存在を知らしめた。2021年のバドミントン界において、男子ダブルスの保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)は、目覚ましい活躍を見せた。先輩たちが東京五輪で代表を引退し、日本3番手からエースへと立場が変わると、その刺激から覚悟と自信を強めて、下半期は連勝に次ぐ連勝。シーズン終盤には、年間成績上位者が集うBWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアーファイナルズを優勝し、さらに世界選手権でも男子ダブルス日本勢初となる優勝を果たし、世界王者となった。
保木卓朗選手/小林優吾選手
機動力と展開力に優れる前衛の保木、切れ味鋭い強打を持つサウスポーの小林。2人は、2019年の世界選手権で準優勝するなどポテンシャルの高さは示していたが、小林が負傷しがちで成績が安定しない課題もあり、東京五輪は出場権を獲得できなかった。その2人がなぜ、世界のトップで勝ち続けられるようになったのか。2022年の抱負も含め、21年シーズンを戦い抜いた「ホキコバ」ペアに話を聞いた。(取材日:2021年12月23日)
■刺激を受けた「東京五輪」と「エースの責任」
――世界選手権の優勝、おめでとうございます。2021年は、素晴らしい成績でしたね
保木:ありがとうございます。自分たちでもビックリしています。
――下半期が話の中心になりますが、夏の東京五輪までは、どのような目標意識で取り組んでいましたか
保木:コロナ禍で大会の延期や中止が多く、五輪も出場権を逃していたので、どの大会をターゲットにすればいいか難しかったです。ただ、日本代表チームに帯同して、五輪に出場する選手の覚悟や思いが伝わってきて、試合よりも良い経験になりました。極限の集中力で取り組んだハードな練習後に、ジムで追い込んでいる選手もいました。「同じ立場ならどうするか」と比較して、自分はまだ甘いんだなと差を感じました。
――五輪後は、男女混合スディルマン杯(準優勝)、男子トマス杯(3位タイ)と団体戦が続きました。東京五輪に出場した遠藤大由選手(日本ユニシス)、園田啓悟/嘉村健士(トナミ運輸)が代表を引退。日本のエースペアとして出場しましたが、どう感じましたか
小林:団体戦は、主力選手が抜けた男子ダブルスが日本の穴だと思われていたのが悔しくて、保木と「見返してやろう」と話していました。でも、東京五輪までは日本の3番手で引っ張ってもらう立場だったので、最初は不安もありました。「団体戦って、みんな、こんなプレッシャーの中でやっていたのか」と感じましたし、すごく良い経験になりました。
保木:特にスディルマン杯は、男子ダブルスからスタートする流れで(国を背負って)1番手として出る難しさを感じました。最初の1勝は、どの国も欲しいですし、後の流れを考えても、自分たちの振る舞いや勢いが大事。個人戦だったら、あそこまでガッツを見せてプレーできなかったと思います。団体戦に男子ダブルスのエースペアとして出たことで、その後の個人戦も同じくらい強い覚悟で臨めるようになったというか、自分の器を一つ大きくできたかなと感じています。
■連勝の源は、桃田への憧れ 勝ち続けるペアへ「人生を変えたい」
――個人戦は、素晴らしい成績が続きました。欧州遠征後、インドネシアでは、3大会連続で決勝に進出し、2大会を優勝。開催国が誇る2強ペア、世界ランク1位のマーカス・フェルナンディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョに2勝1敗、世界ランク2位のモハメド・アッサン/ヘンドラ・セティアワンに2勝と衝撃的な勝ち上がりでした
保木:五輪後最初の個人戦となったデンマークオープンで初めて大きなタイトルを取れて嬉しかったのですが、次のフランスオープンはベスト8。「優勝はまぐれ」と思う人が多かったと思いますけど、インドネシア遠征は「こいつら、本当に強いんだな」と思わせる大会にできたかなと思います。インドネシアの2ペアには初めて勝ったのですが、10連敗中だったギデオン/スカムルジョに決勝戦で勝って大きな自信になりました。コロナ禍で声援の制限があって普段の熱狂的なインドネシアのホームの雰囲気ではありませんでしたが、次に対戦する時も良い戦いができるんじゃないかと思っています。
小林:五輪が終わった後、2人で「人生を変えたい。やっぱり桃田賢斗先輩(NTT東日本)のような、勝ち続けられる存在になりたい」と話していました(※桃田は、2人にとって中・高時代の1学年先輩。男子シングルスで21年12月まで3年以上世界ランク1位を堅持)。だから、デンマークで優勝した後も「もう1回」という気持ちでした。インドネシアでは、最初の大会で優勝した後、次の大会の初戦がアッサン/セティアワンで厳しかったですけど、そこでも「もう1回、もう1回」と言い続けて3週連続で決勝に行けました。2人で毎日、試合の話をずっとしていたのが、勝ち続けられた理由だと思います。今まで勝てなかった自分たちでもできると思えて、もっと勝ちたい気持ちが生まれました。
■小林が課題のレシーブを強化、攻守のパターンが多彩に
小林優吾選手
――プレー面では、小林選手のレシーブ強化の影響が大きかったと話していました
小林:レシーブ強化の個人練習は、20年の半ばくらいから少しずつ始めました。まずは、リスクのある返球をせず、とにかく相手コートの奥に返し続ける。それで、自分の方に打っても決まらないぞという雰囲気を作って(レシーブが得意な)保木の方に打たせて、保木がショートリターンから前衛に入って攻撃に移る形をずっと練習していました。自分にレシーブ力がないので、保木は、僕をカバーしながら、自分の方に飛んでくる速い球の打ち合いも対応して、さらに攻撃に移るためのショートレシーブも狙って……やることが多過ぎて保木もミスをする形が多かったので、保木の負担を軽くしたいと思っていました。
保木卓朗選手
――保木選手は、小林選手にレシーブを任せる部分が増えて、どう変わりましたか?
