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#5【対談】町田樹 × 高岸直樹さんー「演技構成点」についてー(2) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
今回お迎えしたのは、高岸直樹先生です。東京バレエ団に所属していたプリンシパル・バレエダンサー。ミラノ・スカラ座など、歴史ある劇場でも客演。海外でも活躍されていいます。ダンスアトリエ主催ダンスコンクール審査員でもいらっしゃいます。
今回はフィギュアスケートの演技構成点におけるルール改正について、バレエ界の視点を伺います。
フィギュアスケートのルール改正について
演技構成点の採点基準改正案 【1】コンポジション
町田(以下M):実は今回、フィギュアスケートの演技構成点に関して、大幅なルール改正が審議されています。審議なので可決されたらルールが改正されますし、否決されたら、これまで通りの芸術点の評価基準なんです。7月まではどうなるか分からないですけれども、改正されるだろうとの見込みの新しいルールについて、先生に見ていただきたいと思います。まず、一つ目のコンポジションですが、主に振り付け。動きがどのように構成されているのかということを見ていく項目なんです。バレエのコンクールでは振り付けの採点は、先ほどの項目で言うと、どこに入ってくるのでしょうか。また、振り付けというのは決められたバリエーションなので、そもそも評価対象に上がってこないのでしょか。
高岸(以下T):ロイヤルスタイル、ボリショイスタイルという作品によっても違ってきますよね。それを各自が選んでくる場合がほとんどですし、良くないことなのかもしれないけども、各自がアレンジして作ってきてしまう。クラシックバレエでもやはりそういうところは統一性やバランスは良くないので減点という形になってきます。
M:フィギュアスケートの場合は振り付けをゼロから作って出していくので、振り付けそのものがどうなのかということは、大事な評価基準になります。一方で、バレエの場合は、バリエーションが決まっている。つまり振り付けの型がいくつかあって、その型をダンサーは基本的に表現するために、基本の振り付けの型がちゃんと統一的に表現されているのかどうか。ダンサーが独然的に自分勝手に踊ってしまっては、やはり振り付け的なところの評価が下がってしまう。
このコンポジションに関しては、スケーターの能力だけではないということです。つまり振付師がどんな振り付けを作ってくるのかというところが大事になってくるので、建前としては、スケートのパフォーマンスで評価をするということになっていますけれども、実際には、このような定義に即して評価した場合には、そのバックにいる振付師の能力までもが評価対象になってしまっているということなんですよね。
T:厳しいですね。
演技構成点の採点基準改正案 【2】プレゼンテーション
M:そこは少し違いますよね。では次、プレゼンテーションです。音楽とどれだけ調和できるかということだと思いますが、音楽が強い時にはアクセントをつけながら動いていくだろうし、そのコントラストを明確に動きで表現できるかというところが2番目の項目になってくると、私は考えています。
T:それこそ本当に芸術を評価するみたいな感じで、素晴らしいですよね。
M:先生がおっしゃっていた音楽性の部分は、ここで評価できますよね。
T:そうですね。
演技構成点の採点基準改正案 【3】スケーティングスキル
M:それでは最後の項目です。最後はスケーティングスキル。これはもう読んで字のごとくですね。スケートのスキル。滑りのスキルです。確かに技術ですけれども、このジャンプをやったら何点というように明確な価値を定義付けられるような技術ではないというものです。速ければいいというものでもないですし、いかに速いところと遅いところのコントラストをつけるか。そういうところもあるので、正解がない技術ということです。これは芸術点に組み込まれているというものだと、私は認識しているんですけれども、実際に、これは芸術点と技術点の間にあるような点でもあるのかなと。
T:音楽性が豊かでも、バレエでいう基本動作がしっかりしていなかったら、的確な言語として見ている人に伝わらないと思います。両方が兼ね備なわないといけないなと思います。
M:独立している項目ではないということですよね。改正されると、この3項目でフィギュアスケートの演技構成点と呼ばれるものは評価されていきます。バレエコンクールの審査員として、過不足ないでしょうか。
T:驚きました。すごく豊かな先行基準のようなものですし、芸術性を重んじているので、芸術性に優れたスケーターが増えてくるんじゃないかなと思いました。
M:本当のテクニカルスコア...ジャンプ、ステップみたいなところと演技構成点は相関関係にあって、どうしても技術点が高いと、それに引っ張られるように芸術点も上がってきてしまいます。先生は、ある意味これは必然だとお考えになりますか?
