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フィギュア スケート コラム 2022年8月3日

デジタルアーカイブについて | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 秩父宮記念スポーツ博物館・図書館

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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町田樹

町田樹

今回、秩父宮記念スポーツ博物館・図書館に伺い、アーカイブ事業に取り組まれている学芸員の先生と、スポーツアーカイブについて議論をしています。3回目は、デジタルアーカイブについて、お話をしていきます。

町田(以下M):ここからは、デジタルアーカイブについて紐解いていきます。秩父宮記念スポーツ博物館・図書館、アーキビストの村上佳奈子先生にお越しいただきました。今までいろいろな資料を拝見してきたのですが、有形物としてアーカイブする場合、この場に来なければ資料にアクセスすることはできません。特にコロナ禍でもあり、足を運ぶという一手間がいるので、なかなか多くの人が一堂に会することは難しいですよね。そうした場所の制約を克服する手段として、デジタルアーカイブがあると思います。こちらの博物館でもデジタルアーカイブの試みはなされているのでしょうか。

村上(以下MK):はい。これからどんどん発展させていきたいという段階ではありますが、少しずつデジタルアーカイブを作成している段階ではあります。

M:こういう文献などは単純にスキャンをして、PDFないし画像的な資料でデジタル化すればデジタルアーカイブ化することもできると思いますが、問題は有形物ですよね。3Dの仕様みたいなものをデジタル化することは至難の技だと思います。

デジタルアーカイブ

デジタルアーカイブ

MK:実際に写真で撮影しただけでは、大きさやどういったものなのかというのが伝わりにくいという問題があります。もちろん、一緒にスケールを撮影して、大体、どのぐらいのサイズのものなのかというのを画像からも分かるようにはするのですが、合わせて、画像と一緒にどういった文字情報を付けていくのか。それも非常に重要だと思っています。

M:アーカイブ学の領域では三つのメタデータをつけるべきだと考えられていて、その一つが記述的情報です。資料がどういったものなのかというと、単純にディスクリプションですね。二つ目が経営的情報。その資料は誰の所有物なのか、どんな著作権があるのか、肖像権が誰にあるのか。資料を活用する時には、どんな権利処理が必要なのかという利用料のようなもので、資料をマネージメントしていく上で必要となる情報です。三つ目は構造的情報。文献は最も分かりやすいですけれども、単純にスキャンしていくだけではなくて、どんなチャプターで構成された本、資料なのかということです。情報を付すことで、資料にアクセスした人が、一目で「こういう構造の資料なんだ」と分かること。このチャプターは自分にとって関係あると分かることで、すぐに必要な情報を資料の中から抜き出すことができる便利なものです。この三つが最低限必要と言われていますが、やはり記述的情報はスケールを入れたり、記述を入れたりすればいいため、比較的やりやすいのかなと思います。一方で、経営的情報はやはり難しいですよね。

MK:そうですね。スポーツ資料をアーカイブするにあたって最終的に何をアーカイブしたいのかというと、スポーツそのものです。スポーツは人の活動、営みです。そういったことをアーカイブしていくためには、いつ、どこで、誰によって使われて、誰が持っていたものなのか。そういった管理的な情報、所有者が誰だったのかといった情報も、非常に大切なものだと思います。いつどの大会で使われたのか、誰が使っていたのか。その部分をスポーツアーカイブとしては重視していくべきだと考えています。

M:単純に構造的な情報は、資料を丹念に読み込めば分かってくるものなのですが、博物館を1日歩かせていただいて、先程の3点では足りないと思ったんですよね。何が足りないのか、それは文脈的情報だと思います。資料そのものはもちろん大事ですけれども、そのバックグラウンド、どういうパフォーマンスがなされたのか。それとともにアーカイブしなければ、本当の意味でのスポーツアーカイブにならない。それは皆さんもお話されますが、資料そのものだけではなく、それがどういう競技会で使われたのか、どういう選手によって使われたのか。その器具がどういうパフォーマンスを生み出したのか。その文脈も情報を収集して、メタデータとして添付しなければいけないことを痛感しました。これからも、そういうことに挑戦していかれる、ということですよね。

