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フィギュア スケート コラム 2022年7月29日

#7【鼎談】町田樹 × 水鳥寿思さん × 赤平大 ー「AI採点」についてー(2) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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AI採点に関して

AI採点に関して

北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。

ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。

AI採点について取り上げている今回は、赤平大アナウンサーとともに体操の水鳥寿思先生をお迎えしています。ここからはAI導入のメリット・デメリットについてお話を進めていきます。

町田(以下M):国際体操連盟の会長は渡辺守成さん。日本人の方がトップに就いていて、富士通という日本の企業が入っています。トップに誰が座るかということと、AIの開発は関係がありますか。

水鳥(以下H):ものすごくあると思います。かなり大きな改革だと思うんですね。誰でも推進できるかというとそうではないですし、むしろ限られた人しかできないんじゃないかなと思っています。渡辺会長はそうした推進派、改革派だと思いますので、彼にしかできないチャレンジじゃないかなと思います。

M: AIを企業とタイアップして開発していくことはもちろんだけれども、組織としてどう考え、議論して意思決定していくか。それは組織論の問題でもあるわけですよね。では、そのAI採点ですが、これまで試験運用ないし、サポーターとして運用してきて、水鳥先生が考えるメリットや、今後もっと改善した方がいいというところをお聞きしたいと思います。まず、AI採点はどのような可能性を秘めておりますでしょうか。

AI採点の可能性と今後の課題

AI採点の可能性と今後の課題

H:可能性についてですけども、我々も競技をしながら、たくさんの課題を感じているんですね。例えば、世界選手権の予選日は朝9時から夜10時まで試合をしているような形です。ジャッジのスキル云々ではなく、人間の限界として「朝9時〜夜10時まで同じ採点ができますか」というようなところを問われたときに、やはり疑問がある。いくら能力を高めても、集中力や人ができる限界にも近づいていますし、あるいは限界を超えているのではないかというような懸念があります。我々も、この演技が世界選手権で本当に評価されるのか、国内だったらされたけれども、海外でされるのか...そういったことを疑問に思いながら競技をしているんです。

つまり同じ演技をしたとしても、大会やジャッジによって出てくるスコアが変わるという認識を我々が持っています。同じ演技をしても同じ評価にならないという課題。あるいは現実的な大会運営で、朝に演技をするのと夜に演技をする場合、受ける点数も変わる可能性があるし、ジャッジとしても人の限界を超えている。そういったところをAIで同じように採点ができるとなれば、練習のときにそのAIのシステムを使って、これは良い評価だ、これは悪い評価だということをしっかり分かった上で、安心して競技会に行くことができます。評価される演技をしっかりと突き詰めよう、それをやりきればちゃんと結果が出る。これがはっきりしているのは選手としてもいいことですし、競技としても非常に明確でクリアになります。そういったことがAIを導入したことによって期待ができる部分になると思います。

M:確かに朝から晩までというのは、労働基準法を超えていますよね。昨今、働き方改革が叫ばれている中で、ジャッジの働き方を変えていかないといけないということもあります。実はフィギュアスケートも全く同じ問題を抱えているんですよ。朝から晩まで同じカテゴリーの選手。特に女性カテゴリーが多いんですけれども、朝から晩まで寒い中で採点をしなければいけない。公平にしたくても、疲れや集中力が切れて誤差が生じてきます。これをAIがカバーする可能性があるわけですよね。

H:集中力や疲労というところもあると思うんですけども、100人いる1人目がものすごく完璧な演技をしたとします。これは誰にも超えられないんじゃないか、というような演技をしたとしても、残り99人がいると思ったら余力を残さないと頭打ちになってしまう。それを超える選手が出たときに超える点数も出せなくなります。そういう恐れがありますよね。そうした心理的な部分も非常に関係してくるのかなと。仮に競技時間が短くなったとしてもハードルはずっと残ってきます。そういう懸念もあると感じるんですよね。

M:どの種目でも、最初に演技する人が損だと言われています。

H:そうですね。基準点と言われます。

M:そうしたネガティブなところを解消できる可能性はありますよね。反対に課題だと感じておられるところは、どういった点でしょうか。

H:そうですね。課題はいくつかあるんですけれども、まず単純に体操というのは、見ている方もまだまだ理解ができない。すごいんだけど、何がすごいのか分からない。「すごい」の違いが分からないということがあります。男子で言うと、今700〜800程度の技が存在していて、それを機械学習としてラーニングさせる部分がまだまだ難しい。世界で一人しかできないような技も実際にはありますし、今、誰もやっていない技でも、採点規則にのっていたりするんです。これをどうやって深めていくのか、精度を出すところの学習の課題は非常に大きいです。正確性に疑問がついてしまうということが、課題としてあります。

また、定量的に角度を定義し、計測をしていくわけですけれども、体操でも先ほどお話をした15度に満たない場合は減点をしない、それ以上は0.1を減点します。採点の中では15度が基準になっているのですが、実際に人間が見たとき、これは減点をしなくてもいいよねという場合があります。つまり15度未満に収まっているというところで人が思っている15度や、あるいは、2秒静止しなければいけませんという、この2秒の印象が実は違っていることは、かなりあるということが分かってきているんですね。つまり1.8秒でも、多くのジャッジは減点しなくてもいいんじゃないか、というような採点を実はしていたというようなことがあります。実際にAIで採点することに合わせた時間調整、角度調整をしていないことによるミスマッチが非常に起きています。このまま本当にルールブック通りの採点をすると、かなりかけ離れた点数が出てしまう。これはどちらが正なのかといったところのすり合わせが、まだまだ課題としてあります。