T:そう思います。
M:先生のそうしたコンクールの審査員としてのお考えと、バレエダンサーを教育する指導者の観点。2つの観点からフィギュアスケートの演技構成点についてディスカッションをさせていただいたんですけれども、私自身もいろいろな気づきがありました。ジャッジをする方々がこれを見てくださったら、ダンス、あるいは芸術としての舞踊の評価はこんな風に審査されているんだと、いろいろな気づきが得られると思うのではと思います。ぜひ広く、この対談を発信していきたいですね。貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
T:こちらこそ、ありがとうございました。
総括
まとめ【1】
実は高岸直樹先生は、私のバレエの師匠でもあるんです。週に4回レッスンをしているのですが、今日は、その関係としてではなく、バレエコンクールの審査員としてなど、いろいろなお立場からのご意見をたくさん聞きました。私自身もコンクールの評価基準について会話することがほとんどなかったので、様々な気づきを得ることができました。
フィギュアスケートの評価基準についてですが、今回、5項目が3項目になりました。採点項目は削除されたのではなくて整理統合されたという解釈が正しいです。ただし、私が今回の改正で気になったのは、削られている項目も確かにあります。それはどういう項目かと言うと、評価するのが難しい概念が削除されていて、例えば美しさ。美しいと一言に言っても、実は美学の領域で2種類あるとされています。一つが美的。エステティックですね。もう一つが芸術的。アーティスティック。この二つがどうかと言うと、まず美的は、ポジションの美しさ。理想系があって、そこにいかに近いか遠いのかで判断されます。あるいはジャンプが高いか低いか。音のリズムにちゃんと合っているか。こういうことが美的の中にはあります。つまり比較的何が良くて、何が悪いのかという定義がしやすいんですね。だから、良い悪しを簡単に価値判断しやすい。
対して芸術的という概念は、芸術史との関係性で立ち現れる味わいや文脈的な知識があるかないかによって変化するような美的な価値。例えば、披露された演技に対して、その創作の意図を全部知っている上で評価するのと、初見で評価するのでは全然感じる味わいが違うわけです。こうしたものは、良い悪しを一律で定義することがやはり難しい。言ってみれば不可能なんですね。やはり評価をする、見る人たちの教養の度合いによっても、その美的な価値を感受できるか否か。その度合いというのも変わってくるわけです。
今回の改正を見ると芸術的という価値判断のところが簡素化されているような感じがして、若干美的の方が優勢になっている。そういう構図が強まってきている印象を受けました。
まとめ【2】【3】
そして今回、バレエから私たちが学ぶべきことが二つあります。
まず一つは、採点・評価には教育的価値があるということです。ジャッジは、どんなところが良いとか、どんなことを直すべきかなど、一人ひとりジャッジのスコアシートにその都度書いていると岡部先生もお話されていました。理論的には高岸先生がおっしゃっていたように、フィギュアスケートでも講評制度を導入できる可能性があるわけです。ですからバレエコンクールのように、後から選手に「あなたはどこがいい」「あなたはどこが課題だよ」ということを知らせる講評制度を取り入れてもいいのではないかと思います。
それから、もう一つ。採点基準が大事なのは当然ですが、それと同等に誰がその採点基準を運用するのか。誰が採点するのかということも重要です。つまり、いかに評価者の審美眼を育んでいくか。これからのフィギュアスケートのジャッジには、どのような知識が必要なのかということをしっかり考えて芸術点を的確に評価できるジャッジを育成する。どのように育成するのかということも含めて、私たちは、考えていかなければならないということだと思います。
視聴者からTwitterで届いたご意見
「音楽の解釈の採点基準とはなんでしょうか。得点だけでは分かりづらく、演技構成が事前申告されているのでしょうか。音楽、衣装、振り付けのコンセプトなどを事前に知った上で、表現の達成度などを採点しているのか気になります」
まさに解釈のインタープリテーションの採点基準。インタープリテーションはプレゼンテーションという中に統合されたんですけれども、定義は先ほどご説明した通りです。ただし、私たちが演技をする時、事前に提出するのは音楽の曲名だけなんですよね。ですから、そういう美的な背景みたいなものは何も提示できないので、ここを、先ほども言ったように、どのように文脈までを評価できる人を育んでいけるかということだと思います。
「PCSのインタープリケーションやコレオグラフィーを評価するには、曲の背景や、振付師の設定するストーリーを知っているか否かで決まってくると思いますが、その点いかがでしょうか」
その通りです。ですから、テストしてみてもいいんじゃないかと思うのが、振付師や選手が、その演技のコンセプトや趣旨を、400字くらいにまとめたものを事前に提出する。ジャッジはそれを読んだ上で評価してみるということも、一つの方法としてはありなのではないか。そう思うこともあります。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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