MK:はい、そうですね。催事情報や誰が使ったのかといった情報を物から採取する。その上で採取した情報を、例えば年表などで整理していきながら、収蔵品のデータベースとしてだけでなく、様々な形のものをつなぎ合わせて総合的なアーカイブとしていくということを目指しています。

M:デジタルアーカイブと一口に言っても、単純に、ある一つの資料をデジタル化して、いろいろなメタデータを付けるだけではなく、それらを集積するようなマザーシップ、データベースをどう構築するか。その設計も非常に大事ですよね。そこでミスが起きると資料にアクセスできなかったり、検索しても出てこなかったりすることがあります。そういうことにも気を使いながら、デジタルアーカイブを構築されているということですよね。

MK:そういった段階にありますね。

JAPAN SEARCH(ジャパンサーチ)

JAPAN SEARCH(ジャパンサーチ)

M:タイムリーなこととしては、最近の出来事ですけれども、ジャパンサーチというデジタルアーカイブのポータルサイトがオープンしました。まだ認知度は低いと思いますが、アメリカだったらgoogleみたいな検索エンジンがデジタルアーカイブを引き受けています。また、アメリカにはデジタル公文書館図書館みたいなものもある。ヨーロッパにはヨーロピアナという、いろいろなアーカイブ機関を統合的に検索できる検索エンジンがあります。これまで日本にはそれがなかった。単純に検索エンジンはあったけれども、各アーカイブ機関を横断的につなぐようなポータルサイトはなかったわけです。それが最近、それらを成し遂げようとしている検索エンジン・ジャパンサーチができた。このシステムに乗れば、アクセスもしてもらえると思うんですけれども、そのシステムとの連係も考えられていますか。

MK:はい、そうですね。ジャパンサーチも、まだまだこれからのデータベースになってくると思います。スポーツに関する内容というと、国立国会図書館の本から来ている情報などが、検索すればヒットするようにはなっているのですが、スポーツに特化して、なおかつスポーツの実物資料といったことを調べようとすると、なかなかうまく検索することができない状況だと思います。当館のようなスポーツに特化した資料を持っている博物館が、その中に参加していくことで、スポーツに関する資料も横断的な検索の中で出てくる状況にできればと思っております。

M:ぜひ、皆さんもジャパンサーチでスポーツ、あるいはテニス、相撲など、いろいろなスポーツのキーワードを検索してみてください。バラエティ豊かな資料が出てきます。まだまだ少ない状況ですが、これから村上さんたちのご活躍によって、どんどん資料がアップロードされていくはずですから、ぜひ楽しみに待っていたいと思います。

町田(以下M):最後に、博物館が目指すべき姿についてお話を進めます。休館しているとはいえ、スポーツアーカイブの振興のために、様々な取り組みを精力的になされており、その中で博物館を超えた連係も築かれています。

町田樹による基調講演「アーカイブが拓くスポーツの未来」

町田樹による基調講演「アーカイブが拓くスポーツの未来」

新名(以下N):我々の博物館だけではなく、実はスポーツに関係する資料を持っている博物館ではないけれど関係機関や、個人の方が所有しているものもあります。それを散逸せず、国内に保存しつつ、皆さんに知ってもらう。活用していく体制を作っていきたいと思っています。全国的なスポーツに関する資料のネットワークを築く一環として、昨年度からオンライン等々ではありましたが、資料を持っている機関とお話をしました。どういうふうに資料を保管しているのか、どんな活用方法をやっているのか。そして、保存という観点でのワークショップ。昨年度、町田さんにも基調講演をいただきましたが、課題をもっと広く共有するために、一般の人にも入っていただくオンラインのシンポジウムを開催しました。それぞれに抱えている「悩みが同じなんだ」ということや、お互いの顔が見えると離れているけど「一緒にがんばっていこう」というような空気が生まれていきます。教育的な啓発やお互いの意識化は、これからもできるだろうと思います。