M:ということは、本当にそのルールでいいのかということを、人間がもっと考えていかなきゃいけないということですね。

H:おっしゃる通りです。まずはこれを定量的に、実際に評価をしたときには、こうなっていますということをしっかりと確認した上で、本当に角度の減点は、その定義でいいのか、そういうことを考えていかなければいけません。ですが、評価がないままに、15度、30度、45度ということを決めてしまっているというところです。定量的にすることは、競技の透明性が重要ではあるんですけれども、そうした評価をした上での決定ではないということになっています。

M:最初にAIのプログラミングをするのは人間だから、何が美しくて、どこに欠損があるのかという部分を、人間が明確に定量化したり、あるいは定義してAIに教え込むという作業があって、初めて正しくAIが導入できるということですよね。

H:そうですね。これをやっていくと、いろいろな課題が出てきます。例えば15度というのは、実際にどことどこを結んだところから見た15度なのか。そういうことも、実はしっかりと定義ができていなかったという項目もたくさんあるんですよね。だから、AIを導入するにあたっては、事前にそれを基にしたルール改正をしっかりと念頭に置かなければいけないのですが、まずはそこに向けて全体の気運の情勢というところも、まだまだ課題なのかなと見ています。

M:よくわかりました。ありがとうございます。

赤平(以下A):今のお話の通りだと、AIによって定量化することによって、いろいろなものの良い悪いが湧いてきて、客観的に見える化していくんだろうなと。それは我々ファンとしてもそうですし、ジャッジもそう。指導者もそうですよね。指導する上でコーチングするときに、この角度になればいいよと、指導しやすくなるのかなと思います。

H:おっしゃる通りです。それはありますね。AIの採点に関してメリットとしてあるのは、指導のところや、練習したことがそのまま評価され、反映されるというところです。それはトレーニングに有効じゃないかという部分は実際にあります。もっと発展的なトレーニングでの活用になった場合、例えば技そのものではなく、その一つ前の動作で、こういう動きをしている選手は高さが出しやすいということが分かったりすると、ただ評価をするだけではなくて、その前の動作、例えば「体を少し弓なりにした方がいいですよ」とか「少し高めから入った方がいいですよ」みたいなことも見えてくることがあったりします。あるいは、怪我のことを考えたときに、力任せにやっているような練習に関しては怪我につながりやすかったみたいなことも、もしかすると見えてくるとトレーニングの中で効率的なものになっていくという期待もあります。

視聴者からTwitterで届いたご意見

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「フィギュアスケートは最近になって、AIを試験的に導入しているようですが、早く取り入れていた体操競技から見て、これは難しいなと思う点や、ここは早く取り入れた方がいいという点を聞いてみたいです」

M:今の話を聞くと、例えば、ジャンプの回転数はどうなのか、スピンの回転数はどうなのか。ミリ単位でずれただけで、レベルが上がったり下がったり、ジャンプがダウングレードしたりするわけですよね。選手の運命を左右してしまう、そういう細かな判断をジャッジが肉眼でやっている。スローモーションや機械を導入してやるといっても、やはり人間ですから、どうしても誤差は生じるわけですよね。そこにAIを導入する。比較的良い悪いを定義しやすい美しさについてはAIも得意だと思う一方で、やはり、芸術展的という概念を定義することができない。定量化することができないような美しさの価値観みたいなものは、AIは苦手ですよね。だから、AIで採点させるべきところと人間がやるべきところを明確に線引きして、やってもらうべきところは人間よりもAIが優れているので、全幅の信頼をおいて任せるスタンスが必要だと思うんですよね。

「AI採点はフィギュアスケートにおいてはまだまだ未来の話ですから、体操界の話を聞くにリンク30メートル×60メートルをカバーするのは難しそう。ただ、技術の黎明期の段階から、いずれ取り入れるための検討を重ねていくのが大切だと思いました」

M:体操もあん馬やつり輪など、エリアとして動いてないような競技種目に対してはまだ適用できるけど、10〜13メートル×10〜13メートルの四角いエリアでさえ、まだまだカバーが難しいということですよね。

H:技術は進歩しているだろうと思いますが、今、レーザーでやっているものの限界というところが一つにあります。それが徐々に、カメラに変わるという技術革新が行われてきていると感じています。ただ、町田先生がおっしゃるように美的の部分はその通りだなと思いました。

M:例えば体操界の中にもAI採点に賛成的な人もいれば、ネガティブな見解を持たれる方もいらっしゃいますよね。それはどのように折り合いをつけているのでしょうか。例えば連盟や協会の中でも二分されたりしていると思いますが、そういうこともマネジメントしていかないと、フィギュアスケートの場合で言う審議事項が通らないわけですよね。

H:はい、そうですね。

M:反対派はどういうことを懸念されているのでしょうか。

H:機械が体操の芸術的なところを評価できるのかというのはあります。一番は審判の価値。死活問題なわけです。そこをAIにとって変わられるんじゃないかというような部分。ビジネスの中でもあるように、機械になって人がいらないのではというようなところの感情的な部分もあります。それを自ら決めなきゃいけないという課題感は非常にあって、これを動かすというのは非常に難しいだろうなと。これは助けになりますよというようなところをしっかりと明確にしていくことが、まず第1歩なのかなと思います。

M:VSの関係ではなくて、あくまで相互補完の関係ということですよね。

文:J SPORTS編集部

J SPORTS編集部

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