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スポーツ科学の必要性について | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~ポスト・スポーツの先を見据えて~
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部スポーツ科学の必要性
スポーツ科学の最前線で活躍するフロントランナーたちとの対話を通じて、研究の成果を実践現場に還元していく“Dialogue”(ダイアログ)。今回は成城大学社会イノベーション学部の山本敦久教授をゲストに迎え、これからのスポーツについて議論を展開していきます。
M:これまでスポーツ界はいかなる変革期にあるのかということをお話しいただいて、移行期間・変革期間に我々は何を考えなければいけないのかということも議論をさせていただきましたけれども、ここからは少し話題を変えて、スポーツ科学という大きな学問体系のことについてお話をさせていただきたいと思います。私も山本先生も、大きな括りで言えばスポーツ科学の研究者ということになるわけですが、スポーツ科学という学問体系も批判の対象になってきていて、スポーツ科学という大きな学問体系はいらないのではないか。例えばスポーツ科学の中には、スポーツ社会学、スポーツ経済学、スポーツ哲学、スポーツの歴史学、スポーツ史みたいなたくさんの研究領域が包括されている領域ですけれども、例えばスポーツ社会学はスポーツ社会学という独立した学問領域を持たなくても、社会学という親学問の中でスポーツを研究対象として扱えばいいんじゃないか。結局、スポーツ科学という学問体系はいらないのではないかという議論が割と出てきているのですが、先生は、スポーツ科学の存在意義、あるいはスポーツ科学という学問体系はそもそも必要だと考えておられますか。
Y:スポーツ科学は自立した重要な学問領域として、これからもっと存在感を示していっていい領域だと思います。
M:それはどうして?
Y:今日、町田さんといろいろお話をしてきている中でも、スポーツの中で起きていることは社会の中で起きてきていることの先駆的な状況を、やはりよく表している。あるいは私たちの身体に起きている様々な変化も、やっぱりスポーツの中で先駆的に可視化されてきていて、社会を変えようという様々なムーブメントにおいても今、スポーツやそれに関わる人たち、アスリートたちが非常に重要な役割を持ちはじめている。あるいはテクノロジーと人間の接続を考える際にも、スポーツは非常に一歩も二歩も先に進んでいる。生活の局面よりも、もしかしたらアスリートたちとテクノロジーの接合って、もっと早い段階で進んでいるとすると、スポーツは今、社会に起きているものをある種予見するような、ちょっと先取りするような形で社会変化が映し出されている領域だと思うんです。むしろ、スポーツ社会学やスポーツ科学という自立した領域は、私は堂々とあるべきだと思うし、そこを拠点にして他の分野に、もっと理論やアイデアや考え方、知見を提供していくような立場になっていった方がいい。もうなっているとも思いますし、なるべきだと思います。
M:なるほど。もし若き学生、あるいは学生じゃなくても、あらゆる方が自分もスポーツ社会学の研究者になりたい、目指したいと志した場合に、どういうことを努力すれば、キャリアの可能性って開けるでしょうか。スポーツ社会学にとってどのようなスキルが重要なんでしょうか。
Y:やっぱりスポーツっていいものだし、美しいものだし、絶対的に正義だというふうに思われている。やっぱりいいものだ。でも、ちょっと外して見てみた時にスポーツはいろんな問題を抱えていると思うんですよ。自然環境を破壊していることもあるし、女性を差別していることもある。黒人差別だってスポーツの中で今日も行われている。でも逆に、スポーツはそれを挽回していく。逆転していく。あるいは差別を撤廃したり、もしかしたらこれだけ地球環境を壊してきた人間のあり方を反省したりするためのフィールドとして、スポーツを作り変えることだってできるかもしれない。だから、スポーツの常識をやっぱり疑う。「ちょっとおかしいな」という感性。これを磨いていく。おかしいと思ったらそれを調べていく。なぜこれが常識なんだろうということを、自分の中で転換してみる。今までAとBがつながっていて、それ当たり前だったんだけど「いや、Cという回路もあるよね」とか。ちょっと思考を転換したり、違和感を大事にしたり。そういうことがカルチュラル・スタディーズやスポーツ社会学にとっては大事な技法というか、感性かなと思います。
今後の展望
M:なるほど。
Y:私はわりとクリティカルにスポーツを分析したり語るタイプなので「スポーツ嫌いなんですか」って言われたり、書かれたりすることは多いんだけれど、それは一番違っています。スポーツが大事で、スポーツが大好きだからこそ、スポーツにどんな可能性があるのかなということを探りたいんですよね。だから、スポーツをクリティカルに日本語で言えば、批判的に捉えることとスポーツを愛することは、私は矛盾してなくて表裏一体。その感性がやっぱりスポーツを社会学したり、カルチュラル・スタディーズをしたりするためにすごく重要なファクターだなと思っています。
M:そんな山本先生ですけれども、今後スポーツ社会学の研究者としてどんな展望を考えておられるんでしょうか。
Y:そうですね。町田さんがおっしゃったように転換期。「ポスト・スポーツ」の時代。これはスポーツ社会学にとってみると変化をきっちりとキャッチしていくことは大事なんだけれど、同時に私はその外に向けて発信していく。これはさっきの話とも関わるんですけど、スポーツ科学の外に向けて、スポーツ科学の知見や声を出していく。いろいろな分野の人たちと連携していく。それは学者だけじゃないと思っていて、アスリートたちとも協力しなきゃいけない。他の分野の研究者たちとも協力していかなきゃいけない。新聞記者、ジャーナリスト、テレビの人たちとかやはりとあらゆる情報発信に関わる人たちと一緒にシェアしながら、問題を共有しながら「スポーツ科学の中だけでこういう研究がありました」ではダメで、それをいろんな人たちと共有して、発信して問題を発見して変えていく流れを作っていくことが私がこれからやっていきたいこと。研究は同時に誰かとつながることでもあるし、外に出ていくことでもある。それがなんか私のこれからの研究の展望やスタイルなのかなと思います。
スポーツ科学とは
M:先生、今日は「ポスト・スポーツ」というスポーツの移行期間についていろいろと考え、そして、これから私たち研究者をはじめ社会の人たちがスポーツ文化、未来のスポーツ文化をどうしていったらいいのか、何を考えるべきなのかという、その観点を提供していただきました。本当に今日は貴重なお話をありがとうございました。
Y:ありがとうございました。
皆さんいかがでしたでしょうか。今回はスポーツ社会学者の山本敦久先生をお迎えし、「ポスト・スポーツ」についてじっくりと対話をさせていただきました。ともすれば、人間社会全体、あるいは人類の文化全体から見ると、スポーツというのはほんの小さな一領域でしかないかもしれません。しかし山本先生との対話の中で明らかになったように、スポーツはある種、社会を映す鏡です。トピックによっては、どこの領域よりも先立っていち早く社会問題が顕在化したりするフィールドです。ですから、ジェンダーの問題、テクノロジーと身体の問題、スポーツと政治の問題など、この「ポスト・スポーツ」の時代に議論しなければいけないことは山積していますが、そうした議論が次なる時代のスポーツ文化を築くことは言わずもがな。これからの社会そのものを作り上げていくことにもつながっていくのです。この番組をご覧くださっている皆様もぜひ、自分ごととして「ポスト・スポーツ」の諸問題について考えてみてください。それでは今回のスポーツアカデミアは、このあたりで締めくくりとさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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