M:加えて、ミュージアムの連係だけではなく、資料を学んだり、資料を勉強に役立てたりということで、大学生や次世代のスポーツ科学を専攻するような学生、そういう方々にもゼミ単位で、資料をどのようにアーカイブするのかを体験していただいたりもしていますよね。

N:大学の先生にも入っていただいていますね。ここに引っ越してからは、なかなか実現できていませんが、以前は近隣の学生さんを連れてきてもらって、具体的な資料の整理方法を一緒にやってみることは行っていました。スポーツに関する資料を取り扱う人員が全国的に少ない状態なので、仲間を作っていきたいですし、それは本当に切に願っているところです。

M:アーキビストになった気分で散策、見学をさせていただきましたけれども、いろいろな資料に立ち会えました。自分たちの研究にも活用できてで、一般公開するために、いろいろな展覧会も企画し、制作する。本当にクリエイティビティの必要な魅力的なお仕事ですよね。もしかしたら次世代の若きアスリートやアーカイブ学を専攻されている学徒たちが、スポーツアーカイブを取り扱う学芸員になりたいと志を持った場合には、どのようにしたらいいのでしょうか。

MK:アーキビスト学芸員の必須の条件としましては、学芸員資格が一つにあります。

M:ちゃんと資格があるんですね。

MK:はい、そうです。学芸員資格は様々で、いくつか取る方法があります。最もメジャーな方法は大学過程、学芸員過程が多くの大学にはあると思いますので、そこで授業を受け、実習を行って、最終的に認定をいただくという流れ。それが一番メジャーかと思います。そのほか、スポーツ博物館でアーキビストになるためには、スポーツに関する知識があることが望ましいですが、スポーツに特化して学芸員をやっている方は非常に珍しいですし、博物館以外でそういった経験をお持ちの方も少ないです。

M:だいたいアーキビスト学芸員は、ミュージアムや美術館、アートを取り扱っています。

MK:美術だったり歴史だったり、そういう方向の専門分野をお持ちの方が多いと思いますが、スポーツの知識となると珍しいです。ただ、それでなくても、アーカイブに関する知識があって、なおかつスポーツでのアーカイブに興味を持っていただければ、スポーツでのアーキビスト学芸員という選択肢もあると思います。

M:一人でも多くのスポーツアーキビストが仲間になって、課題がたくさんあるスポーツアーカイブをどんどん発展・振興していくような環境が生み出せたらいいですよね。今回はスポーツアーカイブの魅力、可能性もたくさん体感できました。それと同時に未来へと末長く継承していくためには、私たちは乗り越えなければいけない課題・問題点がたくさんあるということもまた、知ることができました。本当に貴重な機会をいただき、どうもありがとうございました。

総括

皆さんいかがでしたでしょうか。国内のスポーツアーカイブを牽引している秩父宮記念スポーツ博物館・図書館。現在は休館し、倉庫で資料を保管されています。資料の魅力、可能性から資料を活用する際の問題点、様々なことを学芸員の先生から学ぶことができました。

人間は無から何かを想像することはできません。必ず、先人たちの知恵、先人たちが出したクリエーション、そのものの上に、新しいクリエーションを創作することができるわけです。ですから、アーカイブは未来を作る礎になります。もちろんスポーツ界も同様です。ですが、今、博物館では数名の学芸員の方々がこれだけの資料を集めて、そして、守られています。でも、それは彼ら、彼女たちだけでは、乗り越えることができない課題もたくさんあることも確かです。ですから、スポーツ界全体でスポーツアーカイブの問題を取り組んでいかなければいけません。大事なのは、一人ひとりがスポーツアーカイブに関心を持ち、行動を起こすということ。それを、多くの方々にお伝えできれば、これ以上嬉しいことはありません。それでは秩父宮記念スポーツ博物館・図書館特集のスポーツアカデミアを終了したいと思います。ありがとうございました。

文:J SPORTS編集部

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