保木:小林のレシーブ力が向上したことで配球パターンが増えました。以前は、どうしても「自分のところに相手がアタックしてくるように」という配球しかできませんでした。でも、今は「小林の方にアタックさせる」配球をしても、小林がクロスレシーブで相手の上体を煽って全力では強打を打てない形に持っていったり、強い球を打ち返してくれたりしてくれています。配球を変えるだけで、相手の球も絞りやすくなるものです。例えば、僕がフォアハンドで速いロブをクロスに打つと(頭を越される前に高い打点で)飛びついて打ってくる相手の球は(上から下への角度をつけにくく)コートと並行の弾道で正面に飛びやすい。それをアタック力のある小林が強い球で返してくれるというパターンも可能になりました。それに、2人でレシーブができるようになり、1回で攻め切らなくても、ラリー中に守備、もう一度攻撃とプレースタイルを変えられるようになりました。配球パターンが増えたこと、ラリー中に攻守の切り替えができるようになったことが、勝ち続けられた要因だと思います。
――連戦を勝ち続けられたのは、小林選手が「ケガをしない戦い方ができるようになった」と話していたことも大きな関係があるのでは?
小林:攻撃一辺倒のプレースタイルのままだったら、21年下半期も(長期遠征5大会目の)インドネシアの2大会目くらいで、腰か背中、腹筋あたりがちぎれて、肉離れなどを起こしていたと思います。レシーブからでも点を取れるようになったので、全力の強打に頼らず、良い意味で休める時間が増えたので、今はどこも痛くありません。今までは、身体を酷使して、負傷箇所の状態を考えて、絶対にできないことがいくつかある中でプレーしなければいけないのが難しかったのですが、それも解消されました。
■2022年は世界ランク1位、東京で世界選手権の連覇が目標
――連戦続きの21年が終わったばかりですが、2022年の初戦は、国内のS/Jリーグ(2月、熊本、東京で開催)。見るのを楽しみにしているファンも多いと思います
保木:S/Jリーグでは、チームの目標である5連覇を達成したいです。日本でファンの方に久々に試合を見てもらえるのは楽しみですけど(世界王者になって)以前とは見られ方が変わっていると思うので、すごい緊張しそうです(笑)。変な試合はできませんし、日本のペアには負けられない気持ちにもなっているので、ちょっと変なプレッシャーはあります。でも、今の自分たちは引かなければ絶対に勝てると思っていますし、自信の持ち方が大事。自分がトップだと胸を張って相手に臨むことが大事だと考えています。
小林:団体戦なので、仲間の応援がすごいし、お客さんも入ってくれれば、すごく楽しいだろうなと思っています。国際大会で良い成績を残せて、僕たちのことを知ってくれている人も増えていると思うので、皆さんに見てもらう中で、インドネシアの3大会や世界選手権で見せたプレーのクオリティーを試合で発揮したいと思っています。
保木卓朗選手
――最後に2022年の抱負をお願いします
保木:国際大会は、おそらく、3月のドイツオープン、全英オープンからだと思います。相手が向かってくる感じになるかもしれませんが、それでも勝っていかなければいけません。中でも、8月に東京で開催される世界選手権の連覇を最大の目標にしたいと考えています。9月には、4年に1度しかないアジア大会もありますし、まだ優勝したことがない大会も優勝できるように、世界ランク1位を目指して頑張ります。
小林優吾選手
小林:個人としては、レシーブもまだまだですし、(強打と見せかけて急激に曲がり落ちる)カットスマッシュや、鋭いスマッシュで(相手ペアの間の)センターを打ち抜くとか、攻撃のバリエーションも増やしたいです。今までは、良い成績を取っても、別の大会では1回戦負けということが多かったので、2022年はコンスタントにベスト4以上に入って、世界ランク1位になることが目標。今度は世界選手権が日本で行われるので、2連覇を目指したいです。
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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